71、そこに見えたは。
気が付けば十数体の骸骨に囲まれている。どうやら一定の距離まで近付くと襲ってくるらしい。それは視界に入ると、という訳ではなさそうだ。俺達に反応している個体の後方には、宛もなく右に左に徘徊している奴が沢山見える。まぁ・・・そうだろうな。どう贔屓目で見ても彼等に目があるようには見えない。そして何かしらの意思があるようにも感じないしな。あくまで俺の推測でしかないが、命あるものに、生命力のようなものに反応しているんじゃないかと思う。という事は、こっそり背後を通り抜ける事も難しそうだ。・・・厄介な事だな。
「どうした。骸骨を目の当たりにして、怖気づいたか。」
前世の俺だったら、おそらくこんなに冷静ではいられなかっただろう。極限まで追い込まれれば、掴んで投げる位の抵抗はしたとは思うが。できれば遭遇もしたくなかっただろうな。・・・実際、前世では一度も出会っていなかったと思う。・・・多分な。
「ちゃうわ。・・・いやなぁ、人間って意外と大きんやなと思うて。」
そう言いながら近くの骸骨を見上げている。
「俺達兎から見れば、かなりの大きさだな。」
俺達の大きさなど彼等からすれば、赤ちゃん・・・いや、その赤ちゃんより小さいくらいだろう。例えるなら・・・そうだな、丁度兎位の大きさだろうな。俺の場合は角が付いてはいるが。
「・・・立体機動装置を作っとくべきやったかなぁ。」
「気持ちは分からんでもないが、直接蹴り飛ばした方が早そうだな。線を引っ掛ける場所もなさそうだし。」
俺達に向けて振り下ろされる刃を避けながらのくだらない会話をする。意思のない単純な動作の繰り返し。それも酷く鈍いから躱すのはそう難しくはない。だが多数に囲まれれば逃げ場が無くなってしまって詰みって事になるだろうな。
「確かに。・・・でもやぁ、なんかちょいと人間を殴るんは、気が引けるわ。」
言われて見れば、そんな気がしないでもない。というよりも、クロトに言われるまで気にもしていなかった。魔物になった事の影響か。少なくとも今の自分が人間だという認識は無に等しい。元人間だった自覚はあるが。その辺りの現実の受け入れ方がクロトとは若干の差があるのかもしれないな。ただ俺だって相手が本当に人間だったら躊躇いもあるとは思うが。
「元、人間だ。だから気にすんな。あんまり気にし過ぎると大怪我するぞ。」
「わかっとる。」
分かってはいても気持ちは揺らぐ、か。あっさりと受け入れてしまっている俺の方が少し狂ってしまっているのか。
「じゃぁ・・・こう考えたらどうだ。死してなお意味もなく誰かを襲わされてる彼等を・・・。」
「助ける・・・っちゅう事か。そんならできそうや。」
「それが救うって事になるかは分からないが、この状況はあまりに不憫だ。と、俺は思う。」
流石に今すぐ全部をとはいかないが、それはおそらくこの先にある何か、つまりこの状況を生み出している原因を排除する事ができれば解決するんじゃないかと思っている。
「ありがとな、イッスン。」
「さっさと蹴散らして先に進むぞ。」
にしても数が多い、面倒だな。かと言って、対処の仕方も今の所分からない。・・・まずは、一体ちゃんと相手をしてみるか。
正面の骸骨の足元に滑り込む。骸骨の左足を内側から右足で蹴り払う。その骸骨は体勢を崩し予定通り仰向けに倒れる。流石にこれで関節が全て外れてしまう程脆くはなかったか。転倒した骸骨の右足を両腕で抱え込むように掴む。そのまま思いきり身体を回転させる。
ーー《白兎流格闘術・ドラゴンスクリュー》ーー
骸骨の股関節から右足の骨が外れる。その外れた右足を抱えながら地面に着地する。魔物の骨で慣れているせいか、人間の骨にのも不思議と不気味さや恐怖を感じない。今掴んでいる足の骨を眺める。後生大事に抱えている必要もないので、無造作に地面に落とす。心情としては手厚く葬ってやりたいところだが、残念ながらそんな余裕は、今はない。
「どないしたら止まるんやろなぁ・・・。」
「今検証中だ。」
クロトが相手をしている骸骨は既に頭が無い。横目で見ていたが、初手で綺麗に頭を殴りつけ、何処か遠くへ飛ばしていた。だがその骸骨は動きを止めることもなく、そしてクロトを見失う事もなくクロトを狙い持っている獲物を振り下ろし続けている。先程俺が放り投げた骸骨の右足に再び視線を落とす。・・・動いてはいないし、動き出す気配もない。右足を取り外された骸骨本体の方は、立ち上がろうととしているのか、のたうち回っている。どうやら骸骨本体から物理的に切り離された部位は本来の骨に・・・戻るという表現が正しいかは分からないが、戻るらしい。少し安心なお知らせだ。切り離された部分が個別に襲い掛かって来たり、損失した部分を際限なく再生されたりしたら、厄介な事この上ない。
「何か核みたいんがあるんか。」
だろうな。そしてそれは手や足や頭には無いらしい。おそらくは上半身だと考えられる。・・・しかし、俺もクロトも揃ってその発想になっているとは。知識の共通部分が多いのと、その重なっている部分が特殊という事だろうか。・・・多分正解。
のたうち回っている骸骨に近付く。接近すると両腕で俺に向かって襲い掛かろうと更に藻掻く。動き自体は鈍いが、それでもこうも暴れられると仕留め難い。かといって、その為に残った手足を解体してしまうのも忍びない。・・・あれか。
鎖骨の下辺り、胸の骨に隠れる様に卓球の球大の小さな赤い球があるのが見える。赤い煙が集まって小さな球を形成している。おそらくこれが元の魂が天に還って抜け殻になってしまった亡骸に無体な仕打ちを強いているのだろう。こいつをなんとかすれば・・・良いはずだ。さて、俺に邪を払う様な真似が出来るだろうか。そしてこれに直接触れてしまって大丈夫なのかという問題はあるが。
「・・・迷ってる余裕もないか。」
相手をしなくてはならないのはこいつだけでもない。心の中で「許せよ。」と呟きながら、素早く藻掻きながら俺を襲おうとしている骸骨の胸元へ拳を突き降ろす。
ーー《白兎流格闘術・星拳突》ーー
おそらくこんなにしっかりと技を放つ必要はなかったように思われるが、初めての経験だ、念の為の意味合いも大きい。それでも自分の想定よりも簡単に骨は砕け散った。そのまま俺の拳は標的の赤い球を捉える。確かにそこにあるのに、なにもないような感覚。それでいてそれを確かに砕いたような、霧散させたような感触も拳に伝わる。そして、なんの根拠もないのに、それを確かに払ったという確信も得る。その骸骨は事切れたみたいに動きを止めた。その後、何かから開放されたかの様に静かに崩れ去った。・・・ようやく静かに眠れるのかな。
立ち上がりながら顔を上げてクロトを探す。どうやらあちらも気が付いたようだな。クロトの目の前の骸骨が灰になって風に消える。
「見つけたか。」
「どうやら正解だったみたいや。」
普通に考えたら骸骨の対処法など簡単には思いつかないだろうに。まさか前世の偏った知識が生き抜くのにこんなに役立つとは思いもしなかった。
「倒す方法は分かったが・・・。」
「これを全部相手にするんは無理やね。」
俺達の周りにいる位の数で良いなら、どうとでもなりそうではあるが。視界に写る数を見るとやはり御免被りたい。
「そうだな。・・・本心を言えば、全部開放してやりたい気もするが。」
「せやねぇ。ほんなら、ちゃちゃぁっと解決してまえばええんちゃうか。」
「それが一番良いんだとは思うんだが。・・・ま、やるだけやってみよう。」
クロトの言う通りにできればそれが一番良いに決まっている。そう簡単にいくとは思えないが、それでも楽観的で前向きな考え方は助かる。変に暗くならずに済む。どうしても事態は最悪を見越して、という癖が付いてるからな。その考え方や意識は決して悪いものではないと思っているが。
「しっかし数が多くて面倒やねぇ。次から次に寄って来よる。」
お互いに接近してくる骸骨を少ない手数で大地又は天に還しながらどうしようかと思案する。大技でまとめて蹴散らして道を作るか、それともなるべく相手にせずに目標地点に向かうか。
「仕方がない。法術はあんまり得意じゃないんだけどな。」
掌を胸の前で合わせる。
「なにする気や。」
「ちょっと無理矢理だけど、道を開けて貰おうと思ってな。」
俺の周りに複数の法術で作り出した球が現れる。
「なんやそれ。この前は使うてへんかったやんか。」
「法術は不得意なんだよ。一対一にも向いてないしな。」
「それの何処が不得意やねん。」
「ただの法術・・・法力っていうのか・・・の無属性の球だぞ。これを細かく制御する訳でもないしな。」
「うぅん・・・それでもわいよりは得意そうやんか。」
クロトはどう見ても接近戦重視って感じだからな。俺もクロトの事を言えないが、それでも興味がない訳でもないから、多少は工夫やら練習やらはしたから、その分の差かな。
「お前だって、炎の拳を使ってたじゃないかよ。それでよく言うよ。」
「・・・わいは、遠くに飛ばせん。明後日の方向に飛んでってまう。」
「・・・うん。お前は危険だから法術は控えよう。」
「皆にもそう言われんねん。・・・せっかくやから使うてみたいんやけどなぁ。」
そうだよなぁ、せっかく法術や魔法のある異世界に転生したなら、使ってみたいよなぁ。それにクロトの陣営には法術使いの数が少なそうだもんな。
「・・・っと、この話はまた後だな。行くぞ。」
ーー《白兎流法術・兎玉散弾射》ーー
十二個の兎玉が取り囲む骸骨達に向かって飛び散る。
「良し、走れ。」
まともに命中したかも確認しないまま、走り出す。なぁに、正面の二体に命中すれば特に問題はない。
「よっしゃ。」
クロトも俺の合図に合わせて前方に飛び出す。行く手を塞いでいた二体の骸骨は、俺達が目の前を通り抜けるのと同時に音も無く崩れ去った。上手く狙い通りに命中したらしい。俺達はそれを横目で確認しただけで、立ち止まる事も振り返る事もせず、真っ直ぐに目標地点へと走り続ける。
全ての骸骨の探知範囲を避けて通り抜けるなど始めから不可能な事は承知の上。むしろ俺達の車線に入る個体には此方から積極的に接近して速やかにお還り頂いている。一言の打ち合わせなどしてはいないが、クロトと呼吸を合わせ最小限の撃破をしながら今出せる最高速で直進する。
「わいの速さに付いて来られるとは、やるやないか、おっさん。」
右の拳で強烈な一撃をかましながら横目で俺を見ている。
「始めに言ったろ。足には自信があるって。」
そもそもどんなに身体の強度を上げたとしても、耐え切れなければ命を危険に晒す事になる。故に俺は回避する事に重点を置いて此処まで生きてきた。勿論、この世界では、だが。
「蹴りだけちゃうんかい。」
「だって、当たったら痛ぇじゃねえか。」
「・・・それはそうやね。それはわいも知っとる。」
「だからだ。赤い人も言ってたろ。当たらなければどうということもないって。」
「それが簡単にできたら苦労せんっちゅうやつや。」
「それに俺達は他の魔物に比べて小さいだろ。その利点を生かさないとな。」
「ま、わいも軽めのは腕で受けるくらいで、後は回避やけどな。」
左足で大地を蹴り跳び上がり、右足での後ろ回し蹴りを通りすがりに決め、骸骨を一撃で沈める。
「・・・おかしいな。」
「何がや。」
元凶の中心に近付いているのは間違いないはず。その中心から感じる圧のようなものも徐々に強くなっているのも感じる。だが、こんなに微かなもので良いのだろうか。何か違和感がある。俺の考え過ぎか・・・。
「確かに近付いてるはず・・・だよな。」
足を止めずに疑問を口にする。
「・・・と、思うで。ちゃんと近付いとる気配はしとる。」
俺の疑問に疑問を重ねる。クロトも距離が縮まっている事は感じ取っているみたいだ。という事は、俺の感覚も間違ってはいないはず。ならば尚の事、今抱いている違和感が強くなる。
視線を動かして見渡せば、かなりの数の骸骨を確認する事ができる。これだけの数の不死者を生み出す力がこんなに微かなものなのだろうか。
「俺が想像してたより遠くにいるのか・・・。」
「・・・確かに、妙やね。わいにも大体の場所は分かっとるつもりやったけど。」
やはり俺達の探知能力に大きな差は無さそうだ。そう・・・俺にも、この中心の大体の位置は把握できているつもりだった。距離感や空間把握の技能を取得している。この技能があってその位置が大きくずれるとは思えないんだが。そう思いたくないだけ、って事は無さそうなんだけど。
「かなり近付いたはず・・・だよな。」
クロトは些か緊張感の増した表情で頷く。
「その割には、感じる力が小さ過ぎる気がする・・・。」
「・・・別のとこに誘導されてるっちゅう事・・・でもなさそうやし。」
そう、そこも疑問の理由の一つ。何故そう感じるのかという理由は説明できないが、確かにこの先にそれがあるという感覚はある。その感覚自体が間違っていない保証もないが。
「おい、クロト・・・。」
眼前に広がる景色に足が止まる。ほぼ同時にクロトもその場に止まる。
「なんや・・・あれ・・・。」
白い。綺麗に線を引いてあるみたいに、ある地点から向こう側が白く染まっている。・・・実際は白く染まっているのではなく、無数の骨が、骸骨が、その線の向こう側にひしめき合っている。まるで休日の若者の街や夢の国の如く。
「嘘やろ・・・。」
俺達の想定が甘かったと思うのもそうだが、それよりもこの光景を目の当たりにして更に先程までの疑問が強くなる。
「この規模だとするなら、やっぱりおかしくないか。」
これだけの数の不死者が生まれる力だとするなら、もっと強烈に力を感じ取れても良いはずだ。それともこの不死者達を生み出す力はそもそもそれ程大きな力は必要ないのだろうか。それはなさそうな気がするが・・・。俺達の認識や偏った知識がこの世界で全て通用する訳でもないとも思うが、それでも・・・。
「どういう事やねん・・・。」
眉間に皺を寄せている。俺も似たようなものだ。
「取り敢えず近くの奴等を一掃して、もう少し近付いて詳しく調べてみよう。」
頷き合い、数体の骸骨を大地に還し安全地帯を確保する。
本当に線で区切られた様に不死者達がせき止められている。まるで透明な壁で遮られたかのように・・・。その線は左右にかなりの距離に渡り伸びている。この白黒の世界にあって尚、世界を白い世界とそれ以外の世界に分け隔てている。・・・この境目、良く見ると弧を描いているな。まさかこれは・・・。今頭を過った事を確かめる為に壁から少し離れ視線を上に向ける。
「何か気が付いたんか。」
視線を上に向けたままクロトの質問に答える。
「これって・・・半球形だよな。」
クロトは俺の隣まで移動しながら視線を上に向ける。目を凝らすと透明の半球が覆いかぶさっているのが確認できる。それもかなりの大きさのものが。はっきりと見える訳ではないが確かにそこにそれがあるのが分かる。
「壁やなかったんか・・・。」
これは壁ではなかった。透明の半球型のなにかがこの辺り一帯を覆っている。これは多分あれ・・・だよな。
「なあクロト。これは何だと思う。」
自分の予想が合っているのかどうかを確かめる為の質問だ。
「そらぁ・・・結界やろ。」
「俺もそう思う。」
そう・・・これはおそらくは結界。この世界に聖か邪かという属性が存在するならば、聖の属性だと感じる。それこそ先日俺達が手合わせをした時にモモカとノインが展開してくれた結界に良く似た印象を受ける。規模こそ、その十数倍・・・もしかしたら数十倍あるかもしれないが。
「それが何か問題なんか。」
「おかしいと思わないか。」
「おかしい・・・。何がや。この骸骨を防いでるんやろ、結界で間違い無いんちゃうか。」
そう思って当然だろうな。俺も最初はそこに疑問は抱かなかった。勿論それも前世の記憶あってのものだが。
「多分結界で間違いないと思う。・・・封印じゃなくてな。」
俺の抱いた疑問を聞いて、クロトの細い目が微かに開き此方を向いた。この少ない言葉だけで俺が抱いた疑問をある程度汲み取ってくれたようだ。俺は「そうだ。」という意を込めた頷きを返す。
そう封印じゃないんだ。クロトも感じているはずだ。封印なら外側からこの場所を封じているはず。だがこれは結界で、この結界は明らかに内側から張られていると思われる。それもおそらくはこの半球の中心から。つまりこの不死者を生み出してるであろう元凶とほぼ同じ地点から。・・・これは一体どういう事だ。
「確かに何か変やね。」
「結界は多くの場合、侵入を防ぐ為のものだと思う。だがこの結界は、この不死者達をこの場に留める為に張られているように見える。何か違和感があるだろ。」
「そうやね・・・。で、どないする。」
此処からじゃ骸骨共が邪魔で、問題の中心付近が良く見えない。兎である俺達の身体が小さいのも要因ではある。ま、それを解決する方法はあるので問題はないが。
「取り敢えず俺が此処から中心を覗いてみよう。ちょっと待っててくれ。・・・よいしょっと。」
浮遊で空中に駆け上がり、骸骨の頭の上辺りで止まる。
「おぉ・・・浮いとる。何やその技能。」
「これか。これは浮遊って技能だ。超能力系の技能だな。」
「知らん技能や。まぁ、わいも別の技能で飛べるからええんやけど。」
「そうなのか。それはそれで興味はあるな。」
「・・・で、どうや。何か見えるか。」
おっと。目的を見失う所でした。この円の中心の方を向いて狙いを定める。視認系の技能を最大限活用して。あれだな・・・。技能を駆使するまでもなかった程大きい。白黒映画のような景色なので正確な色も材質も分からないが、白く背の高い建造物があるのが見える。形状から察するに教会か・・・大聖堂か・・・。
「たぶんあれが俺達の目指す場所だな。でかい教会らしき建物が見える。」
「教会かいな・・・。ほんならその教会は悪魔か邪神でも祀ってたんかな。」
そういう考え方もあるか。
「外装を見る限りそれはなさそうな気がするな。」
見えない階段を降りてクロトの待つ場所に戻る。
「中に入ったら禍々しい装飾があるかもしれないが。ちゃんと神様を祀っていそうだった様に見えた。」
正当に聖なるものを祀るような荘厳な装飾がしてあった。時の流れによって多少損傷していたが。
「さよか・・・。でもそこが諸悪の根源なんだよなぁ。どうゆう事やねん。」
「もう少し詳しく気配を探ってみるか。」
どうせここからじゃ白い大群が邪魔でまともに目視はできはしない。目を瞑り意識を集中する。捉えた。・・・これで疑問が一つ解けた。更に疑問が増える答えが出ただけとも言えるが。
「やっぱりだ。この結界・・・内側から張られてる。それもこの不死者を生み出しているであろう何かと同じか、極めて近い場所から。」
「それは・・・やっぱり誰かの侵入を拒んでいるっちゅう事か。」
「そうかもしれないが・・・。俺は違う可能性もあるんじゃないかと考えてる。」
「どういう事や。」
「なあクロト。この状況、見ようによっては、この不死者を外に出さないように結界を張ってるように見えないか。」
「・・・確かに。そう言われれば、そう見えなくもないなぁ。」
そうなると一体誰が何の目的でという疑問が浮かぶ。その「誰」という存在が実在していれば、未だ健在ならばだが。
「で、どうする。行くんならこの結界を突破しないとなんだけど。」
「難しい決断やね。この結界を壊したら、此奴等が全部出て来てまうよな。でも結局そこには行かなあかんのやろ。」
「だろうな。」
たぶんクロトの見解は概ね正解だろうと俺も思う。・・・この結界は破壊できる前提なのか。ま、様子を見る限りやってやれな事はなさそうではあるが。
「そうなると、皆でここまで来た方がええかもしれんな。」
この大量の白い大群を解き放ってしまう事を考えれば、俺もその方が良策に思える。
「じゃぁ一旦引き返すにしても、このまま進むにしても、一度この結界を触ってみるか。」
「え。大丈夫なんか。消し飛んだりせえへんか・・・。」
「その可能性は無いとは言えないが、たぶん大丈夫なんじゃないか。この骸骨は無事で俺達だけ被害を被るって事は無いと思うぞ。」
結界にそんな攻撃的な要素が含まれているものは少ないんじゃないかと思われる。ただでさえモモカ達の結界と同様の聖なる力を感じるこの結界に触れてどうにかなるとは考え難い。被害があるとすればあの骸骨達の方だと思うんだけど。
「そうやね。触ってみたら、何か別の事が分かるかもしれへんしな。」
「良し、決まりだ。」
「ほな、触ってみよか。」
ほんの少しの緊張感を抱きつつその結界と思われる透明な境界線にゆっくり近付く。呼吸を一つして、クロトと視線を合わせる。そして同時にそっと手を伸ばす。




