70、兵どもが
天幕を畳む作業も今日は心なしか普段より静かだ。これから向かう先の事を思うと、どうしても燥いでもいられないのだろう。流石のジュウザも黙々と作業をしていた。昨晩早目に就寝し充分に休息を取り体調を、完全なる万全とは言えないが、それに近い状態に整えたつもりだ。それでもごく僅かではあるが、漂う気配に不安が過る。万が一の事を考えると楽観的ではいられない。そんな緊張感が皆にも多少伝わってしまっているのかもしれない。
天幕を畳み終えてアイテムボックスに収納する。一つ息を吐き周りを見渡す。クロト側の天幕の撤収作業はまだ続いていた。俺達が造ったものだし、クロト達にとっては初めての作業なのだから致し方ない。ヤクモとミナが丁寧な説明をしながら手伝っているが、やはり確認しながらの作業となるとそう簡単には行かない。
「すまんなぁ。手間取ってしもうて。せっかく手伝って貰っとるのに。」
俺の視線に気付き振り返ってそう言った。
「気にすんな。慌てる必要はないさ。・・・むしろ普段以上に慎重に行きたいと思ってる。」
「・・・そうやね。それはわいも賛成や。」
クロトはそう言いながら南へと首を向け遠くを見る様に眉間に皺を寄せた。
「まぁまぁ、そう睨むな。皆にも緊張が伝わるぞ。」
俺が言えた事では無いが。
「せやね。緊張のし過ぎは良くないな。」
「勿論、多少の緊張は必要だけどな。」
油断して望むよりはずっと良い。
「せやけどなぁ・・・。わざわざ嫌な予感のする方に行こうとしてるんや。わい等も、もの好きやね。」
そう言われてみればそんな気もする。
「全くだ。」
クロトのアイテムボックスに天幕を収納し終え、焚火の跡の周りに集合する。
「今回は・・・取り敢えず、現場の調査と状況の確認をする。で、良いな。」
クロトは俺の問に「おう。」と返す。
「そのまま事態の収拾、解決が出来るなら実行する。」
「駄目そうなら・・・危険やと判断したら、撤退して対策を考える。っちゅう事でええかな。」
今度は俺が頷きを返す。ヤクモ達もギンカク達も同じ様に頷く。
「各自、絶対に無理をしない事。」
これに対しても皆頷く。
「それは貴様達が一番気を付けろ。」
うっ・・・。返す言葉が見つからない。俺とクロトは顔を見合わせて苦笑いを交換する。
「分かっとるって。」
両手を前に出して振る。
「流石に今回は俺達も無茶はしない。」
その言葉にアッシュは「ふん。」と鼻息を一つ吐いた。
「・・・分かっているなら良い。」
どうやら信用はして貰えたらしい。つい前世とは違う自分の力に、調子に乗ってしまう事も無い事も無い。だが今回は何があるのか分からない以上、そういう訳にはいかない。ただでさえ悪い予感のする方へ向かおうとしているのだから。今の俺にとって・・・いや、きっとクロトも同じだろう、一番大切な家族を不用意に危険に晒す訳にはいかないからな。だからこそ、早目にその根源を断てるのなら、多少の無理をするかもしれないが。
「皆準備は良いか。」
皆なの顔を見渡すと、少し緊張気味の頷きが返ってきた。
「ほな、いこか。」
クロトの号令を合図に多種多様な魔物の一団はゆっくりと目的地に向かって動き出した。
距離はまだ大分あるが、近づくに連れて嫌な気配が強くなる。その気配に押されて怯む程ではないが。サツキとモモは多少顔が強張っている。
「サツキ、ノインに乗っとけ。・・・ノイン、頼めるか。」
「勿論だ、イッスンよ。」
聖獣の背中に乗っていれば問題ないだろう。一応念の為の処置だ。
「・・・クロト、モモも此方で預かろうか。」
「・・・せやね。悪いけど、頼めるか。」
「あぁ問題無い、クロトよ。任されよう。」
「モモ。ノインの背中に乗せて貰え。」
クロトに促されてモモは頷いた。ギンカクに抱き抱えられてノインの背に乗せられた。
「ノイン殿、モモをお頼み申す。」
ギンカクは礼儀正しくノインに頭を下げた。ノインは静かに微笑んでしっかり頷いた。
「ノインさん、ありがとう。」
聖獣の背に乗り少し楽になったのか、可愛い笑顔でノインにお礼を言った。なんとなくの思い付きだったんだけど、上手くいったみたいで良かった。
「私からも礼を言う、きり・・・ノインよ。」
コバが滑るようにノインに近づきそう言った。
「構わないさ、コバよ。」
そう言ってまた一つ微笑んだ。コバの背中では少し酔ってしまいそうだな。
フタバがノインの頭の上に止まった。気の利く子だな。やっぱり不思議なものだな、自分より年下と一緒にいるとお姉ちゃんになるんだよな。きっとフタバのお兄ちゃんとお姉ちゃんが良いのだろう。だから自分もそうなりたいと思うんだろうな。・・・あれ、全然関係ないのに、鼻の奥が・・・。
「・・・どないしてん。」
「何でもねぇよ。」
クロトが俺の意を察してか、愉快そうな顔で覗き込んでいる。
「・・・良かったやないか。わいには良く分からんけど。」
確かにそうかもしれないな。まだ十代だったもんな。・・・ま、俺も親の経験はないんだけどな。
「それにうちは・・・あんな奴等ばっかりやからなぁ・・・。良いやつらやねんけどな。」
確かにクロトの方は歴戦の猛者の風の者が揃っているからな。
「そうだな。子供の成長って感じではなさそうだな。」
「せやね。日々成長はしてるけどなぁ。」
それはそれで満足そうに笑いながら進行方向を眺めている。
・・・更に嫌な雰囲気になってきたな。
俺とクロトはほぼ同時に歩みを止める。念の為に先頭を歩いていた俺達に合わせて皆も脚を止める。
「こいつは・・・。」
そこから見える光景に顔をしかめているのが自分でも分かる。本日も普段通りに太陽は大地を照らしているというのに。
「・・・大分、灰色やね。」
ある一定の箇所から・・・色が無い世界。まるで白黒映画の中にいるみたいだよ。一言で言い表すなら・・・ありきたりの表現で良いのなら、死の世界を連想させる。
「いやぁ・・・まさか、こんな事になっていようとは。」
ある程度予測はしていたが、世界の色が変わる程事態は深刻だったとは。
「これは・・・どう見ても、良い傾向ではなさそうやね。」
「同感だね。」
これが世界の為に良い傾向だとはとても思えない。勿論この世界の法則が俺達の感覚の外にある可能性も否定できないが、この不穏な気配から察するに、その可能性は薄そうだ。
「どないしよか・・・イッスン。」
緊急の作戦会議が始まる。
「そうだなぁ・・・。」
そう言いながら前方の白と黒で構成された灰色の世界を眺める。その一番奥なのか中心なのかは不明だが、そこからは不穏な気配が滲み出ている事を感じ取る事が出来る。それはごく僅かだが・・・。最低限そこがどういう状況になっているかを確かめたい。
「全員で行くか・・・。それとも、わいとイッスンだけで、もしくは誰か選抜して一緒に連れて行くか・・・。」
クロトの提案に相槌を打ちながら皆の顔を見渡す。ヤクモやギンカク、キンカク辺りは一緒に行きたそうな顔をしている。もう一度これから向かう予定の灰色の世界を見る。
「・・・もう少し近付いてみるか。それから結論を出しても良いんじゃないか。」
俺の中では既にどうするかの結論は出てはいるのだが。それでももう少し情報が欲しい。それによっては今俺の中にある結論が変わるかもしれないしな。
「うん、せやね・・・。それがええかもな。ここからじゃ色が変わっとる事しか分からんしな。」
「良し、決まりだ。ここからは更に慎重に行くぞ。」
皆の一層緊張した声の返事がある。
「コバ。シロマル。頼むで。」
おそらく普段より真剣な雰囲気のクロトに、しっかりと頷く。
「ノイン。いざって時は頼んだぞ。・・・フタバもな。」
普段あまり見かけない鋭い目つきのノインが小さく首を縦に振った。同時にフタバも何時になく低い声で「あい。」返事をした。万が一の時のノインの結界頼み。そしてフタバの危険察知能力。完全に他力本願だが。・・・しかし妙だな。本来ならこれくらいの距離ならフタバの警戒網に何か反応があっても良さそうなんだけどな。本当に死の世界なのか・・・。生あるものが存在していないのか。それにしては・・・何ていうのか、不穏ではあるものの、何者かの気配を感じてはいる・・・はずなんだが。それ自体の気配はフタバも察知していると思うんだけど。・・・ま、その答えは行ってみれば自ずと出るはず。
「・・・行くか。」
意識しているつもりは無かったが、踏み出す一歩が些か重い。一説には、達人の領域になると危険な場所には近づく事も出来ないらしいが。俺がその達人の領域に達しているとは到底思えないが、それでもそれに近い状況なのか。それとも俺自身が必要以上に緊張しているのだろうか。
「モモカ。」
「はい。」
「ノインとは別に警戒を頼む。もしできるなら皆に補助的な技能の準備もしておいて欲しい。」
「畏まりました。」
声からは多少の緊張は伝わってくるが、それでも普段通りそよ風さえ起さない様な声と所作で応える。こんな状況でも美しいと思えてしまう。
「ヤクモ、スーアン。子供達の事を頼むぞ。」
「お任せ下さい、主様。」
「はい。」
ヤクモもスーアンも何事も無いかのように落ち着いた返事をする。
「子供達を信用していない訳じゃないんだけどな。・・・やっぱりちょっと心配なんだ。」
「分かっております。皆力を付けてきてはおりますが、何があるか分かりません。」
「ありがとうな。」
ヤクモとスーアンは普段通りの品のある頷きを返した。・・・皆落ち着いてるな。俺が一番緊張している様な気がしてきた。些か過剰になっているのだろうか。
「トウオウ。頼んだぞ。」
「分かっているよ。・・・だけど多分大丈夫だと思うよ。」
「・・・そうか。でも一応な。」
トウオウの意外な言葉に肩の力が少し抜ける。それでもトウオウも何時もの楽しそうな雰囲気とは異なり、真面目な顔をしている・・・と思う。
「止まれ。」
その目に映ったものに緩めた緊張が再び張り詰める。俺の声に皆その場立ち止まる。
「これは・・・。」
ここまで近付いて分かった。色が無いんじゃない。白と黒の薄い膜で世界が覆われている様な感じだ。僅かながら元の世界の色が、その白と黒の奥の層に見える。・・・ただ問題はそこじゃない。
「これはわいも考えてへんかったわ・・・。」
俺はこんな事もあるんじゃないかとは思っていた。だがその予想が当たっていて欲しいと思ってはいなかったし、できれば外れていて欲しかった。
その色の無い世界の大地を徘徊している者達がいる。それも一つや二つではない。見渡す限りの大地を埋め尽くす程ではないが、それでもここから見えるだけでも十や二十では足りない。軽く見積もってもその十倍はいるように思える。
「初めて見た。」
「わいもや。」
そりゃぁそうだ。前世でもお目に掛かった事はない。少なくとも俺はこの類の存在を己自身で見た事も感じた事もない。
徘徊している無数の二足歩行の白い影は・・・。
「骸骨・・・だな。」
その骨格を見れば、それが「人」であったのは確かなのは間違いなさそうだ。
「どうやら、人は・・・人間がいた事は間違いなさそうやね。」
「・・・そうだな。あれが元「人間」かどうかは分からないが、少なくとも「人種」はいた事は確かだな。」
「なるほど、そうやね。」
流石クロト、俺と同じ様に偏った知識があるおかげで理解が早い。そう、ここはファンタジー。あの骸骨がエルフや獣人であった可能性もある訳だ。勿論この世界にそんな種族が存在していたのならの話だが。
・・・ん。ちょっと待て。これだけの数がいて気配が察知出来ないだと・・・。俺はともかくフタバの技能に引っ掛らないのは何故だ。まさか骸骨は魔物じゃないのか・・・。元が人間だと魔物と判定されないって事なのか。いや、それは考え難い。この世界では、前世の世界で言う所の動物に分類される生き物を魔物と分類しているように思われる。とすると、人間も、人種も動物の一種族と考えると、この世界では魔物と分類されると考える方が自然だ。
「フタバ。」
「・・・あい。・・・ごめんなさい、主たま。」
おっと。緊張状態にある為か、語気が少し荒くなってしまったか。申し訳ない事をしてしまった。
「ごめんな、驚かせちゃったな。大丈夫だ、怒ってる訳じゃないんだ。」
そう言いながら左腕を折り曲げて顔の近くまで持ち上げる。それを見たフタバは俺の腕まで降りて来て止まった。
「ちょっと聞きたい事があるんだ。」
「あい。」
「あの歩き回っている白い奴が何だか分かるか。」
「・・・分からない。人間、みたい。」
あぁ、梟の叡智か。フタバに限っては人間の知識があって不思議じゃない。
「多分、正解だ。俺もあれは人間だと思う。「元」だと思うけどな。」
「・・・あい。」
「そこで一つ確認したい。」
「なぁに、主たま。」
ようやく調子が戻って来たご様子。なにより。
「あの骸骨はフタバの技能で探知出来なかったんだな。」
「・・・あい。なんでかな。」
「それは多分・・・あの骸骨は魔物でも魔界獣でもないって事だろうな。」
「・・・はっ。さすが、主たま。」
「ありがとうな、フタバ。おかげである程度理解出来た。」
「あい。じゃあ、あの骨のやつは、何。」
フタバは興味深そうに目を煌めかせ、首を左右に傾かせながら俺の顔を覗き込んでいる。
「それを今から確かめに行く。だから此処でサツキとモモを頼めるか。答え合わせは後でしよう。」
「あい。」
フタバは元気に返事をして、ノインの頭の上に戻って行った。
「・・・で、あの骨はなんやと思う。」
骸骨の大群に混じって魔物の骸骨もちらほら確認できる。
「おそらくだが・・・不死者、だろうな。」
この世界にはいないと思っていた。やってくれるぜ、ファンタジー。此処へ来て出会うことになろうとは。
「不死者、か。そらそうやろうね。骸骨やもんね。・・・まじか。」
皆を見渡す。ヤクモやギンカク達は眉間に皺を寄せているが、魔王と聖獣はあまり表情を変えていない。つまり・・・ある程度あの骸骨がなんであるかの答えを知っていると見て良さそうだな。そして答えを聞いても答えないだろうな。彼等に悪意があるのではなく、答えは自分で見つけろという事なのだろう。極力世界に介入しないという彼等の姿勢なのだろう。自分で確かめるしかないだろうな。
さて、どうするかな。あの骸骨達がなんであるかを確かめたいが、当初の目的はそれじゃない。この白黒の世界を作り出しているであろう、この世界を危機的状況に追い込んでいるであろう原因を探る事が最重要。この目的を間違っては駄目だ。
「取り敢えず、一番奥を見てこないとな。」
「そうやね。それが目的やからね。・・・で、どんな編成で行こか。」
さて、どうするかな。特に深い意味があった訳ではないがアッシュと目が合った。
「・・・吾輩は貴様等の意思に従う。好きにしろ。」
クロトはともかく俺にも従ってくれるのか、意外だな。
「それは・・・ありがとう。」
「わいとイッスンだけで行ってみるか。」
クロトの提案に腕を組んで少し思案する。極論、それが一番安全な策に思えてきた。
「うん・・・それが良いような気がするなぁ。」
ヤクモが少し不満そうな顔をしている。気持ちは理解できる。でもなぁ・・・何があるかわからないからな。万が一を考えるとヤクモを連れて行く事は避けたい。俺に何かあった場合、家族を率いるのはヤクモが適任だろうからな。俺とヤクモの両方が倒れるのはかなり宜しくない。ヤクモの気持ちを考えれば、運命を共にしたいと思っているのだと思うが。申し訳ないがそういう訳にはいかないんだ。ギンカクやキンカクも似たような感じかな。
ノインにはモモカと共に子供達を守って貰いたい。トウオウも冷静に考えて、俺達の中では最高戦力と言って過言ではないだろう。するとやはりこの場に留まって貰うのが正しい判断だと思える。
「ほんなら、そうしようか。わいもその方がええ気がする。・・・直感やけどな。」
「そうするか。真っ直ぐ行って、帰って来ればすぐだろ。」
何が起こるか分からない割には楽観的な自分の言葉に自分で驚く。この場所の不穏な気配に慣れてきてしまったのだろうか、嫌な予感が拭えた訳でもないのに。これはこれで良くない気もするが。
「・・・っちゅう事や。悪いけどちょっと此処で待っとってくれ。ぱぁっと行って、ちゃちゃっと解決して帰って来るわ。」
俺に負けず劣らずの楽観的な事を言っているな。半分は冗談だろうが。
「しかし・・・殿。よろしいのですか。」
ギンカクはせめて自分だけでも付いて行きたいという想いの乗った質問をする。その隣でヤクモも同じ顔をして俺を見ている。
「俺達に何かあったら、皆を連れて此処から離れろ。・・・頼めるな、ヤクモ。」
「縁起でもない事を・・・。」
おそらく俺達に「何か」があったら、きっと直ぐに分かるだろう。この世界では俺達の繋がりは技能という形である程度可視化されている。だから・・・その繋がりが消えれば、どんなに離れていても伝わるだろう。
「・・・ヤクモ。俺の一番大切な家族を託せるのはお前だ。頼む。」
「・・・納得はいきませんが、分かりました。」
「ありがとうな、助かる。」
ヤクモには少し嫌な役割を頼んでしまって申し訳ないとは思うが。最悪の事態を考えれば、これが一番良いと思っての判断だ。
クロトの方も似たようなやり取りをしていた。それこそ俺達と同様に一応の着地をした御様子。・・・ま、そうなるわな。
「じゃ、そろそろ行こうか。」
「せやね。」
「ではせめて我等があの骨共を退けましょう。」
ギンカクは腰に差した刀に手を掛ける。キンカクやヤクモも戦闘態勢を取る。
「待て。無闇に攻撃をしない方が良いかもしれない。」
今の所、あの骸骨共に気付かれてはいないらしい。距離が離れているのもあるだろうが、少なくとも此方からは視認できている。それでいて気付いている様子はない。とするなら、此方からちょっかいを掛けなければやり過ごせる可能性もある。もしくはある一定の距離まで接近してしまうと攻撃を受けてしまうのかもしれない。
「向こうから近付いて来たら迎撃するくらいでええんちゃうか。」
「だな。あんまり接近されないうちに、な。」
皆は了解の意を示す。俺はアイテムボックスから棒を一本取り出す。前方へ移動して、その棒を使い地面に真っ直ぐ線を引いて元の場所に帰還する。
「あの線を越えたら攻撃って感じかな。」
「畏まりました。」
ヤクモはしっかりと頷いた。此処から観察していた感じだと、意思を持って接近してくる可能性は低そうなので、多分大丈夫だろう。
「じゃ、ちょっと行って来る。」
「行ってらっしゃいませ。」
モモカの目がちゃんと返って来て下さいと言っている。不安が無いとは言えないが、その期待に答えられるように頑張ろう。
「ほな、行こか。」
「ああ。その前に最終確認だ。まずは・・・この先の、この事態の原因を突き止める。」
「おう。・・・で、あわよくばそれを解決する。」
「危険だと判断したら、速やかに撤退して対策を考える。」
「了解や。始めの計画通りやね。」
「こういうのを最終確認って言うんだよ。」
「勉強になるわ、先輩。」
俺は体勢を整える。どんな姿勢をとったかは想像にお任せする。
「クロト。ひとっ走り付き合えよ。」
クロトの口の片端が僅かに上る。
「わいに付いて来れるんか。油断してたら置いてくで、おっさん。」
「ぬかせ、小僧。その言葉そっくりお返しするぜ。」
白と黒の二羽の兎が大地を蹴り飛ばし前に飛び出す。こうしてみると、まるで俺達の為に用意された世界のようだ。この風景に混じっても違和感が殆どないな。
「おっとぉ。」
俺の目の前を鈍い銀色の何かが縦に通り抜けた。咄嗟の判断で避けることが出来たが、何事だ。俺の声に反応してクロトもその場に立ち止まる。
「大丈夫か。」
「あぁ、問題無い。」
俺の目の前を通り抜けたものを確認する。剣・・・だな。大分古めかしいが。って・・・武器。そうなりますか。
「これは、骸骨の領域に入ったって事かな。」
「多分そうゆう事やろうね。・・・どないしようか。」
その剣を振り下ろした個体を見れば、まるで絵に書いたような、物語に出てくるような骸骨が。
「全てを無視するのは無理そうだな。」
気が付けば、徐々に囲まれつつある。そのどれもが手に武器を持ち、兜や盾を装備している者もいる。個性豊かだね・・・顔は殆ど同じに見えるのに。
「しゃぁないね。いっちょやりますか。」
「そうだよなぁ・・・。」
「なんやねん。どないしたん。」
骨になっているとはいえ、元は人間だなと思うと些か躊躇いが生まれる。
「ちょっと殴り辛いって言うか・・・。」
「あぁ・・・ね。でも此処でわい等がやられる訳にもいかんやろ。」
その通りだ。さっきモモカにもお願いされたからな。そして何より、今生きている俺達の命の方が大切な筈だ。他の誰かに、そんなものは生きている者の身勝手な言い訳だと言われても一向に構わない。
「そうだな。生きて帰るって約束したもんな。」
「やめろや、変な旗建てるなや。」
「取り敢えず何でも拾って貰えて助かるよ。」
「そら、お互い様や。」
本当にありがたい。必要以上に緊張しないでいられる。
「・・・と、冗談はこれくらいにしとこか。」
骸骨にはどうやら心意気は備わっていないらし。嘆かわしいね。それじゃ、始めようか。今回はこれで行くと、今決めた。
「・・・ひとっ走り付き合えよ。」
「お取りすがりの兎や。覚えとけ。」
・・・骸骨相手に、それは無理なんじゃないかと思う。お互いにな。




