七話
「美味い美味い」
ゼウスとの思いもよらない対面からの翌日の今日。エナリオスの海辺近くにある、潮風漂うレストランの隅で、雄斗はご満悦な笑みを浮かべていた。
満ち足りた笑顔の理由はテーブルにある数々の海鮮料理だ。海の幸をふんだんに使われたそれらは雄斗の食欲を刺激し、腹と幸福感を満たす。
最初こそどんな料理か、どのような調味料が使われているかなど探っていたが、あまりの美味さにそれを忘れ、食事をとることに没頭していた。
「ふぃー、食った。これはしばらく何も食べれないな」
デザートであるシャーベットを綺麗に平らげ、膨れた腹をさする。
ニールやエイレーネから名店と聞きやってきたが、予想以上の上手さだった。本来は別の店にも寄ろうかと思っていたが、この店だけで腹が膨れてしまった。
昨晩ざっくり決めていたエナリオスの観光ルートを脳内で見直していると、すぐ傍に一人の男性が立っていた。
店内にいる他のウェーターと違う、品の良い服装の初老。また隙のないその物腰は一般人のそれではない。
とはいえ悪意は微塵も感じられない。雄斗が尋ねようとするその前に、初老は穏やかな笑みを浮かべて口を開く。
「我が店【デルフィノ】の料理をご満足いただけたようで何よりです。鳴神雄斗様」
「あなたは?」
「申し遅れました。私は【デルフィノ】のオーナーをしておりますロレンツォ・トマンといいます。
昨日ニール様、シンシア様から鳴神様がやってくるかもしれないとお聞きしており、こうしてお待ちしておりました」
恭しく頭を下げるロレンツォ。
「ニールさん達はよくここに来るんですか」
「ええ。デートなどでよくご利用されております。まことにありがたいことです。
【金翼の輝士】でも一、二を争う勇士であらせられるニール様に、サラス様の愛娘であるシンシア姫にご贔屓いただけるのは、エナリオスに住む料理人にとっては何物にも勝る喜びでございます」
「あなたはかつて【金翼の庶士】の一員だったんですか」
雄斗がそう言うと、ロレンツォはかすかに目を見開く。
「……これは驚きましたな。初見で見抜かれるとは思っていませんでした」
「あなたの雰囲気と立ち振る舞いは歴戦の戦士のそれだ。
それにあなたの言葉からは現ポセイドンと【金翼の庶士】に対する強い敬意を感じたからな」
「見事な慧眼です。流石はニール様が認めしお方。かの【万雷の閃刀】に選ばれたのも納得ですな。
ええ。私は十年ほど前まで【金翼の庶士】に所属していました。ですが色々ありまして今はこの【ディフィノ】にて店を営んでおります」
微笑むロレンツォ。
老後の人生を楽しんでいる様子を見て、雄斗も笑う。
「エナリオスは、いいところですね。
名所もたくさんありますが、それ以上に雰囲気がいい」
デルフィノにやってくるまでエナリオスの名所などを回っていた雄斗。
そこに住まう人々はもちろん同じ観光客、露天商が放つ空気は賑やかであり活気に満ちていた。
【オリュンポス】屈指の観光地と評価に偽りはない。
「はい。ここで生まれ育った私たちにとってこの都市は誇りです。
もちろん問題もないわけではありませんが──」
そうロレンツォが言った時だ、店の外から人々の悲鳴、そして爆発音など不穏な音が聞こえてくる。
雄斗は即座に腰を上げ、店外に。するといかにもチンピラ、荒くれ物と言った十数名ほどの姿の若い鳥人の男たちが袋を抱えて西の方に向かって飛んでいる。
そしてそんな彼らを黄金の翼の紋章をつけた【金翼の庶士】やエナリオス内で見かけた見回りの警備兵や兵士たちが迫っていた。
「あの袋は……」
「ふむ。収穫されたネレイドを強奪したのでしょう。まぁよくあることですな」
チンピラたちが持つ袋から感じた魔力に雄斗が眉をひそめていると、いつの間にか傍に来ていたロレンツォが言う。
ネレイド。【オリュンポス】の海からとれる鮮やかな青色の宝石だ。宝石としても価値は高いが豊富な魔力を含んでいる種類も存在しており、それらは魔道具や疑似神具の材料ともなっている。
ロレンツォは周囲の店や人々の周りに小規模な結界を張っていく。現役を退いたにもかかわらずの見事な手際に雄斗は内心で感心し、ロレンツォに訪ねる。
「あのチンピラたちはなんですか?」
「【欲望の輩】です。名前ぐらいは聞いたことがあるでしょう」
「あいつらが……!」
数多の多元世界には無数の犯罪組織が存在し、その中でも【真なる世界】と共に二大勢力の一つとされているのが【欲望の輩】だ。
【真なる世界】と並べられる彼らだが実際のところ、危険度や脅威度で言えば彼らには遠く及ばない。組織のトップである【五欲王】はともかく、それ以外はチンピラやマフィア、やくざと言ったアウトローで構成されている。
彼らが【真なる世界】と並べられる理由はひとえに問題、犯罪を起こす頻度がけた違いに多いこと、そして【真なる世界】を含めたどの犯罪組織よりも規模が大きいからだ。
エナリオスの警備の者たちに追いつかれた鳥人のチンピラたちは覚悟を決めた顔で彼らと戦う。
しかし戦況は【金翼の庶士】が圧倒的に優勢だ。まぁ元々自力が違うこともあってか、数名はあっという間に取り押さえられてしまった。
しかし一部の者たちは何やら魔道具を使い、逆に【金翼の庶士】や警備兵たちと戦い、抵抗していた。雄斗の視線に映っていた屈強な戦士がなにやら糸のようなもので体をからめとられると、手にしていた武器に宿していた雷が消え、追いつめていたチンピラに蹴り飛ばされてダウンしてしまう。
「あれは……?」
「ふむ。いつも使用している【聖者の縛輪】とは違う、見慣れぬ魔道具を使っていますね」
【聖者の縛輪】とは【欲望の輩】達がよく使う魔道具の一つだ。一見輪っか型の電灯に見えるが捕らえた相手の魔力を封じる効果を持つ。
神や【掌握】に至った神具、神財保持者には通用しないがそれ以外の者たちには効果は抜群だ。もっとも強度はそれほどでもなく体内からの魔力放出や単純な物理攻撃であっさり壊れるという弱点もあるが。
「効力は【聖者の縛輪】と同じく捕縛した対象の魔力を封じるもののようですね。
しかも糸は細く見えにくい。中々に厄介な代物ですな」
のんびりとした口調のロレンツォ。とはいえその理由もわかる。
魔道具を使い抵抗する【欲望の輩】のチンピラたちだが、精鋭である【金翼の庶士】達は魔道具に対してすぐに対処する。先程紐のようなもので縛られダウンした兵士もすぐに起き上がるや強引に引きちぎって、蹴り飛ばした相手にお返しとばかりに蹴りを見舞っていた。
【欲望の輩】が新たに使用した魔道具。しかし【聖者の縛輪】と同じ耐久力に難があるようだ。
一人一人、確実に無力化され捕縛される【欲望の輩】。そして残った最後の一人も【金翼の庶士】の隊員たちに追い詰められていた。捕まるのは時間の問題。そう雄斗が思った時だ、最後の一人は懐から何かを取り出す。
「……!」
【欲望の輩】が手にした黄金色の悪魔像を見て、雄斗は視線を鋭くする。只の彫刻にはない、また先程見た魔道具とは別格の、尋常ならざる魔力を感じたからだ。
雄斗と同じくそれを察したのか【金翼の庶士】たちは警戒のため突撃しようとしていた足を止める。そしてその一瞬で、チンピラの手にあった悪魔像が膨れ上がった。
「ガアアアアッッ!!」
瞬く間に三メートルを超える大きさとなった黄金の悪魔像。甲高い叫びを上げると【金翼の庶士】たちに飛び掛かっていく。
当然迎撃する彼ら。しかし放った攻撃で悪魔像は傷つくも破損した箇所は即座に修復される。そして何事もなかったかのように悪魔は両碗を振るい、または巨大な魔力弾を周囲に拡散させては警備兵たちを浮き飛ばし、薙ぎ払う。
「あれはまさか、【強欲の僕】か!?」
暴れまわる黄金の悪魔像を見て雄斗は思わず叫ぶ。
【欲望の輩】のトップである【五欲王】の一人が作り出した僕。その強さは──理由はわからないが──バラバラだが、強い個体となれば神に匹敵するものもいるという。
一部の【欲望の輩】たちが所持しておりこれによって予想外の被害や惨状が生まれたことは数知れずあるという。
狂ったように、無差別に暴れまわる悪魔像。そのあまりの激しさ、強さに【金翼の庶士】たちは押される一方だ。
またその余波で発動させた当人はもちろん、周囲に拘束されていた【欲望の輩】の面々は当然無事では済まない。あるものは上半身が消し飛び、あるものは片腕が無くなり、あるものはあまりの恐怖で壊れたのか、狂ったように笑い続けている。
「むうっ……!」
ロレンツォも厳しい表情に汗を浮かばせていた。
周囲の人々や建物を守るために発生させていた結界の大半には無数の亀裂が入り崩壊寸前だ。
当然ロレンツォは壊れそうになった結界を再構築、または崩壊寸前の結界の周囲に上書きする。
だが悪魔の暴れる余波や放った一魔力弾の撃であっさりと亀裂が入るのだ。
(見たところ神に匹敵する難物だな。──やむを得ないか……!)
休暇中ゆえなるべく面倒ごとに絡みたくはなかったが、目の前の光景を見てそれを貫き通すような神経を、雄斗は持っていない。
即座に始末するべく【万雷の閃刀】を呼び出そうとしたその時だ、突然悪魔の左腕が飛んできた何かに破壊される。
「おお、来てくだされたか……!」
安堵の域と共にロレンツォは言う。
彼の視線の先。建物の屋根には新たな【金翼の庶士】たちと、槍を手にしたニールの姿があった。
◆
「【強欲の僕】か。それを想定しての編成だったがそれを蹴散らすとはな」
握っている槍を軽く一振りして水色の軽鎧をまとったニールは言う。
紺碧の柄に金と銀の装飾が施されたあの槍は【大海を統べる蒼槍】。ニールが所持している神具であり水を操る力を持つ。
ニールの挙動に合わせて彼が引きつれている【金翼の庶士】達は周囲に四散。傷ついている仲間たちを助け、ロレンツォのように建物や周囲にいる人たちを守る結界の強化、再構築などを行う。
もちろん【強欲の僕】にも注力しており、動きながらもニールと対峙する黄金の悪魔に注意を払っている。もし襲い掛かられても対処できるよう、体内の魔力を高めている。
(ニールさん直属の部下ってわけか。【清浄なる黄金の聖盾】の面々ほどじゃないが、誰もが手練れだな)
無駄なく動く彼らを見て雄斗は【万雷の閃刀】を呼び出すのを止める。──ニールがいる以上、その必要がなくなったからだ。
「さてと。手早く終わらせるとしよう」
そう言いニールは槍の穂先を悪魔に向ける。するとそこから水でできた穂先が発射され悪魔の上半身を吹き飛ばす。
神威絶技【激流穂】。見た通り精製した水の穂先を飛ばす技だ。
ただあの穂先には莫大な水量が込められており、直撃すれば今のようにすさまじい破壊力を発揮する。
よろめく【強欲の僕】の下半身。だが破壊された上半身は瞬く間に再生、元通りとなる。
「ウウ、ガァアアァァアァッッ!」
激昂するように叫び、悪魔はニールに飛び掛かる。そして人の頭を容易につかめそうな大きな手をニールの頭部に伸ばす。
だがその瞬間、ニールを中心に莫大な水が発生。水の結界が精製される。
突然水の結界に閉じ込められ驚く悪魔に対し、ニールは顔色一つ変えず槍を突き付ける。
すると結界の全方位から飛び出す水色の穂先。悪魔は反応できず全身を貫かれ、砕かれる。
【水刃牢】。敵を水の結界に閉じ込め全方位から水の刃を放出し仕留める神威絶技だ。
ニールの言う通り手早く片付いたのを見て雄斗は安堵の息を漏らし、すぐに大きく目を見開く。
「……!」
【水刃牢】によってバラバラにされた【強欲の僕】。その体の一部が宙に浮かび輝きを放つ。
その光は【水刃牢】を吹き飛ばし、ニールも目を守るように腕で顔をガードして下がる。
光が収まり再び建物に目を向けると、そこには先程とは風貌を一変させた【強欲の僕】の姿があった。さらに大きくなった四メートルほどの体躯、両腕には鉈のような分厚い剣を握っている。
頭部にはねじり曲がった太い角を二本生やし、臀部には蛇がうごめく。そして右肩部からは獅子の頭部があり、威嚇するような叫びを上げている。放つ圧、魔力も先程よりもはるかに増している。
「強化される【強欲の僕】とは……!?」
ロレンツォが驚きの声を上げ、周囲の【金翼の庶士】達も警戒を強める。
変わったのは姿だけではない。どういう理由かはわからないが強化された【強欲の僕】。遠くからでも感じる圧と魔力は神々に引けを取らない。
「ガアアアアッッ!」
「ひいいいっっ!」
【強欲の僕】の猛りの声に結界内にいる人々が怯えの声を上げる。
先程とはまるで違う圧と悪意が籠ったそれを聞き、ニールが警戒を強めた直後だ、悪魔は全方位に数十もの魔力弾を放つ。
放たれる魔力弾をニールは冷静に的確にさばく。一方他の魔力弾はニールの張った結界を通り抜け、さらにロレンツォの結界をも貫通。周囲を破壊する。
「う、わあああっっ!」
周囲破壊に恐れおののく人々。そんな中、穴だらけの結界から一人の男性が飛び出してくる。恐怖で錯乱しているのか頭を抱え前をろくに見ていない。
案の定、微かに浮いている石畳に引っかかり転ぶ男性。その背後に魔力弾が飛んでくるが雄斗は稲妻を放ってそれを迎撃し、外に飛び出しては転んだ男性の首根っこを掴んで店の中に戻る。
「あ、ありがとうございます」
「いいから奥に隠れていろ」
礼を言う男性にそう言って雄斗は視界を再び上空──ニールと【強欲の僕】に向ける。
先程よりも激しく攻撃を繰り出す悪魔。両手に握る剣や散弾のように放つ魔力弾に加え、臀部の蛇も牙をむいて噛みつこうとし毒々しい液体を吐き出す。また右肩にある獅子の頭部が吐き出す炎や氷がニールに迫る。
多様な攻撃の嵐にニールは押されている。槍と水を利用して攻撃を防ぎ逸らし反撃しているが、【強欲の僕】は驚くべき半身系と動きでそれらのことごとくを迎撃し、絶え間なく攻撃を放つ。
その苛烈さ、激しさ。おそらく神クラスに迫る。未だ無傷なニールだが先程まで余裕綽々だった顔も厳しいものになっている。
彼の実力──過去のものとはいえ──を知る雄斗は悪魔に対してニールが負けるとは思わない。【掌握】をすれば状況は逆転するだろうが、それをしないのはおそらく周囲への被害を考えてのことだ。
しかし現状のままでは危ないと雄斗は思う。【強欲の僕】の技量を見るに万が一の可能性は十分にあり得る。
昨日散々見た、彼とエイレーネとの仲睦まじい様子を思い、今度こそ【万雷の閃刀】を呼び出そうとする。
だが雄斗の右肩にロレンツォが手を置いて止める。
「心配はいりませんよ。ニール様の癖が出ているだけです。
初見の相手を確実に倒すため、慎重に見極め対応する。ニール様の長所であり、短所でもありますね。
──ですが、そろそろでしょう」
彼がそう言った時だ、ニールの槍が空中に無数の弧を描く。その攻撃は蛇の頭部を、剣を振り上げていた悪魔の左腕を、踏み込んだ右足を確実に切り裂く。
ニールの放った【閃電の太刀】を見て思わず雄斗は目を見開く。【閃電の太刀】を使えることではなく、その動きの滑らかさ、静かさにだ。
現在の雄斗ならば今の彼と同じかそれ以上の速さの剣を振るえる。だが剣戟の繋ぎ──動きの連動では若干劣る。
仮に雄斗が十ほど剣戟を繰り出した時、ニールはおそらく十一はいけるだろう。たった一の差だが、雄斗たちのいる武の領域では大きな差だ。
体勢を崩す【強欲の僕】。ニールの槍が分身したかのような連撃を放ち頭を、胴を、腕を貫く。そして貫かれた部位は水飛沫を放ちながら爆散する。
【激流穂】による連撃。バラバラになる【強欲の僕】を見て今度こそ終わりと雄斗は思うが、破壊された部位が修復されていく。
その尋常ならざる再生力に雄斗は頬を引きつらせるが、ニールはどうしたことか、それに背を向ける。
「ニールさん!?」
「ご心配なく。──もう終わっております」
ロレンツォの言葉と同時、再生が終わった【強欲の僕】はニールに襲いかかろうとする。
だが突然その動きは止まる。そして体の各所がまるでスライムのように伸び縮みを繰り返し、最後には水飛沫を上げて爆散してしまった。
「【虹を呼ぶ清水】。攻撃した存在を強制的に水に変えて爆散させる、ニール様必殺の神威絶技ですな」
空に散っていく大量の水飛沫。それが綺麗な虹を作るのを見て、ロレンツォは言う。
「皆さん! もう安心です。
あなたたちに害を加える存在は我々【金翼の庶士】を始めとするエナリオス警備隊が仕留めました!」
ニールは大声で周囲に叫び【大海を統べる蒼槍】を掲げる。
それをみて仲間たちはもちろん、結界内部にいた人たちは歓声を上げる。
「おお……!」
「さすがは【金翼の庶士】とニール様!」
「エナリオスの守護者! 【聖海の守護騎士】! ポセイドン様の懐刀!」
街中に轟く【金翼の庶士】達を称える声。その中でニールの名や字を連呼するものが一番多い。
「慕われているんですね、ニールさん」
「もちろんです。ニール様がこの地に来ていくつもの活躍をされました。
その功績にゼウス様たちを始めとする【オリュンポス十二神】の方々も高く評価しており、自分の一族と結びつけるべく虎視眈々と狙っているとのことです」
「結婚してまだ一年も経っていないのにですか」
「それだけの英傑とということです。ニール様は」
誇らしげに言うロレンツォ。だが確かに彼の言う通りだ。
強化された【強欲の僕】は神に匹敵する難敵だった。しかしニールは【掌握】すら発動せずに討伐した。
雄斗でも倒せなくはないが【掌握】をしなければ彼ほどスマートにはいかない。
また槍の技量も想像以上に上がっている。当時から神クラスに比肩する、兄と同等の達人だったがさらに冴えわたっていた。もし雄斗と武技のみで勝負した場合、勝てなくはないだろうがかなり苦労するのは間違いないだろう。
(帰国する前に一度、勝負をしてもいいかもしれないな)
人々に賞賛されそれに応じるニールを見ながら、雄斗は思うのだった。
◆
「ああ。お前さんが作り出した新型の【強欲の僕】だが、予想以上の性能を発揮したと見ていいだろう。
ま、コストがかかるから量産はお勧めしないがな」
『そうだな。ところで鳴神雄斗はどうだった?』
「予想していた通り俺のことは覚えていなかったな。ま、記憶を封じる寸前、一瞬だけ顔を見られただけだから当然と言えるが」
『しかしお前は万が一のことを考えて様子を見に行ったのか』
「まーな。【万雷の閃刀】から情報を得ていた可能性もあるし今、どんな感じなのか見ておきたかった。
現在でどれほどのものか、やはり自分の目で見たほうがよくわかるからな」
『それで。お前の寸評は?』
『逃げの一択だな。十分に対処できるが、戦うとなれば多少は傷を負う。
なら無駄な戦闘をする必要はない。そんなことをするよりも各世界を回って希少な品々を集めたほうがいい。
【万雷の閃刀】はまぁ、彼が手放したあとか死んだあとにでも改めて奪えばいいからな』
『使用しない【万雷の閃刀】にそこまで執着するか。さすがは【物欲王】だな』
「一度とはいえ奪いモノにしたからな。──再び奪ってモノにして飽きるまで手元に置いておくのが品々への礼儀だろう。
さて、それじゃあ世界会議で賑わっている【オリュンポス】に目ぼしいものが無いか見て回るから──あ」
『なんだ? もう欲しいものでも見つかったのか?』
「いや、さっきの騒ぎでちょっと面白いものを見つけてな。捕縛した相手の魔力や異能を封じる紐なんだが、あれは使えそうだなと思ってな──」
次回更新は10月25日 夜7時です。




