八話
「おはよう雄斗。
今日はあたしがここオトリーズを案内をしてあげるわね!」
「チェンジで」
「いきなり酷くない!?」
人々の喧騒が聞こえる停泊所。笑顔で出迎えたアイシャに、雄斗は冷たい眼差しを向けて言う。
エナリオスを観光した翌日の今日、やってきたのはエナリオスと並ぶ大都市オトリーズ。
十二ある地表大陸の中でも最大の大きさを誇る大陸に存在し、都市の規模と発展具合は【オリュンポス】の首都リトボスに次ぐという。
「顔見知りの案内人と聞いて嫌な予感はしたんだ。せめてシンシア姫か当代のベオウルフならよかったんだが」
「残念ね。シンジはリトボスの見回り。シンシア姉さまは世界会議に関する仕事と逃げようとするゼウス様の監視もあって今日も一日中カンヅメ状態よ」
「まだ逃げようとしてるのかゼウス様は……」
軽く息を吐きながらアイシャが用意した車に乗り込む。
何かしらのトラブルを招きそうな雰囲気がある彼女だが、逃げるという選択はない。もしそうしようものなら彼女はもちろんオトリーズに在住する【オリュンポス】を始めとする治安維持部隊に捜索、捕縛されるからだ。
【万雷の閃刀】という【七雄神財】を持つ雄斗を所在をつかんでおくのは【オリュンポス】側からすれば当然だ。そして自分を捕らえるという口実の元、アイシャから戦いを吹っ掛けられられかねない。
記憶を取り戻しグラディウスの戦いを経てより強くなった雄斗だが、彼女と戦えば苦戦は必至。仮に勝つとしてもまず無事には済まないだろうし、周囲に甚大な被害が出るだろう。流石にそんな騒ぎを起こすわけにはいかない。
車の窓を開け、少し冷たいが気持ちのいい風を浴び、上空に浮かんでいる浮島を見ながら、雄斗は尋ねる。
「それにしてもだ。何でお前がここにいる。
世界会議のために来たのだからてっきりリトボスにいるかと思ったが」
「世界会議に向けて一通りの準備はお爺様と二人で済ませてあるわよ。今日雄斗に付き合うのは気晴らしとオトリーズの見回りも兼ねているの」
「見回り? ……もしかして【神雷を制する天空】を警戒してか」
「ええ。最近連中の動きが活発になっていてね。世界会議も近いし自発的に見回っているのよ」
頷くアイシャ。
【神雷を制する天空】とは【オリュンポス】に存在する最大のテロ組織だ。
【オリュンポス】至上主義という思想を掲げており、現政府や上層部に不満を持つ、かつての【オリュンポス】上層部の者たちで構成されており上役には現役の神が複数いるらしい。
彼らのテロ活動はここ数ヵ月で発生、未発生を含めて十近い回数ほど確認されていると聞いている。
「そういえば不思議だったんだが、何故【神雷を制する天空】は未だに撲滅されない?
【オリュンポス】はもちろん同盟を結んだ多元世界の治安維持組織とも協力して対処しているんだろう?」
【神雷を制する天空】が確認されたのは二十年近く前。現ゼウスが【オリュンポス】を統治してすぐのことだ。
彼らに対しては当然ながら【オリュンポス】の治安維持組織や十二神も対処に当たっている。撲滅するかのような大きな作戦も何回も行われたそうだが、未だに組織は健在で、組織のトップは生存が確認されている。
「雄斗も知っているとは思うけど、【オリュンポス】にはいまだに懐古主義の人たちがいるのよ。政府内部にも民間人にもね。
そう言った人たちが【神雷を制する天空】に手を貸しているの。しかも一部ではこちらが追及できない、罪に問えない些細なレベルでね。
テロが起きた後の報告で手違いの情報やこちらが誤認するような情報を上げたり、逃げた隠し通路はその地域住民が古くから使用している緊急の避難経路だったとか」
「そりゃまた面倒な話だな……」
「ええ。でもゼウス様はそんな彼らを積極的には罰しないわ。その理由は知っているかしら?」
「ああ。現在の【オリュンポス】の発展した歴史を学べば否が応でもわかる」
全ての多元世界を巻き込んだ【異形種大戦】はどの世界にも甚大なる被害を与えた。
大戦後、各世界は同盟を結び、技術と人を交流させることで大戦による被害からの復興、世界の発展を進めた。だがその障害となったのは各世界における優勢思想だ。
どの神話世界にも己が世界、そこに住まう人々こそが最も素晴らしく優れているという考えを持つ者はいる。特にその意識が強いのが大戦後も自ら他の多元世界との交流を断った【エデン】だろう。
そして【オリュンポス】もどちらかといえば強い優勢思想を持つ世界だった。他世界からの流民や【放浪する神】を保護しつつも、【オリュンポス】に住まう人々や神々と同じ権利を与えはしなかった。
それを大きく変革したのが現ゼウスだ。彼もまた他世界からの流民であり【オリュンポス】からいいように扱われる現状に不満を持つ一人だった。紆余曲折の末、彼は【オリュンポス】のトップであるゼウスの名と力を得て【オリュンポス】の在り方を大きく変革した。今までは支配され、一方的に搾取されるだけだった民に幾つもの権限や保証を付与し、流民や【放浪する神】を【オリュンポス】の民と同等に扱う法などを作り、各世界からやってくる品々にかけていた関税などを少なくする等々。
結果として【オリュンポス】は多元世界の中でも最大の発展を遂げ、大戦以上の力を得た。とはいえ彼の世界変革に当然ながら優勢思想を持つもの、昔から【オリュンポス】に住まう人々は少なからず反発。自分たちならもっと上手くやれた。自分たちを同じように使えばいいものの。そのような思いを抱いているという。
結果、力あるものは【神雷を制する天空】に加わるか影で協力しており、力無きものはできる範囲で【神雷を制する天空】らに助力しているのだという。
「ゼウス様自身も自分のやり方が急変過ぎたことを自覚している。だから明確に敵対しない相手には強く出れないんだったか」
「ええ。現【オリュンポス十二神】も半数が【放浪する神】。これにも優勢思想派の貴族や民から不満の声が上がっているわね。
まぁ今のところ大きな問題やトラブルを起こしていないのと、現【オリュンポス十二神】がしっかりと功績を上げているからその不満を抑え込めているんでしょうけど」
各多元世界のトップや上層部にはその世界出身の神や英雄で固める傾向が未だ根強い。
もちろん例外はあるがそれでも外様の神々の大半は元の世界に存在する彼らに比べ、低い地位にされていることが多い。
「【神雷を制する天空】の標的とされているのは現【オリュンポス】におけるゼウス派と、移民や【放浪する神】やその縁者や関係者。
もちろんそれ以外に全くの犠牲がないとは言えないが、標的とされている人たちに比べれば微細だったな」
「それも優勢思想を持つ民が【神雷を制する天空】を支える理由の一つでしょうね。
きっと【神雷を制する天空】なら自分たちを優遇したうえ、【オリュンポス】を今より発展させてくれると思っているんでしょ。
全くばかげた話だわ。あいつらが下々のことまで考えているはずがないでしょうに。現ゼウス様が王座に就く前、どんな生活だったのかもう忘れたのかしら」
吐き捨てる様に言うアイシャ。
現ゼウスがトップに立つ前までの【オリュンポス】はわかりやすく言えば絶対王政に尽きる。長い歴史を持つ王と貴族、そして神々たちによる民の支配。
富める者はより豊かに、強き者はより強く。そして力無き者や貧しき者、【放浪する神】や他世界からの移住者は彼らに服従される日々を送っていたという。
「【ムンドゥス】や【オリュンポス】、【高天原】の政治体系は我が【ヴェーダ】も見習う点は多いわ。
とはいえそれをそっくり真似れば内乱が勃発するから、慎重にしなければいけないけれど」
「各世界と交流があるとはいえ【エデン】に近いからなお前の生まれ故郷は。
人の上に立つ者としては大変だ。──小市民である俺には関係がないが」
「それはどうかしら? 近いうちに雄斗も似たような立場になると思うのだけれど」
「あのな。俺は【万雷の閃刀】を手放して【アルゴナウタエ】で一人の戦士として生きていくんだぞ。
そんなもんになるわけがないだろう」
思わず反論する雄斗だが、ハンドルを握るアイシャは一瞬、意味深な笑みを浮かべて振り向く。
「あなたが望まないことはわかっているけど、周囲や状況がそれを許すかしら?
それに【万雷の閃刀】を手放したとしても【アルゴナウタエ】や【ムンドゥス】がそのままにしておくとも思えないわね。
このまま順調に功績を上げていけば今すぐではないにしろ、【万雷の閃刀】に代わる力、又は権威をあなたに与えるでしょうね。
それだけの可能性があるとあなた自身がこの一年弱で証明したのだから」
「……」
「それとこれも言っておくけど、近いうちに誰かとの婚姻も画策されるわよ。優れた英傑は血を繋ぎ、後継を残すのは義務のようなものだから。
叢雲さんやマリアがいるでしょうけど、【ムンドゥス】からも一人ぐらいはそう言う相手が来るでしょうね」
あははと笑うアイシャ。一方の雄斗は眉間に深いしわを寄せる。
「それともあたしと結婚する? もしそうしたら私以外を妻に迎えるのを止めることはできるけど」
「断る。お前とそうなれば俺の人生が理不尽な事件だらけになりそうだ。それにいくらお前でもそんなことはできないだろう」
「やれるわよ。あたしの家リガート家は【ヴェーダ】でも屈指の大家であり名家。それに現【トリムールティ】の一人はあたしの叔父様。
あたしがそう望めば【アルゴナウタエ】も【ムンドゥス】もいろんな面で強気には出れないわ。もし出ようものなら我が家や【ヴェーダ】を刺激して、最悪戦争になるのだし」
【トリムールティ】。【ヴェーダ】を統括する三柱の神王の総称だ。かの世界はこの神々により動かされている。
そしてアイシャが実力者でありながら数々の問題を起こし、それらが大ごとにまで発展していない理由の一つでもある。
「それでどうするの? あたしとしてはそうなっても構わないけど」
「断る。むしろそんな理由ならまだシンシア姫とそうなった方がましだな。
【オリュンポス】の姫君であり美人で淑やか。しかも強い。文句のつけようがない」
「なるほど。やはり姉様が目下最大のライバルになるのね……。まぁ私から見ても姉様は魅力的だし無理もないけど。
けれど婚約者がいるのにそういうことを言うのはいただけないわ。雪菜ちゃんが可哀そうよ」
「あいつはもう婚約者じゃ──」
ない、といおうとして雄斗は慌てて言葉を止める。
そしてそれを聞いたアイシャは目を丸くし、すぐに不振の眼差しをこちらに向けてくる。
「……その先は何? 彼女との婚約は解消したの? 続けなさい」
「ああもういいだろ。さっさと案内してくれ。しないなら俺一人で行く」
「あ、ちょっと。……わかったわよ。難しい話はこれぐらいにしてオトリーズを案内するわね!」
アイシャ先導で行われるオトリーズ観光。中世ヨーロッパの街並みのような大都市にある歴史ある古城や博物館など、ガイドブックに載っている場所はもちろん、地元民しか知らない穴場などを訪れる。
エナリオスと同じく様々な種族のるつぼであるオトリーズ。他世界の住民や【オリュンポス】特有の種族である三メートルを超える体躯で上半身は人間、下半身はべビであるギガス族の姿が目に映る。
それらを見て回り、雄斗は素直に楽しむ。また昼食を取ったオトリーズのレストランで食べた肉量やパスタ、露店で購入したジェラートに似たアイスや果実も気分を良くさせる。
また予想に反してアイシャのガイドは優秀だった。説明や解説を行うさまは見事の一言で、他にも細かな気配りも効いており平穏な時間が過ぎていく。
予想以上に充実した、平和な休暇。そしてオトリーズの街が茜色に照らされる時刻になったとき、二人は最後の場所へやってくる。
「さ、着いたわよ。ここが現在のオトリーズの最大の名所といってもいいフラウィズ闘技場よ!」
眼前にある巨大なドームを指差すアイシャ。パッと見てプロサッカーや野球のスタジアムに見えるが、闘技場を構成している素材や張り巡らされている結界はそれとは違うことを教えている。
(MBF専用のスタジアムか。スタジアムもだが結界自体もかなり堅そうだな)
MBFとは魔術師同士による興行試合。簡単に言えばプロボクシングのようなものである。
学院に入学し魔術師を目指すものの何割かはこのMBFを目標にしている者もいる。理由は多々あるが一番の理由は普通の魔術師より金が稼げるのと、危険が少ないからだ。
魔術師同士がぶつかり合うMBFだが戦場における殺し合いではなくあくまで興行だ。そして各世界ともMBFには相応の金額をつぎ込み、トップランカーたちには高い報酬を与えている。
ちなみに雄斗も一時期はMBFに出場していた。だが数試合したあとすぐにぱたりと出場を止めてしまった。
理由は単純だ。当時必要だった金を稼げたし、雄斗が剣を握るのは家族を、大切な人を守るためだからだ。興行──見世物になる気はない。
入場チケットを購入しようとする雄斗にアイシャは「あたしと一緒なら関係者として通れるから」と言い、裏手にある関係者専用のゲートに向かう。
「?」
ふと、ゲート入り口で足を止める。昼間に見た浮島が大きくなっているように見えたからだ。
しかしアイシャに呼びかけられすぐに彼女の後を追う。
「今日は我が【ヴェーダ】の誇る期待の新星、サイの十連勝がかかった試合なのよ。VIP席で見せてあげるわね」
「サイ・セカーラ……。確か【アルゴナウタエ】のスカウト候補にあったな。
神財を保持するトップランカーで【アルゴナウタエ】を始めとするいくつかの世界から興味を抱かれているとか」
「ええ。お爺様も興味を示している若手屈指の実力者よ。──まぁあたしより年上なんだけど」
物静かな広い通路を歩く雄斗たち。時折すれ違う関係者に軽く頭を下げる。
控室に到着するとアイシャはノック乗せず扉を開ける。
「はーい、サイ。調子はどうかしら?」
「これはアイシャ様……! わざわざ来てくださるとは光栄です!」
アイシャの姿を確認して席を立つ温和そうな男性。
頬を上気させ、アイシャと握手をかわす。
「気にしないで。あなたは最高クラスであるAクラスでの初の十連勝に王手をかけているのよ。
【ヴェーダ】の神として気にかけるのは当然よ」
「ありがとうございます……! ところで隣の方は」
「紹介が遅れたわね。あなたも噂ぐらいは聞いているでしょ。
【アルゴナウタエ】に所属する当代の【万雷の閃刀】の所有者である鳴神雄斗よ」
「なんと……! 初めまして、サイ・セガーラです」
「初めまして。鳴神雄斗です」
朗らかな笑顔を浮かべるサイと握手をかわす雄斗。
そして妙に浮かれ気味の彼と二、三言葉を交わし、二人は控室を出る。
アイシャの案内の元、VIPルームにやってきた雄斗。しばらくして始まるMBF。サイの試合はトリらしく組まれていた別の試合が繰り広げられる。
「うーん。今日もこれと言った人はいないわねぇ」
「MBFでの新戦力発見。レベルの低い試合を見続けなければいけないなんて女神さまは大変だな」
「そうなのよー。あたしたちが注目するような才能を持つものが見つかることもほとんどないし。結構ストレスたまるのよこれ」
小さく欠伸をするアイシャ。しかし無理もない。
当人たちには失礼だが、雄斗たちから見た彼らの戦いはレベルが低すぎて論外なものばかりだ。アイシャが言った通り雄斗たちが注目するような特技を持った者もいない。
(【オリュンポス】のMBFは他の世界に比べてレベルが高いと聞いていたが。こんなものか)
とはいえ戦っている当人たちが本気なことは伝わってくる。
せめて眠るような愚行をしまいと眠気を吹き飛ばすためコーヒーや刺激のあるものを注文し、雑談する雄斗たち。
そうしているうちに時間は過ぎていき、最後の試合が開始される。
「さてトリの試合だな。サイさんはどんな感じかね」
眼下で始まるサイの試合。相手はサイと同じMBFのトップランカー。
両者とも互角に激しくぶつかり合う様は観客を今日一番に熱狂させ、今まで静かだったVIPルームにいる何人かも驚きや関心の声を上げる。
しかし雄斗とアイシャは試合が終わるまで平静そのものだった。サイが史上初めての十連勝を達成した時もだ。
「どうだった?」
「【アルゴナウタエ】に来たらしばらくは実戦漬けだな。強いことはわかったが戦いにおける心構えがまるでできてない。
競技者としては一流だが、戦士としては二流だな」
「やっぱり? お爺さまもそう評価していたわ。技体は問題ないけど心が全く足りていないって。
っと、ちょっと彼を労ってくるわ。一応史上初の十連勝を達成したわけだし。
先に車のところにいてね」
当人にはとても聞かせられない、散々なことを言う雄斗たち。
控室に向かうアイシャを見送り雄斗は外に向かう。そして出口の傍にあるトイレに入り用を足し手を洗って外に出ようとした時だ、微かだが空気が噴き出す音が聞こえ足を止める。
「今の音は……」
何となく、いやな予感がする。雄斗はトイレ内を探すと、個室にある便器の脇に起動している小さな機械を見つける。
それを見て雄斗は軽く目を見開く。芳香剤のように見えるそれだが、これは小型の気流制御装置だ。小さいが高性能と評判の。
(何でこんなものが……!)
【オリュンポス】において乾燥機や除湿器など、空気や気流を発生させる類の機械は厳しい制限がある。使用する場合役所に届けを出さなくてはならないし、申請理由以外で使えば罰金や罰則もある。
その理由は【タルタロス】が噴き出す風で浮いている浮島の制御のためだ。浮島を浮かせている【タルタロス】の風は緻密に制御されており、それが狂えば最悪、浮島が落下する可能性すらある。
念のため他の個室や別のトイレにある個室を見てみる。するとどの部屋にも同じ装置があった。そしてどこにも政府公認の印がない。
雄斗は即座にアイシャに連絡、彼女と合流して気流制御装置を突き出す。
「男子トイレの個室にあった。今のところ確認した全てにだ。ひとまず全部止めておいたが──」
「……! すぐに女子トイレも確認させるわ。
いえ、ここだけじゃない。オトリーズにある施設すべてのトイレに同じものがないかの確認を。それと風力発電所施設にも連絡を取ってみる!」
アイシャも顔を青ざめさせ携帯を手に取る。いくつかの場所に電話した後、深刻そうな顔で彼女は言う。
「風力発電施設や都庁に連絡を取ったけど今しがた、気流の乱れが激しくなったそうよ。
このまま状況が続けば近くにある浮島が落下する可能性もあるらしいわ」
「マジか……! 俺たちはどうする」
「ひとまず外に出ましょう! もしかしたら浮島が至近距離まで迫っているかも……!」
雄斗は頷き、彼女と共にすぐに外に出る。
そして闇色と茜色の二つの色に染まっている空を見上げて愕然となった。先程ドームに入る時に見た浮島がさらに大きくなっている。
もう、間違いはない。あの浮島は、明らかにオトリーズに向けて落ちてきている。
(アイシャ……!)
(ええ、明らかに浮島が落ちているわ。周囲もそれに気付き始めてる。
これは間違いなく【神雷を制する天空】の仕業ね……!)
周囲の混乱を加速させないため、念話で話す二人。
周りの人々から聞こえる騒めき、困惑の声を聴いて彼女も厳しい表情になる。
(どうする?)
(ひとまず浮島に行くわ! オトリーズの方は都庁の人たちに任せておけば問題ないし、あたしの想像通りなら多分浮島にある風力発電所施設は……!)
念話でアイシャがそう言った時だ、周辺から無数の爆発音が聞こえてくる。
突然の出来事に恐れおののく人々。さらに街中に設置されている警備用の魔導人形が勝手に動き出しては近くにいる人達に向かっていた。
「やめろ!」
とっさに稲妻を放つ雄斗。魔導人形が吹き飛んだのを見て【万雷の閃刀】を召喚し跳躍。眼科に見える暴走した魔導人形に雷撃を落として沈黙させる。
静止、又は破壊されて動きを止めた魔導人形を見て軽く息をつく。しかし他の箇所から聞こえる破壊音、そしてこれ見よがしに放たれている一柱の神のオーラを雄斗は察する。
明らかな陽動。だが迷っている暇はない。雄斗は念話でアイシャに言う。
(アイシャ! 浮島に行って落下を何とかしろ!
テロを仕掛けてきた何者かは俺が治安維持部隊と協力して何とかする!)
(わかったわ!)
躊躇せず浮島に向かうアイシャ。
それを見て雄斗は小さく笑み、雷となって放たれている神のオーラの元に飛ぶ。もちろんその途中で暴走している魔導人形を撃破するのも忘れない。
(都市にある魔導人形全てが暴走状態じゃないのはありがたい。さて、一体誰がこんな真似をしやがった……!)
騒ぎを起こした何者かに怒りを抱きながら都市の西──貴族や政府高官が住んでいる高級住宅の方に向かう。
そして住宅街に入り魔導人形数体を雷撃で止めた時だ、巨大な魔力が高まり発散。直後にけたたましい爆発が響き、人々の悲鳴が耳に届く。
爆発の発生居場所に到着した雄斗。住宅街の中心に近い場所にあった広場は無残にも破壊されており、また炎が街を包んでいた。
そこには倒れ伏す治安維持部隊の面々──ぱっと見だがどうやら全員かろうじて生きている──のと、神のオーラを放ち武骨な大剣を肩に担ぐ青年の姿がある。
彼はこちらを見ると同時、雄斗に向けて斬撃を放つ。龍のような巨大な炎が迫るが、雄斗は【万雷の閃刀】を一振りして粉砕し、地上に降り立つ。
「騒ぎを起こしたのはお前だな。何者だ」
「ハッ。人に名前を尋ねるときは名乗るのが礼儀なのも知らねぇのか。──まあいい。テメェのツラは良く知っているからな鳴神雄斗」
初対面だというのに憎々しげな表情を雄斗に向ける男。
手にした大剣──神具の切っ先を向けて、言う。
「ゼノン・トラーケ・アレス。当代のアレスを継承したモンだ。
そして腐った政府を正すべく、【神雷を制する天空】に籍を置いている」
怒り、そして憎しみの顔でゼノンは言った。
次回更新は10月28日 夜7時です。




