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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
三章  黒傷を濯げ、清流の剣
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四話






(暇だ)


 

 サクル・レーのデッキ上で【万雷ばんらい閃刀せんとう】を肩に担いている雄斗は思う。

 眼前に見える【異形宮ケイブ】。そしてその周囲には無数の閃光が見え、爆音が轟いている。その一つ一つが【異形種キメラ】が倒され、粉砕されていく証明だ。


(後方支援が主と言われていたがまさかここまで暇だとは)


 戦いが始まり数時間。最初の方こそ巣から大量に出現し艦に向かってきた【異形種】の討伐でそれなりに忙しかった。

 だがそれも仲間たちや自分たちと同じように艦の守護と援護のために配置された【アヴェスター】と【ヌトゲプ】の戦士たちが的確に対応。

 たまに十数体の【異形種】が向かってくるが艦船の砲台で消滅し、逃れても雄斗より前にいる者たちが対処してしまう。

 結果、暇となっているわけだ。


(まぁカーリーの奴がいきなりかましたおかげもあるんだろうが)


 ここにアイシャはもういない。戦闘開始直後ド派手な神威絶技を巣に向かってかました後、【異形宮】から飛び出してきた【異形種】の群れと【異形王フェノメノ】──彼女たちが探していたらしい怨敵を一人で打ち倒した。

 正直、その戦いぶりは凄まじく、素晴らしかった。終始圧倒しており噂に違わぬ実力ぶりを見せつけられた。雄斗も先日、単独で【異形王】を倒したが、それと比べると天と地ほどの差があると言っていい。

 しかし感心したのはそこまでだった。アイシャは【異形王】を倒した後、早々に引き上げてしまったのだ。身勝手すぎるその行動に雄斗はもちろん憤慨したが、シャハブたちトップから戦いに集中するよう呼びかけられて感情を収め、任務に意識を向けて現在に至っている。


(参加するなら最後までいろって話だ……!)


 こちらに笑顔を見せながら飛び去っていくアイシャの顔を思い出し雄斗は再びむかむかしてくる。

 今までいろんな人たちに会ってきたが、彼女ほど自分勝手なものはいなかった。そう断言するほどに自己中心的な女だった。

 再び沸き上がったアイシャへの怒りを大きく息を吐き出すことで外に放出し、雄斗は仲間たちに語り掛ける。


(マリア、雪菜、ネシャートさん。そちらはどんな様子だ?)

(今はほとんど出番はないかな)

(こちらもです)

(私のいる医務室もだいぶ静かになっているわ。新たな怪我人も運ばれてこないし。

 そろそろ戦いの方も終わりかしら)


 落ち着いているが気は緩んでいない三者の念話。

 と、そこへ聞こえてくる新たなニュース。


(アシーム殿下とファラフ様が四体目の【異形王】を討伐されたとのことだ!)

(おお! さすがは殿下。未来のファラオ!)


 聞こえてくる艦の前方にいる味方の声。彼らはアシーム達の直属の部隊に所属する戦士たちだ。

 配置されている神軍は四つ。アシームの【太陽戦士団ラー・ファーレス】、アザードの【竜討旗に集う勇士シャー・ナーメ】、シャハブの【星天団アルシラー】、アルシアの【光明の盟友ヌール・サダーカ】。

 他の神々も当然固有の神軍を保持しているが、今回は数名の側近を除きこの作戦には参加していない。

 【アヴェスター】や【ヌトゲプ】の警護などいろんな任務があるからだろうというのはネシャートの弁だ。

 そして後方支援に回されているのは雄斗たちと同じ同世代の若者だ。ネシャート曰く将来有望な若手とのことだ。


(これで残る【異形王】は一体のみ。それも【アヴェスター】の神々が追い詰めているという報告が来ています)

(ならばこの戦いも、もう終わりね)

(ああ。さすがは【アヴェスター】に【ヌトゲプ】。二つの世界が誇る方々だ)

(やれやれ。あんまり戦えなかったなぁ)


 明らかに気が緩んでいる声を聞いて雄斗は眉を顰める。気持ちはわかるがまだ戦いは続いているし【異形王】も全滅していないというのに。

 だが彼らが油断する気持ちもわからなくもない。【異形宮】と複数の【異形王】を殲滅する今回の大規模作戦。それは順当に進んでいるからだ。


(アスタルテの奴の暴れっぷりも凄かったからなぁ)


 マリアと同格と称されているファルナーズはシャハブと共に巣内部を突き進む途中に出た広い空間でランクCの【異形王】と交戦。

 鏡のように輝き全身がブロックで構成された巨人のような【異形王】にシャハブと二人で挑むが、対峙する【異形王】はファルナーズたちが放つ魔力攻撃や神威絶技をことごとく弾き、反射していた。

 しかし戦闘時間は長くかからなかった。反射された攻撃を受けて激怒したファルナーズが跳ね返された攻撃以上の神威絶技を放ち、反射される・・・・・攻撃もろとも・・・・・・【異形王】を粉砕したからだ。

 もっともそこで力を使いすぎたファルナーズは以降、シャハブのサポートに徹していた。マリアはそんな彼女を見て「相変わらず力任せ勢い任せ。感情に流されて後先考えず戦っている」と辛らつなコメントを述べていた。


(攻撃だけなら【アヴェスター】の神々の中でも上位ってのも眉唾じゃなさそうだ)


 シャフナーズの戦いぶりを回想しながら雄斗が思った時だ、脳内に静かな声が響く。


(みんな気を抜かないで。まだ戦いは続いているわ。

 殿下たちが必死に戦っておられるのだから、残り少ない時間でも気を引き締めましょう)


 穏やかながらも芯の強さが感じられる声。作戦前に対面した部隊長の一人だ。

 確か亜族──竜族の女性で白雪のように輝く銀髪の美女だった。名前は何と言ったか──


(ミフル・アフターヴ、サクル・レー司令部より緊急連絡!)


 雄斗が声の主を思い浮かべようとした時、緊迫した声が響く。


(アルシア様達が戦っていたい【異形王】グリンダーカが逃走! あと数十秒で巣の北東の方角より飛び出してきます!)

(アシーム殿下も追跡していますがグリンダーカの方が先に巣の外に出ます。両艦に配備された方々はアルシア様到着まで足止めをお願いします!)

 

 やや引きつったオペレーターの声が聞こえた直後、巣の上部が吹き飛ぶ。そして爆発と煙の中から傷ついた異形の王が姿を現す。

 一目見たその姿は頭部に三本の角を生やした竜人だ。しかし全身は蛇のような鱗肌でありこちらを睨みつける眼も爬虫類のそれ。そして何より特徴的なのは背部から伸びている二つの長大な蛇の頭だ。

 【異形王】グリンダーカ。ランクBとされている強敵だ。


「【万雷剣群ばんらいけんぐん】っと……!」


 早々に掌握を済ませた雄斗はこちらへ逃げてくるグリンダーカへ雷を放つ。

 巨木のような太く長大な雷霆。しかしそれはグリンダーカが生み出した闇に呑まれて消えてしまう。

 とはいえ雄斗はさほど驚かない。作戦会議の時にグリンダーカの異能について聞かされていたからだ。【闇食い】。展開した闇で放たれた攻撃を飲み込む【殺戮技さつりくぎ】だ。

 神威絶技さえも難なく吸収するらしく、雄斗が放ったただの雷が飲まれるのは当然だ。

 だがそれでかまわない。雄斗の放った雷霆はグリンダーカを少しではあるが動きを止めたからだ。


(俺たちはあくまで足止め。止めは殿下たちがするからな)


 今のグリンダーカの消耗ぐらいを見て、倒せないと思わないこともない。

 だが追い詰められた手負いの獣は何をしでかすのかわからない。下手に手を出して予想外の反撃、行動を取られて被害を発生させたり、逃げられるのは最悪の展開。ならば命令通り足止めに徹するのが一番だ。

 そして【異形王】の出現に固まっていた他部隊の面々も雄斗の行動を見て正気に返ったのだろう。遠距離から絶え間なく魔術や神威による攻撃を放つ。

 次元の狭間の空に咲く、爆発の閃光と神威の輝き。グリンダーカは高速でそれらをかわすがすべてはかわし切れず、幾度も先程雄斗の攻撃を飲んだ闇を展開、または迎撃のために動きを止めている。


「オオオオオッッ!!」


 苛立ちの声を上げてグリンダーカは全身から闇を放出。周囲を黒一色で覆ってしまう。

 アルシア達との戦いで傷つき消耗しているというのにまだ余力がある。それに驚きながらも雄斗は【心眼】で逃げようとするグリンダーカの前方に回り込む。


「邪魔ダ……!」


 立ち塞がった雄斗にグリンダーカは一瞬止まるが、すぐに両拳を振り上げて接近してくる。

 繰り出される体術は荒々しくも鋭い。また背部の蛇も絡み不規則な攻撃が来る。

 さらに闇の弾丸や砲撃、ブレスを放ってくる。しかもブレスは闇だけではなく炎に氷など多種多様。石化のブレスが服を掠め、そこが石化し始めたのを見た時、雄斗は肝を冷やす。


(強い! それになんつう馬鹿力……!)


 何度か【万雷の閃刀】でグリンダーカの拳や蹴りを逸らした後、雄斗は小さく舌打ちする。

 一撃の重さが並外れている。まともに食らえば軽く骨の一本二本は折れそうな威力だ。

 アルシア達と戦い疲弊しているというのにこの強さ。今の雄斗が倒す気で挑んでも苦戦は免れないだろう。

 しかしそこへ味方からの支援の魔術が飛んできた。巨大な炎が両者の間に割って入り、巨大な雷と光の光弾がグリンダーカに命中。小さく吹き飛ばす。


(大した腕だ!)


 グリンダーカが展開した闇のおかげで【心眼】の担い手でなければ周囲はほとんど何も見えない。

 にも拘らず遠距離からの魔術攻撃をこうも正確に放つとは。支援をくれた誰かに雄斗は感心し、感謝する。


「雄斗さん!」

「大丈夫!?」

「来たか! 助かった!」


 駆け付けた雪菜とマリアを見て雄斗は破顔。彼女らと共にグリンダーカに向き直る。

 雄斗と同様に両者とも【掌握】、【神解】状態。新たに出現したマリアたちにグリンダーカが憤怒の顔となり牙をむく。


「【穢れを押し返す聖壁ノンスポルコ・サクロムーロ】!」

「【大地の捩手だいちのれつしゅ】!」


 襲いかかってくるグリンダーカに雄斗と同じくマリアと雪菜も直接倒そうとはせず足止めに徹する。

 さすがに三人がかりと魔術支援もある状況では戦況は雄斗たちが優勢となる。だが雪菜もマリアも厳しい表情だ。

 グリンダーカと数合剣を交えて彼女たちも気づいたのだろう。傷つき消耗しているとはいえ、眼前の相手が噂に違わぬ強敵であることに。気を緩めれば一瞬で倒される相手だということに。

 とはいえ雄斗たちが攻めに転じなければこの状況は維持できる。このまま押しとどめてアルシア達が来るのを待つ。

 そう雄斗が思ったときだ、眼前の【異形王】はどうしたことかサクル・レーの方を見るや、そちらに向かって飛んでいく。


「え!?」

「追うぞ! 嫌な予感しかしない!」


 驚く雪菜にそう叫び、雄斗は【異形王】の後を追う。

 一瞬だけ見えたのだ。サクル・レーの方を見たグリンダーカが一発逆転できると確信したギャンブラーが浮かべるような笑みをしていたのを。

 黄金の艦に近づくグリンダーカに艦にいる仲間たちから無数の遠距離攻撃が放たれる。しかし異形の竜人はそれらを受け傷つきつつも速度を落とさず艦の先端に轟音を響かせて着地する。


(ミディカス嬢を守れ! 竜人である彼女を食らって力を回復させる気だ!)


 艦より響く悲鳴のような命令。それを聞いて雄斗は思い出した。ミディカス。シンシア・ミディカス。

 作戦開始前に挨拶された【太陽戦士団】にいた長い銀髪と二本の竜角を持つ竜人だ。

 そして先程、皆に叱責の言葉を投げかけた女性だ。


(冗談じゃねぇ! 彼女を食われでもしたらどうしようもなくなる!)


 グリンダーカの異能の一つに【竜蛇食い】と呼ばれるものがある。竜蛇の【異形種】、または竜蛇の亜族を食らい自らの糧とする能力だ。

 以前とある神に追い詰められたことがあるグリンダーカだが近くにいた眷属を食らって回復し、その神を撤退に追い込んだという情報がある。

 もしミディカスを食われでもしたら形勢は一気に逆転する。雄斗たちに匹敵する竜人である彼女を食えばグリンダーカはおそらくアルシア達との戦いで消耗した傷やダメージまでも回復してしまうだろう。

 となれば逃げられるのは確実。下手をしたら犠牲者も出てしまう。

 降り立ったグリンダーカに周囲にいた【太陽戦士団】の戦士たちが一斉に飛び掛かる。だが【異形王】の体から莫大な闇が放出されそれが無数の手の形となり、攻撃しようとした【太陽戦士団】の者たちを殴っては払いのける。

 そしてグリンダーカが放つ強大な闇が正面に立つミディカスと彼女の背後に倒れている少女を呑み込もうとする。

 波のような闇に対し、ミディカスは津波をせき止めるような巨大な巨大防御魔術を展開した。

 防御魔術に阻まれる黒の波。だがそれも一瞬。あっさりと砕かれ闇は二人に迫る。


(やらせるかっ!)


 普通に助けるのは間に合わない。そう判断した雄斗はミディカスを蹴り飛ばし、側にいた少女の腕をつかんで力任せに放り投げる。

 投げた少女の悲鳴が聞こえてきたがすぐにそれは途切れる。グリンダーカの放った闇に雄斗が吞まれたからだ。


(ぐっ……!)


 暗闇に捕らわれた瞬間、雄斗は顔をしかめる。魔力体力が急激な勢いで減りさらに体のあちこちが溶解し始めたからだ。

 このままだと闇に解かされるまで数十秒といった状況。しかし雄斗は微笑み、呟く。


「【剣躰けんたい】」


 闇の中に煌めく神剣の輝き。瞬間、一筋の光もなかった闇はバラバラに四散し、雄斗はサクル・レーの艦先に戻ってくる。

 だが安堵はできない。正面には血走った眼で雄斗を見つめているグリンダーカの姿があったからだ。

 目の前で獲物を掻っ攫われ、激怒する獣の顔だ。


(迎撃)


 をと思った次の瞬間だ、グリンダーカが一瞬で間合いを詰め手刀を繰り出してきた。

 刃のような鋭い爪が生えた手刀は雄斗の左胸を易々と貫いた。








次回更新は7月29日 夜7時です。

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