11、魔物との遭遇
ハルの気持ちが溢れすぎる回でした。
偉そうな事は言いません。
真っ直ぐストレートなラブストーリーを目指します。
この世で最高のお宿、『セル』を出発した私達は、ちょうど今魔物の住む森の林道に差し掛かっていた。
今日の御者は、当番で筋骨隆々魔導師のヴァンである。
私は密かに、【音声】付きの短い【映像】のテストをしていた。
モニターは愛用の小さい額の様な形状の、魔法映写板だ。
前世のタブレットみたいで、使い勝手は良い。
それをイヤホンのような器具を使って、音声の状態を見る。
音も映像も単体での再生具合は問題ない。
しかしそれを組み合わせて同時にぴったりと、、、が難航していた。
音が聞こえても映像が遅いんじゃーと頭を抱えていると、突然馬車が急停車した。
前につんのめりそうになった私を、咄嗟にレン様が抱きとめてくれた。
うわぁ、ヴァンありがとう!
つんのめりそうになった時は、ヘーベル総括部長の支給品ではあるが超絶高価なこの魔法映像板を、壊しでもしたら、おのれ許すまじ!って一瞬だけ思ったけども!
映像板無事だったし、レン様に抱きとめて貰えたしだしだし!
寧ろ感謝だヴァンありがとう!
、、、じゃない。
なんだか外の様子が騒がしい。
レン様とくっついて窓から外を覗くと、魔物と応戦しているヴァンの姿が見えた。
「何てこと!私も行くわ!」
レン様が真っ先に飛び出して行き、私、そしてやんごとなき雅な和風イケメン剣士リューイが続いた。
あれ?飛び出す順番がおかしくないか?、、、と思いつつも、私は記録のためレン様の後をカメラを構えて追った。
レン様はやや苦戦しているヴァンのもとへ行くと、徐にあの美脚を振り上げ、魔物にかかと落としを喰らわせた。
癒しと浄化の聖女が、、、美脚を振り上げ、かかと落とし、、、
そしてやんごとなき雅な和風イケメン剣士リューイに向かって行った別の魔物に、正拳付きを喰らわせた。
癒しと浄化の聖女が、、、素手で、正拳付き、、、
その後も次々とレン様は、まるで水を得た魚の如く、魔物を倒していった。
レン様が動く度に、迸る汗の滴、そして狂気にも似た、ゾクっとするほどの美しい表情、そして長い脚。
私は魂を振り絞るように、その全てを全力で撮影した。
でも私は同時に、この美しい人がとても、激しく生き急いでいる様に見えた。
生き急ぎ、哀しみのバッドエンドストーリーが私の脳裏にチラつく。
冗談じゃない。
そんなことさせるものか。
絶対に、絶対にさせない、バッドエンドなんて。
魔物の攻撃が、レン様の頬を掠めた。
私はカメラを持ったまま、咄嗟にレン様のもとに駆け寄り、庇うように前に立った。
再度襲って来る魔物に向けて、必死でフラッシュを焚いた。
まだまだ開発中のテスト段階ではあったが、私のカメラフラッシュは無事に閃光を放ち、バッチリ良い感じで魔物の目を眩ませた。
連携で、やんごとなき雅な和風イケメン剣士リューイが、魔物を脳天から斬りつけ、筋骨隆々魔導師ヴァンがトドメで魔物を倒し終了。
終了してないのは、私の哀しみと怒りだった。
「レン様!一人で突っ走って、何やってんですか!」
やんごとなき雅な和風イケメン剣士リューイから、血止め軟膏を貰い受けつつ、レン様はがなる私を見て、微笑んだ。
私はさらに近付き、レン様にまくし立てた。
「自分だけで、敵に突っ込まないでください!もっと仲間と連携して、、、。」
私の言葉はそれ以上続かなかった。
レン様の手が、私の頬に触れていたから。
「血を流したのは私なのに、何故ハルさんが泣いているの。」
私は怒りながらも、知らぬうちに目から涙を流していた。
「傷ついて血なんか流して欲しくないからですレン様。あなたに死んでも欲しくないからです、絶対に。」
レン様は私を見つめ、少し困ったように、優しく首を傾げた。
ああなんて、この目の前の人は美しいんだ。
ずっとずっと、見ていたいのに、自分の目の涙のせいで、その美しい姿は霞んでしまった。
完全に二人の世界〜な感じだったのに、それをぶち壊したのは、やんごとなき雅な和風イケメン剣士リューイだった。
「ねぇ君達、魔物の血で汚れた手足どうにかしたいし、あの宿の女将さんから餞別に貰ったお菓子で、おやつにしない?魔物全部倒したし休憩でさ。」
「わぁ!おやつ!!」
レン様の意識も完全にそっちに持って行かれてしまった。
私はため息をつくと、鼻を啜り、必要最小限の最速最短で、おやつタイムの馬車へと向かった。
女将さんの手製の蒸しパンは、素朴な味わいで心と身体に優しかった。
筋骨隆々魔導師ヴァンの煎れたお茶も絶品だった。
今度煎れ方をレクチャーして貰おうと内心思いつつ、レン様の方を見ると、他二人(扱い雑)のやり取りを微笑みながら見る様は、本当に聖女そのものだった。
私はそれも、カメラで撮影した。
狂気のように魔物と闘うレン様も、微笑んでお茶を飲むレン様も、どちらも本当のレン様の姿だ。
ありのままの姿。
ああどうか、神様お願いです。
どうかレン様が幸せに一生暮らせますように。
この祖父のカメラで、幸せなレン様だけを沢山沢山、撮影出来ますように。
「ハルさん、お茶のお代わりは〜?」
レン様が、こっちを向いてそう言った。
「はい、いただきます。ありがとうございます。」
私はカップを持って、レン様の方へと歩き出した。
お読み頂き、ありがとうございます。




