46 開戦
「寒くない? 雫」
「大丈夫、太郎さんと一緒だから、、」
俺は雫を抱えて、城の上空約1kmの高さに立っていた。左手で雫の両足を抱え右手を雫の背中に回し、空中でお姫様抱っこをしている。少し強く抱きしめると、雫も俺の首に回した手に少しだけ力を入れ、頭を預けてきた。
想いを伝えあった俺たちには、怖いものなど無いように感じられた。いつもは恐る恐る触れ合っていたところがあったが、今はこうして抱きしめ合うことに何もためらいはない。
高度1kmの高さでは、遠くの地平線は丸みを帯びて見え、周りは強い風がゴウゴウと音を立てて吹き荒れている。真っ青な空の下、俺たちの横をひとかけらの雲がものすごい勢いで流されていった。
だが、、俺と雫の周りだけはとても静かに感じられた。
あいも変わらずの腰ミノ一丁、その下には雫の作ってくれたトランクスを履いていて心強いことこの上ない。背中に斜めに張り付いているスコップは、すでに青白い気炎を上げている。
一方雫は黒いメイド服を纏い、風に揺れるスカートとカチューシャからは金色の光の粒が舞っていた。
ォォオオオン、、
「あれか、、」
わずかな空気の震えを感じ、北北東の方向を見ると、大きな砂煙がいくつも上がっていた。あの下では、多分、、
「太郎さん、」
砂煙の方を見ながら雫が声をかけてくる。
「ああ、行こう雫、あの下では、、きっとクラスのみんなが戦っている。俺たちも」
「はい! 太郎さん!」
ドンッ!!
俺は宙を大きく蹴り、雫を抱えたまま空を駆け出した。
◇◆◇◆◇
「どっっせいりゃぁぁあ!!」
幹宏が鉄塊を振り回し、牛よりも大きな犬型の魔獣の群れを吹き飛ばす!
「はぁぁあああ!」
その横では咲夜の炎の剣が角の生えた馬頭の魔獣を真っ二つに切り裂く!
「シャイニングキーック!」
真っ赤な全身タイツの変身系勇者が飛び蹴りで数体の魔獣を蹴りとばせば、
「16連突きぃ!!」
長い槍を持った無双系勇者が突きまくる!
デザートドラゴンを討伐すべくエオリアを出発した勇者たちは、ドラゴンのところへたどり着く直前でランクA〜Cの魔獣の群れと遭遇し、激戦を繰り広げていた。
「……」
「ダメだ、俊介」
アサルトライフルを構えた勇者、照夫が、前に出ようとする聖剣の勇者、俊介を止める。
「しかし、、そろそろあいつら限界じゃ」
「俊介、無傷でドラゴンのところまでお前と遠距離攻撃組を送り届けるのがあいつら近接組の仕事だ。俺だって、、歯がゆい」
そう言って、最前線で傷だらけになりながら炎の剣を振りつづける咲夜を見つめる照夫。
「わかった、、」
仲間達が必死で戦い傷ついていく様を、俊介は血が出るほど剣を握りしめて耐えていた。
「ううー、重いー」
「花蓮、す、すまねぇ、、」
「それは言わない約束でしょ? おとっつぁん」
「……」
一方、花蓮達、軽装組はその機動力で戦場を走り回り、重傷を負った仲間を回収して後方へ運ぶ任務についていた。
「でぇりゃぁぁああ! 抜けたぁ!!」
幹宏が全身血だらけになりながらも、魔獣の群れを突破する!
「今だ! 行きますよ! 勇者シュン、勇者ユミ!」
「ああ、行こう!」
「勇者タク! よろしく!」
拓也は黒いマントをブワッと広げると、由美をそのまま包みこみ、まるで水の中に沈んでいくように近くの影の中へと消えていった。
そして俊介は色とりどりの光の玉を体の周りに引き連れて風の精霊の力で宙へと舞い上がると、たった一人でデザートドラゴンの前へと舞い降りる!
「デザートドラゴン、僕が相手だ! かかってこい!!」
<グゥォーム!!>
砂の塊の中に空いた2つの黒い穴の中で赤く光る瞳を俊介に合わせるデザートドラゴン、その顔の前に砂が集まり、乗用車ほどの特大の砲弾が作られる!
ドォンッ!
俊介に向けて発射される砲弾!
当たった! と誰もが思ったが、砲弾が通り過ぎた後も俊介の姿に変わりはなかった。
デザートドラゴンが見ている俊介の姿は、光と水の精霊によって作られた幻影であり、実際の俊介は、20メートルほどずれた位置に立っていた。
「今度はこっちの番だ! テンペストソード!」
俊介が大上段に構えた聖剣から数十メートルの高さの竜巻が巻き起こる!
竜巻の中には水と雷が渦を巻いて暴れていた!
「うおぉぉぉおお!!」
ズギャガガガガ!!
<グゥゥゥーム>
竜巻がデザートドラゴンの頭の上に落ちてきて首ごと下へと押しつぶし、飛び交う無数の風と水の刃が砂の鱗を削り飛ばしていく!!
<グゥガァァアア!>
デザートドラゴンが肩周りの砂を爆発的に飛ばすようにしてテンペストソードを打ち消す! そして体表に砂の棘を浮かび上がらせた!
『エンジェルスマーッシュ!!』
いつのまにかデザートドラゴンの右後方に接近していた由美が、棍棒の一振りでビルのような後ろ足を吹き飛ばす!!
足を無くしたデザートドラゴンはガクン、と傾き、俊介に向けて放たれた砂の棘の弾幕は、あさっての方向に飛んでいく。
そして由美はまた拓也のマントに包まれ、ドラゴンの影の中に沈んでいった。
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