29 空拳の勇者
「こあいよぅ、」
「大丈夫だテトラ、ジルもみんなもいる」
恐怖でぐずるテトラを抱えたジルを先頭に、メイド達が街道を北へ逃げる!
「早く! トリシャ、もっと早く走って!」
「ま、まっ、て、メイドちょ、もう、限界、、」
ハッハッ、ガフッ、ハッ
ウォォオーーン!
ハッハッ、バフゥッ
メイド達の後ろには、狼のような魔獣が迫ってきていた!
「あっ!」
トリシャが窪みに足を取られ、転ぶ!
バウッ! ガゥッ! グアゥル!
倒れたトリシャの小さな体に覆いかぶさるように飛びかかる魔獣達!
「きゃ、あ」
「セイッ、ヤァッ!!」
迫る魔獣の大きな口に、目を瞑って覚悟したトリシャ、だがいつまでたっても、痛みがこない、恐る恐る目を開けると、、
倒れた自分と魔獣の間に立つメイドの後ろ姿を見た。
「シズ、ク?」
「リャァアッ! ハッ!」
ギャン! ギャウッ!
シズクが拳を振るい、蹴りを放つと魔獣達が吹き飛ぶ! 腕を回し魔獣の攻撃を受け流す! だが多勢に無勢、当のシズクも無傷ではない、一体を攻撃する間にその影から別の魔獣が襲いくる! 噛みつかれ、引っ掛かれ、シズクの手足が見る見る赤く染まっていく!
「シズク、あなた一体、、」
鑑定持ちのモニカがシズクを観る
シズク ハルノ
レベル1
職業:召喚されし勇者
HP:6/12
MP:5/5
攻撃:F
防御:F
魔力:G
素早さ:F
ユニーク武器:ゴッドハンド(熟練度D)
スキル:鑑定G
「え? ゴッド、、ハンド? シズク、あなた武器を持ってなかったんじゃ、、今も何も持ってないし、」
襲いかかってきた魔獣5体を撃退したシズク、頭の中でレベルアップの音が何度も鳴り響くがそれを振り払うように頭を振り、倒れたトリシャに手を差し出す。
「はぁっ、はあっ! さ、、トリシャ、逃げよう」
「シズクぅ、血が、、たくさん怪我してるよぉ、、」
「大丈夫、、すぅーー、ふぅーー、すぅーー、ふぅーー、……よし!」
「シズク、武器持ってないのに、何でそんなに強いの? その血が止まったのも魔法?」
「私、、空手習っていたから、でも戦ったことなんてないから強いかどうかわかんないけど、、武器なんて知らないし、、
さっきのは空手の呼吸法の一つ、自分の体を整えるの、
さ、頑張って逃げよ、」
「う、うん、、」
互いにかばい合いながら逃げる5人のメイド達、時たま追いついて襲いくる魔獣は雫が一体ずつ迎撃していった、
「!! みんな! 止まって!」
前方の不穏な雰囲気に雫がメイド達を止めると、、道の両側の茂みから飛び出てくる2体の大型の魔獣! 口には肉食獣のような牙が生え、体は牛のように大きな魔物だ!
「そ、そんな、、ランク、C」
鑑定持ちのモニカが膝をつく、、
魔獣:サーベルファングブル
ランク:C
「ヤァァァアアッ!」
突進してくるサーベルファングブルを横っ飛びでかわし、横にあった大木を利用して首に三角蹴りを見舞うシズク! 光を放つ雫の蹴りを受けて、魔獣の太い首がゴキンと大きな音を立てて折れ、巨体がドウン! と倒れこむ!
ブモゥ!!
もう一頭の魔獣が突っ込んできて、先に倒れた魔獣ごと雫を吹き飛ばす!
「くぅっ!!」
土と一緒に吹き飛ばされ、地面をゴロゴロ転がる雫、手も足も、擦り傷でボロボロだ。スカートは裂け、ブラウスの袖は血に染まり、もはや白いところがないほどになっていた。
シズク ハルノ
レベル8
職業:召喚されし勇者
HP:12/45
MP:18/18
「そうか、さっきからの戦いで、レベルアップしてその分、HPの回復が、、シズクだけなら、、、逃げられるかも、」
モニカがそう呟くと、ハッとしたようにトリシャとジルが顔を見合わせて互いに頷いた。
もう一体のサーベルファングブルは雫を強敵と認めたらしく、足を止めて細かな攻撃に切り替えてきた。元々のステータス差もあり苦戦する雫。
「もういいわ! シズク、貴方だけでも逃げて!」
「私たちのことはいい! 逃げるんだ!」
トリシャ達の声がまるで聞こえないようにして戦い続ける雫、そうこうしているうちに、掠った牙で雫の腕の皮膚が裂け、血が飛び散る!
「痛うっ!」
「「シズク!!」」
「私は、、退かない!」
腰を落とし、左拳を前に半身で構える雫
「私だって、、
私だって『勇者』なんだ!!
みんなを守るんだ!
退かない!!
チェリャァアッ!!」
サーベルファングブルの攻撃をかわし、背中に飛び乗ると、真っ赤に光り輝く正拳を瓦割りのように延髄に叩き込む!!
ガッシャァァアアアン!
硬質な破壊音と共にサーベルファングブルの首がVの字に折れ曲がった
ブボァアアォォォ!!
サーベルファングブルは仰け反り、いなないた後、絶命した。
シズク ハルノ
レベル15
職業:空拳の勇者
HP:51/92
MP:22/22
「やった! シズク! やったわ!」
「すごい! シズク!」
「はぁっ、はぁっ、、すぅーー、ふぅーー、」
「さあ、逃げましょ、、ひっ!」
ズゥン、ズゥン、、
巨大な気配を感じ、後ろを振り向くモニカ
魔獣:グリントロル
ランク:B
彼女たちにとっては、絶望的とも言える相手、ランクBの魔獣が後ろから追いついてきた、、
ランクBの魔獣、それは一般の軍や冒険者達が集まったところでどうしようもない相手であり、このランク以上からは災害クラスとも呼ばれる。ランクCまでに比べ、個体で圧倒的な戦力を持ち、その討伐のためにはB級以上の冒険者を中心とした大規模な討伐隊を組んで対応される。モニカも勿論そのことを知っている。
「あ、あ、、、」
体長3m以上はあるグリントロルを見上げて、地面にへたり込む4人のメイド達、しかし雫は一人で絶望的な相手に立ち向かう!
「チェリャァアッ! セイッ!」
グリントロルの足に正拳を打ち込むが、、まるでトラックのタイヤを殴っているようで全く効かない!
ニヤリと笑うグリントロル、手に持った馬鹿でかい木の棍棒をブンッと振る!
それを避けつつ、打ちこみ続ける雫!
グリントロルはその馬鹿でかい足を上げると、、ズンッと地面を踏み込んだ!
揺れる地面で体制を崩すまいと踏ん張る雫、しかしそこに、、グリントロルの棍棒が襲いくる!!
「きゃあっ!」
十字受けでガードしつつも吹き飛ばされる雫! 地面を数回バウンドし、木に叩きつけられる!
「シズク! シズクぅ!」
モニカ、ジル、トリシャ、テトラの4人が駆け寄る!
「う、、あ、、か、はっ」
ポニーテールを止めていたリボンはちぎれ飛び、乱れた長い髪が顔の半分を覆う、、意識は朦朧とし、目の焦点は合わず、手足を投げ出すようにして倒れた雫、、
泣きながら駆け寄った4人は、倒れて動かない雫を庇うように覆い被さる。そんなものではグリントロルの一撃を防げるなんて誰も思ってもいないが、、それでもすがるように覆い被さる!
ズン、ズン、ズン
グリントロルが歩み寄り、ぐわあ、と棍棒を振りかぶった!
顔は伏せているが、大きな影がさしたことにより、グリントロルの攻撃体制を知る4人。ギュッと目を瞑り、雫を抱きしめて恐怖に耐える。
ガィィイイン!!
「えっ?」
グリントロルの棍棒が、、落ちてこない?
ガギン! ガイイン!
顔を上げると、透明な壁に棍棒を何度も打ち付けるグリントロルがいた。
「え? なに? 壁?」
「遅くなってゴメンよ、
よく頑張った、春野さん」
メイド達が振り向くと、そこには、、
腰ミノ一丁でスコップを背負った少年が立っていた。
「あ、、タ、、、く、ん、」
目はほとんど見えなくとも、間違えようのない懐かしい声に、雫の頬を涙が伝っていく、、
「へ、変態さん?」
「ぐふっ!」
トリシャの情け容赦ない言葉に、太郎は99の精神ダメージを受けた!
太郎「やっと、俺のターン!!」
トリシャ「変態!」
太郎「ぐふっ!」
雫「……」
ターンエンド!
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