22.稽古
剣の稽古を付けてくれ――
シルヴィーンがそうしつこいので、セリンヌに見てもらいながら、中庭で相手をしてやることにした。
「しかし、僕のは参考にならないぞ?我流だし」
木剣を持って向かい合う。お互いに、中段に構えた。
「まず、ゆっくり行こうか。
僕が打ち込むから、それを防いで」
最初に、正面から真っ直ぐ打ち込む。左右に流して続けて打ち込み、一旦引いて、突く。横に弾かれたのをその勢いのままに、一周して切りつけ、袈裟懸け、返す刀と続けて、踏み込んで足元を掬い、頭へ。
ゆっくりなら、全て捌かれた。
「もう一度、同じ動きをするから、同じように捌いて」
問題ない。まだ、疲れるほどすら動いていない。
「少し早くするよ」
少し、もたついてきた。最後の一振りが、軽く頭を掠める。
「リズム良く、繰り返して」
スピードは、上げない。だが、徐々について来れなくなる。息が上がり、足がもつれる。……最終的に、頭を大きく避けようとして、転んだ。
「単純な反復練習。もしくは、実戦。この2つが、やっぱり効果は大きいよ」
正直、今のシルヴィーンなら、ミリアでも木剣一本であしらえる。単純な反復練習は、ミリアにも手伝ってもらったことがあったからだ。これを、攻守入れ替えて……とかやれば効果はあるんだろうけれど、まだ、これにもついて来れてない。
「セリンヌ、見本やって。
同じ動きで、セリンヌがついて来れそうなギリギリのスピードでやるから。五回。
いい?」
「ラジャー」
シルヴィーンから木剣を受け取り、構えるセリンヌ。……一回ぐらい、打ち込めるつもりでいるんだろうけれど。
「行くよ!」
「……!!」
多少、シルヴィーンとは捌き方が違うとはいえ、セリンヌは、何とか五回、崩れることなくついてきた。ただ、シルヴィーンより三倍ぐらいは速い。セリンヌも、息が切れている。
「……打ち込めると思ってたでしょ?」
「はぁ……はぁ……はぁ……うん……」
セリンヌから木剣を受け取り、持ち手の方をシルヴィーンに差し出す。
「見えてた?」
首を横に振るシルヴィーン。僕のは、ステータスにモノを言わせた力技だが、シルヴィーンがどれだけ近道をしようとしていたかは気付いただろう。
「手のマメが潰れるまで素振りするまで、『まだ早い』と言うよ」
僕も、そのくらいはやった。大木に、痕が刻まれるまで打ち込んだ。普通の熊ぐらいなら、木剣一本で仕留められる。
「出ておいでよ、ローク。遊びたいんだろ?」
ビクッと震えてから、陰から現れたローク。偶然見かけて、興味を持って眺めていたのだろうか。尾行はされていなかったと思う。
「……マジでセリンヌより腕があるんだな」
「腕、ねぇ……技術は、そんなにないよ。
ただ、動きが速いだけ」
「うん。けっこう、無駄な動きしてたよね」
セリンヌから見て、まだ無駄はあるのだろう。だが、剣術を極めるつもりはないので、僕はそのぐらいで十分だ。
「構えてよ」
構えたロークに、そんなに速くなく、先ほどと同じ流れの打ち込みを始めた。……但し、フェイントを交えて。
その結果。
「イテッ!アタッ!ちょ……」
ほとんどの打ち込みが、ロークに直撃した。
「――という具合だ。
見えていたよね?」
シルヴィーンが頷き、セリンヌは拍手をする。
「……何を、されたのですか、師匠?」
「フェイント」
「ちょ!それなら先に言えよ!!」
ロークの抗議は無視する。見極められないのが悪い。打ち込みの流れそのものは、一切変えていない。
「ここまでやれとは言わないけど、セリンヌにも似たことは出来るだろ?
そのくらいやれれば、魔法も使えるんだし、ワンランク上の幻術のドラゴンぐらい、倒せるだろうって話。
第一、キミ、竜化したら、レッドドラゴンじゃないか。サフィルス先生に勝ててもおかしくないよ?」
「面白そうだから、私にもやらせてよ!」
セリンヌがロークから木剣を奪う。そして、僕と向き合った。
「さ、始めよ♪」
「……フェイント有りで?」
「有りで!」
……仕方がない。
付き合いだが、本気でフェイントをかけて最後の一刀は、寸止めした。つまり、フェイントに対応しきることが、彼女には出来なかった。
「殺気まで込めたけど、やはり、釣られていたね」
「……面白い~♪」
怖がるかと思ったのだが、彼女は、笑い出した。
打ち込もうと思えば、全て、当てれた。それを分かっているだろうに、彼女は「面白い」と言い切った。
「……セリンヌが強い理由が分かった気がするよ」
彼女の爛々とした目が、如実に「もう一回」と語っているが、無視する。この娘、恐らく際限が無い。
「で?
シルヴィーンは、自分がまだ未熟だと、分かったかな?」
「……分かりました。
まさか、魔法の腕も――」
「未熟だと思うなら、未熟なんじゃないかな?
まだ未成年なのに、『魔法極めた』なんて言ってたら、大言壮語も甚だしいよ。
……僕とて、作りたくても作れない魔法は山ほどある」
「……魔法を……作る?」
僕は頷く。
「そこまでも、到達していないでしょ?
でも、その方法は、誰にも教えない。
僕が、墓まで持って行く秘密だ。
……そもそも、理解できるかどうかも怪しい。
『インスタンス』なんて、多分、僕が口にしても、『概念言語』であるこの魔界の言葉でも、意味が通じないでしょ?」
セリンヌが首を横に。ロークは、自分には関係ない話と、聞いていなかった模様。しかし、シルヴィーンは――
「……意味は、伝わってきましたが……理解が、出来ない……。
……何、これ……気持ち悪い……」
シルヴィーンは胸元を押さえ、うずくまる。そのまま――倒れた。
「……医務室に運ぼう」
女性ということで、セリンヌが持ち上げてくれた。
多分、大丈夫だとは思うが……。
魔法が使える可能性を知られることは、大した問題ではない。ルシエルの件で、はっきり、魔法という単語を使って、それを使った場面を見られたりもしている。それは、さほど神経質になる問題ではない。
だが、僕は、まさか、『インスタンス』という単語が、人に聞かせてもいけないものだとは、想像だにしていなかった。




