オレオレ的な詐欺に発展
都内の倉庫街―――
半グレ組織の幹部伊達は爪をヤスリで研いでいた。
「あのさぁ。戸籍の問題あんじゃん。あれなんか使えねぇかな」
伊達はサングラスを外す。
誰も答えない。
「あのさぁ。戸籍の問題あんじゃん。あれなんか使えねぇかな」
(かぁかぁかぁ)
カラスの鳴き声が聞こえる。
「先輩。あれハシブトカラスっすかね」
横沢はガラステーブルを拭きながら、田上のほうを見る。
「たぶんな」
田上は、小銭でタワーを作りながら答える。
「なに言ってるんですかね」
「澄んだ声だし、仲間が返事をしてるから、コミュニケーションだな」
田上は、そう答えた。
「おいおい。カラスもコミュニケーション取ってんだから、うちも取ろうよ」
伊達は言った。
「俺と横沢はコミュニケーション取ってんじゃん」
田上は呟く。
「いや。俺とコミュニケーション取って欲しいの」
伊達は突っ込む。
「それで、戸籍の問題あんじゃん。あれなんか使えねぇかな」
伊達はしつこく聞く。
「お前なんかプランあんのかよ」
田上は震える手で、小銭のタワーの最上部に小銭を置く。
「うん。まったくわからん」
伊達は答えた。
「なぁ伊達。俺らにそんな事がわかると思うか?」
田上は目を細める。
伊達は田上と横沢をじっと見る。
「すまなかったな。無茶ぶり過ぎた。でもオレオレとか、やってたじゃねぇか」
伊達は爪ヤスリをティッシュで拭く。
「あんなの。俺の先輩の台本買っただけじゃねぇか」
田上は呆れた顔で言った。
「なんか良い台本売ってねぇかな」
伊達は揉み手をしながら、田上を見つめる。
「先輩もパクられたし、ツテがないからな」
田上は言った。
「でも、ひとはな咲かせてぇじゃん」
伊達は前のめりになる。
「俺もひとはな咲かせて、ブランド物買いたいっす」
横沢の目も真剣だ。
田上は何かを思いついたのか、
急ぎメモを取る。
「こんなのどうだ。いくぞ。
もしもし〇〇市役所の者です。
そちらに娘さんか、息子さんはいらっしゃいませんでしたか?」
田上は電話をする振りをする。
二人ともぼーっとしている。
「伊達。お前、電話出る人の役しろよ」
田上は伊達の横っ面をひっぱたく。
「あぁそうか。すまん。じゃあ行くわ」
「もしもし〇〇市役所の者です。
そちらに娘さんか、息子さんはいらっしゃいませんでしたか?」
「いません。がちゃ」
「話進まないだろ」
横沢はげらげら笑っている。
「ちょっと待って。こんな電話怪しいだろ」
伊達は真剣な顔をしている。
「お前が言うな。そんな電話で散々稼ぎ散らかしただろ」
田上が言うと、
横沢はさらに、げらげら笑った。
「いいか。話を信じ込む。高齢者の真似をするんだよ」
田上は、
伊達の横っ面をひっぱたく。
「あぁわかった。任せとけ」
「もしもし〇〇市役所の者です。
そちらに娘さんか、息子さんはいらっしゃいませんでしたか?」
「いますけど、何か?」
「そうですよね。
お名前いただけますか」
「卓也や望です」
「卓也さん、望さんですね。
実はお子さんの名前が戸籍に記載されていないんです」
「えっ。どうしてですか?」
「法務省の件で。報道とかでご存じでしょ」
「はい。それでどうなるのですか?」
「そうですね。最悪の場合、相続がなされない事もありえます」
「そそんな」
「本来であれば、国が責任をもって処置すべき問題ですが、
いかんせん、状況が不明すぎて、
お子さんが戸籍に記載されていない方に関しては、
DNA検査を行うように指示されています。
費用は現金で50万円。こちらから回収に向かいますので、その際に唾液をDNAのサンプルとして頂きます」
「そんなお金用意できません」
「OKOK。ここまででいいわ。お金用意できないって言われるよな」
田上は頭を抱える。
「あの、そこであんまり追い込むより、じゃあ、他の方に権利を譲っていいですかって聞けばいいんじゃないっすか」
横沢は言った。
「おめぇバカだな。そんなんで食いつくわけねぇじゃないか」
伊達は笑う。
「横沢、お前冴えてんな。それいけるかもしんねぇぞ」
田上は横沢の背中を叩く。
伊達はきょとんとしている。
「あぁそうだな。悪くねぇ。逆に食いつくわけねぇと思わせて、いいかもしれない」
伊達は笑った。
「まぁ、じゃあとりあえず、電話してみよう」
伊達は倉庫の中から、古い電話帳を取り出してくる。
廃品回収のバイトをしている男から、安く買い取ったものだ。
「今はもう電話帳は廃止されたから貴重だよな」
伊達は電話帳の臭いをかぐ。
保存状態が悪かったのか、
電話帳はかび臭く、
日の光による劣化と湿気で表紙はボロボロになっていた。
三人はスマホで電話を始める。
コンビニ弁当を食べながら3日間。
ずっと電話し続けた。
「よし。かかった」
田上は言った。
田上は住所と名前と電話番号をメモる。
二人は覗き込む。
「う~ん、で誰が回収しに行く」
伊達は言った。
伊達と田上は、横沢を見る。
「しゃあないっすね。行きます」
「それで唾液のサンプルをなにで取る?」
伊達は言った。
「100円均一に、それっぽいのありそうだから、それを使えばいいんじゃねえか」
田上は呟く。
「なんか薬局ってジップ付きの袋の中に紙に名前書いたやつ入れてるでしょ」
横沢は言った。
「じゃあジップ付き袋と、後はプリンターで客の名前書いて、持っていくか」
田上は目を細めた。
……
それから1か月後
「お疲れ」
伊達は、
ビールを二人に配った。
「それで結局、今月10本か」
伊達はビールのプルタブを開ける。
「3日で1人のペースで、
釣ることができたっすもんね」
横沢も満足そうだ。
「売上は500万。
これ台本の発案者の田上が250、
俺は幹部だから180、
横沢が70で良いか?」
「俺はそれで良い」
「俺も問題ないっす」
「じゃあ乾杯」
伊達はビールを一気に飲み干した。




