エープリルフール騒動
3月31日
居酒屋のカウンターで俺は一人酒を飲んでいた。
壁には色んなサインが飾ってある。
ほとんどが知らない人。
でもサインがあると、なんか凄そうに見えてしまう。
前に大将に、
「色々有名人とかが来てるんだ」
と言ったら、
「違う違う。色んな人に貰ってきてもらってるんだ。実際には店に来てない」
そう大将は笑った。
それ以来、
有名人のサインがあるから人気店=美味いとは思わなくなった。
ただ大将は店に来たとは一言も言っていないから、
嘘はついていない。
客が勘違いしても、それは知らないという事なのだろう。
嘘ではないが、紛らわしい。
そういえば、
明日は俺が嫌いなエープリルフールだ。
「4月1日って、どんな事を言っても、エープリルフールだからって、嘘だと思われるんだよな」
俺はため息をつく。
「そんな事あるか?」
大将は不思議そうな顔をしていた。
「ほら、俺情報サイト運営してるだろ」
「あぁ、たしか……なんだっけ、全国の珍しい自動販売機かなんかの」
「違う違う。全国各地の菓子パンを追ってるの」
「あぁ、そうか。それでエープリルフールだと何が困るわけ?」
「ほら、その日に新作の菓子パンのレビューとか書いても、嘘だと思われるだろ」
「じゃあ、別の日に投稿すればいいだけでは?」
「わかってないな。あのな。菓子パンっていうのは、全国各地で毎月大量に販売されるわけ。その中には全国区の菓子パンもあれば、地方ごとに別の菓子パンを出すケースもある」
「ほう。それで」
「俺は全国各地を車で移動しながら、菓子パンを追っかけてるんだけど、1日レビューを出さないと、レビューが詰まるのよ」
「詰まるって、次の日に大量に出さないといけないってことか。別に書き溜めればいいんじゃないの?」
「発売日に出さないと競合に差をつけられるだろ」
「なるほどな。だからエープリルフールが嫌なのか」
「そうそう。本当にエープリルフールは禁止にして欲しい」
「ははは。それはよっぽど迷惑してるんだな」
「笑い事じゃないよ。4月1日に嘘をついたら、逮捕とかしてほしいくらいだわ」
その時、
俺は本気でそう思っていた。
……
4月1日
朝からコンビニ・スーパーをハシゴする。
ミニバンの中の小さい撮影スペースで、
パンの写真を撮り、
音声で感想を入力する。
食べて3分以内のアップ。
それが自分に課した制約。
全国を回るのは大変だけど、
これで飯が食えている。
飯というより、エブリデイ菓子パンだけど……。
近場の狩場を全て回り、
車を走らせ別の県に向かう。
食ってレビュー、
食ってレビューのくり返し。
これを365日かれこれ10年続けている。
菓子パンに飽きないのかと聞かれると、
「商売は商い。飽きないからあきないをできる」
そう答えている。
でも正直言うと、
クリームパンとか、アンパンとか、
もうやめてくれと言いたい。
どこどこ産の小豆にしました。
どこどこ産のバニラビーンズにしました。
知るかボケ。
そんな気分。
もっと斬新なものを出せよ。
そんな気分。
18時を回ったところで、
SNSのビュー数を確認する。
ほとんど伸びていない。
俺はトレンドを確認する。
法務省 戸籍 犯人
意味のわからないキーワードがSNSを占めていた。
「おいおい。俺の投稿埋もれてんじゃん」
俺は肩を落とす。
それからも、
他県に行ったが、
その日の投稿は伸びる事はなかった。
……
4月27日
先月末にも行った居酒屋のカウンターで俺は一人酒を飲んでいた。
新しいサインが増えていることに気が付く。
「大将。またサインが増えたんだ」
「あぁ、これはガチで撮影が来たんだ」
「えっそうなの」
「そうそう。なんか飛び込みで取材する番組で、芸能人のなんとかさんが交渉しに来てた」
「受けたの?」
「そりゃ受けるよ」
「お客さんに迷惑かかるからとか断らないの」
「断らないよ。客とか嫌だったら帰ってくれてもいいと思うし」
「ひどくない?」
「ひどくはないよ。撮影されて人気になる権利はうちにあるからな。それに客は映すなといえば映さないからな」
「まぁたしかにね」
「そういえば、エープリルフールで嘘をついた連中、逮捕されてたな」
「エープリルフールで逮捕。どういう事?」
「知らないのか。あの日、戸籍がどうのこうのって事件があったろ」
「あぁなんか書いてあったな」
「あれで、俺が犯人だとか言った連中が、ものすごい勢いでわいたんだわ」
「へぇ。それで逮捕されたの?」
「そう。公務執行妨害で」
「まじか」
「なんか緊急事態にも関わらず、イタズラに秩序を乱し、捜査をかく乱したという事で」
「なんかすごい事になってるな」
「大変なのが有名動画配信者とかもいて」
「それで」
「動画配信で月に数千万稼ぐのが、一気に飛んじゃったって話よ」
「まぁ、嘘をつくのが悪いんだけど、さすがに引くよな」
「だろ。それで今国会でエープリルフールの禁止案を真剣に議論している最中みたい」
「うん。それは禁止したほうが良いと思う」
俺はそう答えた。
……
4月25日
都内某マンション
テレビではエープリルフール禁止案の件が真剣に議論されていた。
「ねぇあなた。このエープリルフール禁止案ってどう思う?」
「どうって?」
雑誌記者の田丸は頭をかいた。
「どうなるのかな?って思って」
「どうなるんだろな」
「他の記者さん達はなにか言ってなかった?」
「まぁ、何か隠したいんだろう、みたいな事は言ってたな」
「どういう事?」
「わかんないか?ちょっと考えてみろ」
「まさか戸籍の件」
「そうそう。
大きな問題があるのに、小さな問題が起きて、それが目立つ時」
「なにか裏で大きな何かがあって、それを隠してるみたいな感じ?」
「ビンゴ」
「それって陰謀みたいじゃない」
「そりゃそうだ。世界は陰謀で出来ている」
そう言って笑った。




