家庭
「それでどう使うよ」
伊達はニヤニヤしている。
「お前はどうせ。マヨネーズを買いためるんだろ」
田上は笑う。
「なんでだよ」
「マヨネーズの風呂に入りたいって言ってただろう」
「言うか。ボケ」
横沢はげらげら笑っている。
「横沢お前はどうするんだ」
伊達は、
封筒に入った70万を放り投げる。
横沢は封筒の札を数えながら、
「俺のカバンと靴。あれを本物に買い替えます」
「本物に買い替える? あれ偽物だったの」
伊達は驚いた顔をしている。
「リアルでしょ」
「リアルリアル」
伊達はカバンと靴を見て、うなずいた。
……
俺は、先輩二人とベンチャー企業をしている。
ベンチャーと言っても意味はわからない。
リスクを取って、リターンの大きい仕事をする。
そんな感覚だ。
俺はブランド物の偽物の靴とカバンを持っていた。
最近仕事で70万円手に入れた。
その金で、偽物を本物に交換しようと思った。
はじめ、多少安い並行輸入の店で購入しようかと思ったが、
偽物だと怖いので、ブランド物は直営店で購入した。
偽物を身に着けていても良い。
頑張れば、
ハッタリもいつか本物になるんだ。
そう思った。
ブランド物のカバンと靴に交換しても、
まだ金は残った。
俺は、
母親と妹に10万ずつ渡した。
「あんた、また悪さでもしたんじゃないの?」
母親はそう言った。
「競馬で勝ったんだよ」
横沢は笑った。
妹は何も言わずに、
受け取った。
少し口角が上がった。
「真面目に働きなさいよ」
母親はそう言った。
母親の顔を見る。
くたびれた顔をしていた。
自分も将来こうなるのかと思うと、
ぞっとした。
父親は横沢が12歳の頃、ギャンブルで借金を作って逃げた。
そこから母親は、
パートを三つ掛け持ちして、借金を返済し、二人を育てた。
「借金いくら残ってるの?」
俺は尋ねる。
「この10万円で完済できる」
「良かった」
「うん。ありがとう」
母親は疲れた表情で笑った。
「今晩は寿司でも買ってくるよ」
俺はそう言い、
家を出て行った。
12時、倉庫街の事務所に着いた。
俺は事務所の掃除を始める。
13時、先輩が到着。
飯を食い。
電話を始める。
――――
こいつから始めようか。
俺は電話帳を開き、電話を始める。
「もしもし〇〇市役所の者です。
そちらに娘さんか、息子さんはいらっしゃいませんでしたか?」
「いますけど、何か?」
「そうですよね。
お名前いただけますか」
「イマルです」
「イマルさんですね。
実はお子さんの名前が戸籍に記載されていないんです」
「知ってます。娘からも聞きましたし、役所でも確認しました」
うわ。
これは初めてのパターンだ。
どうしよう。
説明をすっ飛ばそう。
「本来であれば、国が責任をもって処置すべき問題ですが、
いかんせん、状況が不明すぎて、
お子さんが戸籍に記載されていない方に関しては、
DNA検査を行うように指示されています。
費用は現金で50万円。こちらから回収に向かいますので、その際に唾液をDNAのサンプルとしていただきます」
「わかりました。それでなんとかなるんですよね。娘が結婚するんです」
おぉ。
これはカモだ。
俺は直感した。
「大丈夫です。それでは現金をいつご用意できますか?」
「娘のために貯金したものがあるので、今日の夕方くらいには大丈夫です」
「では18時にお伺いしても?」
「はい。構いません」
「それでは、失礼いたします」
……
俺はガッツポーズをした。
田上さんが怪訝な顔をする。
「横沢、お前ガッツポーズをするなって言っただろ」
「まぁいいじゃねぇか。それで何時だ?」
伊達さんがフォローする。
「18時っす」
俺は言った。
「そうか。今日回収は誰が行く」
伊達さんが言った。
「俺の母さん、今日借金返済が終わるんすよ。
だからお祝いに寿司買うって約束してしまって」
「お袋さん。ずいぶん苦労してるって言ってたもんな。わかったよ。俺が回収に行ってやるよ」
田上さんは言った。
「じゃあ。俺もついてくわ」
伊達さんが言った。
俺は、
メモを田上さんに渡し、一足先に帰らせてもらうことにした。
近くの回転寿司で、上の握りを5人前買い。
家に帰った。
……
(ぷるるるる。ぷるるるる)
「はい」
俺は電話に出た。
今日はやけに電話が多い。
「もしもし。お父さん」
「あぁイマルか」
「戸籍の件なのだけど」
「その件なら大丈夫。今日な、役所の人が来てDNAのサンプルを取るからと言ってて」
「あぁそうなんだ。よかった。それで今日はそっちに行こうかなって思ってて」
「それは別に構わないけど、どうした?」
「うんとね。彼がお父さんに挨拶をしておきたいからって」
「そうか……。わかった。ちょっと銀行に行かないといけないから、17時以降にしてくれ」
「わかった。そうする」
そう言い、イマルは電話を切った。
俺は、内心飛び上がるほどうれしかった。
しかし、
焦りは禁物。
まずは、
DNAの件をちゃんとしないといけない。
あとは、
娘に恥をかかせないように、
寿司でも買っておこう。
そう思った。
まずはスマホで銀行のセキュリティ設定を50万円まで引き出し可能に変更し、
銀行に向かい50万円下ろすことにした。
ATMにはオレオレ詐欺、還付金詐欺のチラシが貼ってあった。
俺は50万円下ろし、封筒にそのまま入れた。
近くの回転寿司で上握りを5人前注文した。
娘の好きな卵焼きといなり寿司を多めで注文した。
……
17時
ベルが鳴る。
扉を開けると、
イマルと金髪の男がいた。
こいつはホストか、ちゃらいな。
俺はそう思った。
「ただいま」
「おかえり」
金髪の男は会釈をする。
「彼、コウ君っていうの」
イマルは言った。
「イマルちゃんのパパっすよね。ちす、コウです。コウって呼んでください。パパさんのことは、パパって呼んでいいっすか」
コウは言った。
俺は頭が真っ白になる。
なんだこの男。
娘を幸せになんてできるのか?
俺の表情はこわばる。




