紛糾
五月の連休明け、国会は異例の事態に紛糾していた。
「そもそも戸籍という発想が古いんだよ」
野次が飛ぶ。
(こんこんこん)
「静粛に」
衆議院議長は注意を促す。
「我が国の戸籍制度は、
誰の子か?
誰と結婚したか?
誰が親か?
養子縁組・死亡
などを、
家族単位で記録する。
世界に類を見ない、素晴らしい制度です」
法務省の大臣は答える。
「素晴らしくても、改ざんされたら、意味ないだろ」
野次が飛ぶ。
「現在のところ、改ざんされたという確かな証拠は出ていません」
法務省大臣は手短に答える。
「戸籍データの整合性が確認できない!改ざん以外で証明できるのか!」
野次が飛ぶ。
法務省大臣の隣で、
官僚が耳打ちをする。
「くり返しになりますが、現在のところ、改ざんされたという確かな証拠は出ていません」
法務省大臣は視線を落とした。
「そもそも戸籍という発想が古いんだよ」
遠くのほうでヤジが聞こえた。
「平和労働党の高見沢君」
議長は言った。
平和労働党の高見沢は、
質問を始める。
「我が国の戸籍は、
家族単位で記録する。
世界に類を見ない、素晴らしい制度。
これは確かにそうでしょう。
しかし、今回その制度の脆弱性が露見した。
どうでしょう。
他国のように、
戸籍簿の代わりに、
出生証明書
結婚証明書
死亡証明書
社会保障番号
などで管理しては」
「法務大臣」
「戸籍簿の代わりに、
出生証明書
結婚証明書
死亡証明書
社会保障番号
などで管理すると、
それぞれバラバラで管理する必要が出て、行政コストが跳ね上がります」
「平和労働党の高見沢君」
「しかし、今回のように戸籍という枠組みでまとめると、トラブルがあった時に、機能が完全に停止する。行政コストより、システムの安定性では?」
「法務大臣」
「くり返しになりますが、現在のところ、改ざんされたという確かな証拠は出ていません」
……
都内某タワーマンションの最上階。
有名投資家のBは、カップラーメンを食いながら、国会中継を見つめていた。
10あるモニターには、
チェック中の銘柄とSNSのタイムラインが映し出される。
「国会中継。クソだよね」
「これ高見沢の案が通れば、どう動く」
「システム変更になるから、エンジニア関連?」
「う~ん。まったくわからん」
Bはカップラーメンを食べ終わると、流しに汁を捨てる。
箸でカップラーメンの汁だけを切り、
微妙に残った麺と具の残骸を拾う。
「たい焼きの頭としっぽはくれてやれというけど、俺はギリまで食う派」
そう呟き、Bは笑った。
「セキュリティ関連……、空売りしかけようかな」
Bは呟く。
Bはセキュリティ関連のSNSと掲示板を開く。
「なんかネタはないかな?」
上から順にひとつずつ見ていく。
「これ良さげだな」
Bはとあるセキュリティ関連企業に、空売りを仕掛ける。
「それで、このネタをシェアしよ」
Bがとある投稿をシェアしたことで、
セキュリティ関連企業の株価が一気に下がる。
Bは株価が下がったことでニタニタしている。
キッチンに行き、
引き出しから買いだめしている板チョコを取り出し、
かじりつく。
「あとは、こっちのネタもシェアして」
別の投稿をシェアする。
再び株価は下がる。
「う~んとあと30秒したら、買い戻そ」
Bはパソコンのモニターの時間を見る。
「3.2.1.0。はい。買い戻し」
「それで……。30か。まぁ今日はこれで上がろうかな。十分稼いだし」
Bはモニターの電源を落とした。
……
三日後
都内某所ーーー
現法務大臣と、後援会の会長の拓海は、少し遅い昼食を共にしていた。
ごま油の匂いが店内を漂う。
「それで、
今後の展開はどうなりそうなの?」
現法務大臣の後援会の会長は言った。
「拓海さん。正直まったく読めないですね」
「痕跡ないって聞いたけど、あれはガチ?」
法務大臣は頷いた。
「セキュリティはどうだったの?」
「まったく問題なし」
「戸籍に関して、制度自体の見直しってありえそう?」
法務大臣は首を振る。
「なんか、小遣い稼ぎしたいんだけど、いいところある?」
後援会会長は耳打ちする。
法務大臣は、
水滴のついたコップに手でDNAと書き、
おしぼりですぐに消した。
後援会会長は、ニヤリと笑い、
「瓶ビールを1本」
と言った。
………
投資家Bはキャバクラにいた。
Bはオキニのキャバ嬢アキラを呼び、会話を始める。
Bはほとんど酒を飲まない。
その代わり、
女の子にがんがん消費させる。
「Bさんって、お酒飲まないんですね」
ヘルプに入った新人キャバ嬢が質問する。
「酒ってさ。飲んだらバカになるじゃん。だから俺は飲まないの」
「えぇ。じゃあ私たちがバカになるじゃないですかぁ」
「いいんだよ。君らはバカになって。俺はいつも冷静でいたいから」
Bは笑った。
「それでさ。あのS社の社員だっけ、偉いさんだっけ。店によく来るって言ってたけど、最近どうなの?」
「あぁ、あの人ね。最近来てないの」
「あのさ。いま誘ってみてくれない?」
「えっ。でもBさん来てるのに、バッティングするよ」
「いいのいいの。それで一つ聞いて欲しいんだよ。もしかして最近、めちゃくちゃ会社忙しいんじゃないかって?」
「それでいいの?」
「うん。それだけでいい」
「でも。Bさん帰ったら、私損だよ」
「じゃあ、チョコレートあげる」
「うそ。チョコレート」
Bは懐から、箱に入ったチョコレートを手渡す。
アキラはチョコレートの中身を確認する。
中には帯封入りの万札。
箱を振ると、すこしすかっとした音がする。
「んーと100かな」
「そう。これでどう?」
「ちょっと待ってね」
アキラはメッセージアプリを開く。
2、3のメッセージのやり取りをして、
「Bさん。確かに忙しそう。だから、しばらく来れないって。チョコ貰ってもいいでしょ」
「うん。いいよ。あと皆にフルーツ盛り合わせ。食べさせてあげて」
Bはキャストやスタッフ達がフルーツ盛り合わせを食べる中、
一人スマホを眺めていた。




