13-4 真・くっ殺さん登場
ここまでの中での「くっ殺」さんはローザだったんですよね。ちょっとスケールが小さかったのですが、ようやく真打ちが登場です……言いませんけどね。
少年と騎士たちが走り去った先の角を曲がると、そこは袋小路だった。行き止まりを背にした少年が顔面を蒼白にして騎士たちと対峙している。
「お戯れはそれくらいにしてお戻りください。いまなら団長に報告せずに済みます」
「いやだ! ぼくなんかいなくても誰も困らないじゃないか! なら放っておいてよ!」
「何をおっしゃいますか! みなアレックスさまの将来を案じておられますぞ!」
「アンリぃ、これって関わらないほうがいいもめごとってヤツだと思うんだけど……」
「いや、だからこそ首を突っこむんじゃないか」
「意味がわからないよ!」
そう、常識で考えればローラのいうことに分がある。上位貴族と騎士団、下手をすると王族と近衛騎士団のもめごとなどに安易に関わってよいことなどあるはずがない。ただ、そういうトラブルを通り抜けたその向こうに想像もしていなかったような展開が待っている、というのがテンプレというものだ。
ん? 女王国の男の王族? なんか前に話を聞いたことがあるような……まあいいか。
ぼくは一歩を踏み出した。
「もしもし、そのような少年に騎士のかたがたが大人げないですね。いったいどういうことです?」
ぼくの言葉に応えることもなく、こちらに一番近い位置にいた騎士が斬りかかってくる。ぼくは踏み出した先の足場を崩すというチンケな土属性魔法で彼を転倒させた。残りの騎士のうち、数えたところ五人がこちらに剣を構える。指揮官らしい男は少年に目を配り続けている。まあ、そこそこ訓練はされているね。
「こちらのいうことに耳を貸さずにそれですか。ローラさん、やっておしまいなさい」
「なんでそんな偉そうに言うのさ! わけわからないよ!」
そういいつつも、ローラはあっという間に五人の剣をたたき落とし、二人ほど峰打ちを首筋にたたき込んで気絶させた。指揮官がスキを見せたタイミングでぼくは少年のそばに移動する。うんうん、むかし見た「水戸〇門」もこんな感じだよね。
指揮官が舌打ちして無事な三人に「引けっ!」と命じるのもお約束どおりで、部下たちは気絶した二人を回収してその場を離れていく。あのドラマが長寿だったのもわかるな。気持ちいい。
「大丈夫かい?」
ぼくは茫然と立ちすくんでいる少年に声をかけた。ローラはすこし離れたところで「知ーらない」という感じですこしふてくされて座っている。
「え、ええ……。あの、とりあえずありがとうございます。でも、巻きこんでしまって言うのもなんですが、そちらこそよろしかったのですか?」
なかなか礼儀正しい少年だ。
「ああ、テンプレだし。それによろしかったかどうかはこれから考えるから、とりあえず話を……」
次の瞬間、ローラが弾かれたように立ち上がる。そして背後に疾風のように迫る気配とぼくの間に飛び込んだ。次の瞬間、金属がぶつかり合うガシャーンという音が響いた。そしてローラと気配の主が離れる。
「アンリ、この人強いよ!」
「アレックスを返してもらうぞ、曲者」
気配の主は女性の騎士だった。背はだいたいぼくと同じくらいでプリシラさんよりすこし低い。決してガタイがでかいわけではないが、鍛え上げられた鋼のような強さを感じるしなやかな身体。すこし味濃いめに整った顔立ちに精悍なまなざし。まさにくっ殺を演じるために生まれてきたような騎士だった。
「ちょっと待って、ボクたちは別に……!」
「問答無用!」
ローラの言葉に耳を貸さず、テンプレ的に再び彼女に斬りかかる女性騎士。再びつばぜり合いとなったところでぼくはこの場を早めに切り上げることにする。退いていった騎士のことを考えても、ここには長居しないほうがいい。
「ローラ、一瞬目をつぶって!」
「バカめ、この状況で相手から目を切るなど……うわっ!!」
女性騎士の目の前で水の玉が弾けた。もちろんこのセコい魔法の主はぼくだ。体勢を崩した彼女の手からローラが剣をはじき飛ばし、さらに体当たりでもう一段体勢を崩して首トンで片づける。一件落着だ。
「さてどうしようか」
とりあえず女性騎士の剣を回収する。
「考えてから動いてよ! 今さら取り返しつかないじゃない!」
ローラは半ギレ、というか全ギレ一歩手前だ。たしかに、今後の見通しが立たない。騎士団にケンカを売った以上、予定されていた宿に入っても早晩捜査の手が伸びるだろう。騎士を抱えたままテルマのねぐらまで戻るのも遠すぎる。テンプレにとらわれすぎて勇み足だったかもしれない。
だが、最悪はここにとどまることだ。ぼくは女性騎士の鎧を外した。そしてお姫様だっこで移動するために念のために両手を後ろ手に拘束し、両足も縛った。作業をしながら考える。
「テンプレ、テンプレ、つきものなのは……ご都合主義。さて……あっ!」
「どうしたの?」
「マイヤの家がこのあたりだ」
当然ながらぼくはこのビルハイムという街自体に詳しいわけではないが、マイヤがぼくに引っ越しを手伝わせたときに、たしかにこのあたりに来ている。というか、宿があったところとは目と鼻の先だ。歓迎されないのは火を見るより明らかだが、そんなことは言っていられない。
「アレックスくんと言ったね。きみ、彼女の鎧を抱えてついてきてくれるかな。ああ、その高そうな外套は脱いでね。ぼくの上着を貸してあげる」
思考力を失っているらしいアレックスくんは黙って言われるとおりに動いた。
「ローラはこの人の剣を持ってきてくれる? よいしょ……おお!」
女性騎士をお姫様だっこで抱き上げると、薄い肌着一枚しか着ていない彼女の胸部装甲が目の前でブルンと揺れた。大きさはベアトよりすこし小さいくらいだが、上向きでもまったく型崩れせず、天空を目指して山がそびえ立ち、その先っちょに宝石も透けて見えている。後ろ手に縛っているために胸を突き出すような感じになっているので、その威容はいやがおうでも引き立つ。
「アンリ!」
ローラがうしろからぼくの頭をひっぱたき、自分の上着を脱いで騎士に掛ける。そしてぼくの背中を強く押して移動をうながした。そうそう、神速こそ兵道の基本だね。
「アンリさん、あなたはなんという厄介ごとを持ちこんでくれやがったんですか?」
しばし頭を抱えていたマイヤは、顔を上げるなりそう言った。これまで見たマイヤの中でもっとも視線が怖い。あまり冗談がききそうにない雰囲気だ。
「かなりヤバい?」
「最上級にヤバいです。そうおっしゃるからには、二人がどういう人物かは知らないんでしょうね?」
もちろん知らない。ぼくはマイヤの横に座らされている少年に視線を向けた。まだまだ小児っぽいがなかなかこぎれいで端整な顔立ちをしている。
「アレックスくんだっけ? マイヤはこう言ってるけど、きみはどういう人物かな?」
「ええと、ぼくはアレックス・ラグシャンといいます。いちおう、女王家の次男です」
あれれ、思ったよりもかなりヤバい?
「……ちなみに、ソファで寝ている女性騎士は、きみの何にあたるのかな?」
「ぼくの姉です。名はシャーリー・ラグシャン。女王家の第一王女になります」
ええと、あのレイハナに先頭切って突っこんでいったという超脳筋王女? マジに姫騎士だったってわけ? ますますくっ殺さん予備軍ってこと?
「どうすんだよ! とんでもない火薬庫じゃないか!」
「なに逆ギレしてるんですか! それはわたしのセリフです! アンリさん、あなたってば普通に生きられないんですか!? あなただけがトラブルに巻きこまれるなら全っ然かまいませんけど、わたしや、ベアトリーチェさまや、ローラさんを巻きこまないでください!」
「だってテンプレが転がってたら拾うでしょ、普通!?」
「どこの勇者という名のトラブルメーカーですか、あなたはっ!」
ローラとアレックスくんは言葉の応酬がまったく理解できないようで、ポカンとしている。
そのとき、手足を拘束して猿轡を噛ますという非常に無礼な転がしかたをされていた姫騎士さまが「ウ~、ウ~」とうめき声をあげた。どうやら意識をおとり戻しになられたらしい。ちょっと動揺しているせいか、敬語、丁寧語がうまく使えない。
「……アレックスさま、シャーリー殿下への説明を手伝っていただけますか? この世界の害毒にまかせていたら、納得していただけるはずのことも台無しになります」
「は、はい」
マイヤはとてもイヤそうな顔をしながら大きくため息をつき、アレックスくんとともに超脳筋くっ殺さんが寝かされているソファの方に歩いて行った。それにしても、世界の害毒って、ちょっとひどくない?
「シャーリー殿下、知らなかったこととはいえ、大変なご無礼をお許しください」
ぼくはローラと一緒に殿下の前にひざまずき、顔を伏せてお詫びの口上を述べた。やむを得ない展開だったとは思うが、たしかに王族にやってテヘペロですむ話ではない。
「よい。わたしも状況を確認せずに先走ったのだ。遺恨は残さぬ。そして、アレックスを守ってくれたこと、感謝申しあげる。ところでマイヤどの、羽織るものをお借りしてもよいだろうか? 初対面の殿方の前でこの姿はいささか……」
殿下は精悍な美貌をすこし赤らめた。薄い肌着のせいでほぼ全容が確認できる胸部装甲を両腕で隠すが、かえって谷間が際立ってしまう。と、ローラがぼくの脇腹を力いっぱい抓った。
マイヤから借りたガウンを羽織ると、シャーリー殿下は出されたお茶をすこし含み、口を開いた。
「わたしも武門にかけてはそれなりの自信を持っていたが、ローラ殿にはあっさりとはじき返されてしまった。フォーゲル男爵も、いささか姑息とはいえ効果的な仕掛け、ひとかどならぬ感覚をお持ちだ。そのお二人を見こんで願い事があるのだが、聞いてはいただけないだろうか?」
さて、いきがかり上断りにくいことはたしかだ。だがここで第一王女に食いこんでおくことは、ぼくの目的としても陛下との関係でも、おそらくトータルで損にはならない。ぼくはローラと目をあわせた。少なくともダメだという気はないみたいだ。
「わたしたちで出来ることであれば」
お読みいただいた方へ。心からの感謝を!




