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13-3 女王国首都ビルハイムへ

いよいよ本格的に女王国でのストーリーになります。

半分ほどはラブストーリーです。意外とシリアスかも。


運営の指摘を踏まえ、多少改稿しました。

 フェルナンデス家を公式訪問したあとの一週間は、フォーゲル男爵家はバタバタと落ち着かない日々が続いた。ベアトは、結婚前後から山のように舞い込んでいるお茶会等への招待を厳選してこなしつつ、ニスケス侯爵やフェルナンデス夫人とエリーゼをうちに迎え入れる儀式となる披露宴の調整に走り回っている。そのため屋敷に居る時間がほとんどない。はっきりいって当主本人の何倍も忙しそうだ。


「お前は何をやっているのだ」と言われてもまったく反論できない状態であるが、ベアト自身が「アンリくんはよけいな口を挟まないで」と言っているのだからしょうがない。彼女は披露宴をぼくがひと月後に戻ったらすぐにでもとりおこなうつもりでいる。ちなみに、役に立たないぼくの代わりにマリエールが侯爵家に泊まり込んでいろいろ手伝いをしているらしい。


 ベアト以外も、たとえばベルメイリアは拠点に詰めっきりでテルマに転移の特訓を受けている。また、ベアトがほとんどぼくと別行動で飛び回っているために、ローラは彼女の護衛で出ずっぱりになり、あいた時間はヨーゼフやベルメイリアと女王国行きの下準をするために拠点にいる。ロジェとリュミエラは、まだまだ立ち上げの段階である屋敷内の調整や他家との行き来に忙しい。そしてぼくはぼくで、結婚後の諸手続を出発前日、親衛隊長補佐官としての初出勤までに済まさなければならず、逆に屋敷を離れられない。




「忙しそうですね~。こんなにアンリさんのまわりに女っ気がないのは初めて見ます~」


 二階のラウンジでナターリャとお茶を飲んでいると、彼女がからかうように言った。何故二階かというと、三階は夜遅くにリュミエラが部屋に戻るまではぼく以外は誰もおらず、率直に言って淋しいのだ。その二階も、ガブリエラとプリシラは、ぼくが旅立ったあとローラとベルメイリアが不在になるため、ロジェやリュミエラとの打ち合わせに忙しい。


「その言いかたは異論がありますけど、実際ベアトと居る時間もローラと居る時間も、結婚前のほうが長かった気がしますね。学舎での生活が如何に気楽だったかがわかりました」


「学生さんというのは学校の外では責任も義務もない存在ですからね~。こればっかりは実際に揉みくちゃにされてみないとわかりませんよ~」


「ナターリャさんも?」


「これまでに魂を三百以上は売り渡してきましたね~」


 あんたはいくつ魂を持ってるんだよ。


「ところで、今晩はリュミエラさんのお部屋ですか~?」


 ナターリャは「イヒヒ」と聞こえてきそうな笑みを浮かべた。


「いえ、彼女はちょっと女性の日で……」


「おやおや~。では、そろそろアナベラちゃんに使命を果たさせてあげてはどうですか~」


「え、い、いきなりですか? ちょっと心の準備が……」


「妻」と認識する女性たち以外と「妻たち」がくらす屋敷の中で行為に及ぶのは、かなり抵抗がある。


「そんなこと言っているとアナベラちゃんの心がバランス崩しちゃいますよ~。マジメな話、ちょっとあぶなくなってきたような気もするんです~」


 うーむ、そこはたしかに考えなければいけないポイントでもある。リュミエラからも、少し彼女に目配りをする必要がありそうだ、と言われている。


「わ、わかりました。覚悟を決めます」


「了解です~。さっそく今夜送りこみますので~」






 そしていよいよ女王国に向かう前日、ぼくは王宮に初出仕した。陛下はぼくが緊張しているかどうかなどに頓着せず、世間話をはじめる。そして、その雑談もどきはいつの間にか王宮をめぐるあれやこれやの生臭い話になっていった。そして、たしかにいくつか拾って深掘りしたほうがいいネタが見え隠れする。


 率直に言って、学生上がりの若造にこんな話を聞かせた上でそこに上乗せをさせようというのは、正気の沙汰とは思えない。だが、これが支配者というものなのだろう。使えると思うあらゆるものを利用し、かき集められるものをすべてかき集めて自分の優位を確実なものとし続ける。それを続けていかないと、いつしかその地位が揺らいでいく。まったく、支配者などになろうとする人の気が知れない。


 カデルとシンシアに下請けに出すネタを二、三拾ったあと、ぼくは陛下にひと月ほどカルターナを離れて女王国とアッピアをまわってくる旨を伝えた。


「ふむ、最近女王国とはあまり接点がなくてな。戻り次第話を聞かせてくれ」


 およ、これはここまでの話と違って具体的な意向だ。これは無視することは出来ないだろう。問題はどう返すかだ。


「あてのない旅ですので、陛下のお役に立つような話が出来るか自信はありませんが、了解いたしました」


「なんでもよい。街の様子であっても、そこから何かわかるかもしれんからな」


 どんな話でもいい、という言質を取ったところでぼくは陛下の御前を辞した。




「おかえりなさい」


 屋敷に戻ると、ロジェやメイドたちだけではなく、ベアトがエントランスで出迎えてくれた。ここ何日かなかった光景だ。カルターナを発つ前の夜に屋敷に戻っていてくれたのはやはり嬉しい。珍しくパンツ姿だが、長い脚がよく映えていい感じだ。


「今日はこっちにいられる?」


「ええ、明日の朝はアンリくんより早く出かけなきゃいけないけど。もう夕食の支度が調いそうですって。先に食堂に行ってるね?」


 ぼくもサッサと着替えを済ませて食堂に向かった。珍しくナターリャも一緒の食事だったが、あぶない方向に話が飛ぶこともなく終わった。サプライズでこういうのは精神安定上よくないからやめてほしい。




「気をつけて行ってきてね。これだけは言いたかったの」


 食事が終わったあと、ベアトの部屋でお茶をいただく。お茶を運んできたロザリーはすでに下がらせている。それではなにが行われるかは一目瞭然だ。まこと、お付きの侍女というのはなんでも知ってしまう存在である。


「ありがとう。ローラとベルメイリアもいるし、土地カンのあるヨーゼフも一緒だから心配ないよ。陸路を長く移動するのは、女王国とアッピアの間だけだしね」


ぼくはテーブルごしにベアトの手を握り、そのまま隣に移動する。彼女は空いたほうの手でぼくの頭を引き寄せ、唇を押し付けてきた。





「そろそろ行かなきゃ」


 ベアトはそう言って肩に回したぼくの腕をはずした。ちなみに、最初のラウンドのあとは寝室に移動している。


「まだ暗いじゃん。少し寝たほうがいいんじゃない?」


「そうもいかないわ。準備するから、ここからは男の子は禁止よ?」


 彼女は軽く鼻先にキスしてから、ぼくを寝台から追い出した。ベアトは決して服を着るところをぼくに見せない。前に無理に居すわろうとして、いたく不機嫌にさせてしまった。

 おとなしく部屋に戻ったぼくは、リュミエラのノックでエントランスホールに出てベアトを見送った。出かけるときの彼女は、こういう場での軽いタッチも許さない。一歩外に出るときは完璧な自分で、が信条なのだとか。時間が時間なので見送りぼくとリュミエラだけだ。


「行ってくるね」「行ってらっしゃい」


 見送る方と出かける方で挨拶が逆だった。ベアトが出て行くと、リュミエラが近づいてくる。


「もう少しお休みになりますか? それとも食事の用意をさせましょうか?」


「もう少し休む。リュミエラの部屋で」


「……よろしいのですか?」


 ぼくは頷いた。もちろん趣旨はわかっている。ぼくもベアトを抱いたすぐあとに、というのは最低だと思う。だがリュミエラが復讐を終えたあの時から、彼女とひと月まったく顔をあわせないというのは初めてなのだ。想像していた以上にそれを気にしている自分がいる。出発前に彼女を充分感じておきたい。彼女もそれ以上は訊かなかった。






 ぼくとローラの転移を終えると、ベルメイリアは息を切らせて床にへたり込む。目の前は見覚えのある、シルドラのねぐらだった小屋だ。テルマは彼女がずいぶん腕を上げたと行っていたが、それでもキツそうだ。


「大丈夫?」


「な、なんとか……。三人いっぺんにやって平然としてるとか、やっぱりテルマさん異常よ!」


 なんでも、そもそも転移の距離が伸びるにつれてより多くの魔力を使う上、人数が増えると幾何級数的に魔力の消費が増えるらしい。 自分プラス一人で四倍、二人で八倍、三人だと十六倍になるとか。今のベルメイリアは八倍までが限界らしい。

 このまま夜まで身体を休めて拠点に戻り、さらに一晩寝て回復を図った上でテルマに魔力を分けてもらってヨーゼフを連れて再びここへ、というのが段取りだ。ごろりと横になってすぐに寝息を立て始めたベルメイリアを置いて、ぼくとローラはビルハイムの中心部に向かった。




「この辺だよね……あ、あそこかぁ」


 ビルハイムの下町エリアを少しうろついて、合流地点になっているヨーゼフ心当たりの宿を見つける。


「とりあえず落ちつこう……うわっ!」


 ぼくは背後から急速に迫る気配をすんでの所で交わした。だが、その気配のほうはとっさの動きに対応できず脚をもつれさせて転んでしまう。見ると、身なりのこぎれいな少年だ。ぼくよりも二つか三つ年下というところか。何かに追い詰められた表情が気になる。


「ご、ごめんなさい!」


 少年はそういうと立ち上がって走り去る。すこしおいて、やはり背後から気配が近づいてくる。見ると男が四、五人。武装や身なりから、おそらくは首都警護の騎士団の可能性が高そうだ。彼らは道を空けたぼくらに目もくれず、少年の走り去った方向に急いで行く。関わる必要などもちろんないのだが、そこに濃厚に立ちこめるテンプレの匂いを無視するわけにもいかない。


「行ってみよう」


 走り出したぼくのあとを、テンプレへの理解が薄いローラが「えー?」といいながら追いかけてきた。




お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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