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11-28 魔獣対策

前回から時間があいて申しわけありませんでした。

ちょっと詰まったスキに、ふっと思いついた新作ネタのほうに気が行ってしまいました。

しかし、そちらもすぐに詰まり、そうこうしているうちに仕事も忙しくなり……。


ちなみに、新作というのは「悪役令嬢モノ」ですが、近日公開できると思います。

書きかけのモノをなんとかしろ、というおしかりは、覚悟しております。

「一年もしないうちにド・リヴィエール伯爵家と縁もゆかりもなくなるアンリさまが、ド・リヴィエール伯爵家の第二夫人でいらっしゃるマリエール様の個(・)人(・)的(・)な(・)使用人であるわたしにいったいどのようなご用ですか?」


 壮絶なまでに降り注ぐ言葉の槍にジッと耐えながら、ぼくはタニアの前で土下座していた。




 話は一日前にさかのぼる。リシャールたちの遠征への同行を一週間後に控え、準備はヤマを越えていた。魔法のトレーニングもどうにかめどが立ち、人員の調達もフレドがほぼ終わらせてくれた。リシャールたちとの打ち合わせもそこまでの数日でおおむね完了している。アンドレアとパウロは最初はいまひとつすっきりしない様子だったが、どうにか全体像について理解してくれたと思う。物資は予定どおり出発二日前に届く。

 英雄候補の残り一人の男子生徒については、調べた限りでは今回の動きには関わりそうにないという結論に達したため、おいおいバルデ経由でどこかの女性に骨抜きにしてもらうことにした。個人的な恨みはないので申し訳ないが、エリーゼのスペアだったりする可能性もあるので放ってはおけない。教会に関わったのが運の尽きだと思ってあきらめてもらうしかない。

 そんなところにやってきたのが、再度の現場確認に出たローザたちからの連絡だった。魔族が関わるかもしれないと言うことでシルドラにも一緒に行ってもらったのだが、最終的にぼくたちが目指す森の中央に、前回の調査の時にはなかった魔方陣を発見したというのだ。


「ヤバそう?」


 ラウンジにはフルメンバーが勢揃いしている。現場に行ったローザがシルドラをチラと見、シルドラがそれに頷いてみせる。


「そこそこやっかいでありますよ。わたしたちのような高位の魔族が出てくる感じではないでありますが、なかなか強力な魔獣は出てきそうであります。しかも、姉さんの見立てだと、連続召還が可能な魔方陣みたいであります」


 それ、ヤバくないか?


「テルマ、その魔方陣って、壊せないの?」


 テルマは表情を変えないままに首を横に振った。


「魔方陣は動作を始めている。いまからそれを不用意に壊すと暴走するかもしれない。出来るのは連続召還を無効にすることだけ。それも、細かい手順が必要」


「テルマにやってもらうことは……?」


「わたしにはちょっと難しい。ノスフィリアリに頼むべき」


 げ……。この期に及んでタニアの力を借りるのはちょっと……。押しつぶされるくらいのイヤミが浴びせかけられそうだし……。ただ魔法の理論に関しては、タニアは魔族の中でもエキスパートらしいんだよなぁ。武闘派に見えるが、実際はそうでもないらしいのだ。


「アンリさま、ここはアンリさまの精神が切り刻まれるくらいは安い対価だと思うでありますよ」


「あ、ぼくも同感!」


「他人の精神なら、ぼくも同じことを思っただろうねえ!」


 くそお、他人ごとだと思ってぇ……。覚えてろよ、ローラ。思いっきり焦らして、こないだみたいに半狂乱にしてやるからな。中年を舐めんなよ。


「アンリさま、お気持ちはお察ししますが、ここはやむを得ないかと……」


 ほんとうは、リュミエラに言われずともわかっている。ほかに妙案はないのだ。ぼくは泣く泣くシルドラに転移の魔方陣の起動を頼んだ。




「なるほど、そこそこによく描けている陣ですね。特徴的な技法ですし、少し調べれば、誰が描いたのかもわかりそうです」


「それはわたしが任される」


「テルマに任せるとやり過ぎそうで怖いですが……お願いできますか?」


「あ、あの、出来れば背後関係のおおもとがたどれるようにしてほしいんだけど、ダメ?」


「口さえ生きていれば問題ありません。そのあとはシルドラに任せればいいでしょう。頼むから白状させてください、といわせてくれますよ」


 シルドラが微笑しながら拳を突き出す。どんだけなんだよ……。




 わりとあっさり魔方陣の書き換えは終わり、ぼくらはそろって拠点に転移した。


「さて、誰があの魔方陣を描いたかは、書き換えを行っている間にだいたいわかりました。おそらく、本番では起動の確認のために近くまで出張ってくると思います。そのあたりを、どのように処理するおつもりか、聞かせていただきましょうか」


 タニアの問いかけは、ぼくとしてもちょっと悩ましいところだった。できればぼくとリシャールたちですべて処理したいところだが、高位魔族が関わっているとなると、ちょっと手に余る。どこまで教会と関わっているかにもよるが、そいつに自由に動き回られると不確定要素がふえすぎる。


「シルドラに裏で動いてもらって、そいつを確保することは出来るかな? 背後関係をゲロしてもらわないといけないと思うし」


 ぼくの返答に、シルドラとテルマがタニアのほうを見た。その視線に、タニアは頷いてみせる。


「関わっているのはベルメイリアですよ」


 知らない名前が出てきたぞ。でも、二人にとってはそうではないようだ。


「それなら、わたしでなんとかなると思うであります」


「確保したらすぐに移動する必要がある。わたしも行く」


「最近いいところを見せていないので、出来れば一人で片づけたいところでありますが、もうひとり抱えて森を一気に出るのはわたしでは厳しいでありますよ」


 テルマのコメントにシルドラが渋い顔をしつつも同意した。


「そういうことで、アンリさまには問題ありませんか?」


「ない、というか、ありがたいよ。ところで、ベルメイリアって?」


「森人系の魔族です。ここ五十年ほど、名前を聞かなかったのですが、またなにやら始めたのでしょうか……」


 森人系というと、地球のファンタジー的にはエルフということだろうか……。


「強い、というか大物?」


「まあ、小物と言えば小物ですね。一対一ならアンリさまでもギリギリ制圧できる程度でしょうか」


「それ、ぼくとほとんど互角ってことだよね? ぼくも小物、って言われてるのと同じだよね?」


「大物のおつもりだったのですか?」


 いや、正面きってそう訊かれると、答はひとつしかないじゃないか。

 

「いえ、メチャクチャ小物です。失礼しました」


「はい。それでは、アンリさまは吐かせた情報をどう使うおつもりですか?」


 これについては、餅は餅屋だ。中途半端に自分で動こうとするより、恰好の持ち込み先がある。


「ニスケス侯爵に、フェルナンデス枢機卿とのコネと併せて売りつけようかな、と」


 今回の茶番がエリーゼに伝わっていないということは、父親のフェルナンデス枢機卿もやはり今回の動きに関わっていない可能性が高い。なら、彼ではない誰かが、彼を出し抜こうとしてシナリオを書いた、ということだろう。であれば、フェルナンデス枢機卿はドルニエと教会の関係を慎重に考えているグループに属していると思われるし、ニスケス侯爵ならばこのコネをうまく利用できるのではないだろうか。うまくいけば、貸しをひとつ作れる。


「落としたばかりの女の親の情報を、すでに手中に収めた女の親に売りつけると。相変わらずのクズッぷりで安心しました」


「いや、落としたとか落としてないとか、そういう話じゃないから!」


 鈍感系主人公ではないから、事実としてエリーゼが少なくとも半落ちであることはわかっている。だが、落とそうと思ってそうなっているわけではないということも主張しておきたい。


「まったく、女をその気にさせることだけは一流なんですから、困ったものです。まともに歩けもしないころから女に取り入る手管はみごとでしたからね」


 なにを言いだすかな? 根も葉もないことを言わないでほしい。ちょっとみんなの視線の温度が下がった気がするぞ。


「ちょっと待って! そんな話聞いたこともないよ! ぼくが何をしたっていうのさ!?」


「いまだから申しあげますが、イネスさまのアンリさまへの執着は少しばかり姉弟の情を越えていらっしゃいました。あれは、幼少時のアンリさまのイネスさまとの距離の取り方が絶妙だったためです。まあ、どちらが精神的に成熟していたかを考えると、イネスさまの扱いがうまかったのも当然といえば当然なのですが……」


 ラウンジを見渡すと、みんなの顔に「?」が浮かんでいる。


「いや、タニア、それはまあ……」


 ここで前世のことを知っているものはシルドラだけだろう。混乱を避けるためにも正直、言ってもらっては困るのだが、絶対わざとだ。でなければ、あんな遠回しな言いかたをするはずがない。結果として、ぼくは歯切れよくタニアの言葉に反論することが出来なかった。そして、「幼いぼくがイネスをデレさせた」というネタは一人歩きをしていくわけだ。いかん、まだまだタニアには勝てない。


「それはまあ、というのはなんでしょうか?」


 タニアはわかっていて突っこんでくる。もう、話題を変えるしかない。


「いや、それはそうと、ということだよ。出てくる魔獣はどのくらいの脅威度なんだろうか?」


「考えましたね。いいでしょう。遺跡でバルが出してきた腐れ鬼を覚えていらっしゃいますか?」


 ああ、あれか。そのすぐ前のデュラハンよりも少し強いくらいで、あの時はそこそこ苦労した。いまはもう少しラクな戦いが出来ると思う。


「うん」


「強さ自体はあんなものでしょう。ただ、こういうシナリオを書いた上で召喚するのですから、想像どおり、あれよりも普通の攻撃は通りにくいでしょうね」


「魔法付与した武器なら?」


「効果のある属性のものなら、リシャールさんの攻撃は通るでしょう。マルコさんはクリティカルが出れば、でしょうか。ほかのかたはお目にかかったことがないのでわかりかねます」


「全体として、時間をそれなりにかければいける、という感じかな」


 あるいは、クリティカルに頼るよりは、マルコにタンクを任せるのもひとつの方法かな。


「せいぜい、命を落とさぬようにお気をおつけください。マリエール様を悲しませるようなことがあれば、蘇生してでも制裁を加えさせていただきますので」


 蘇生……できるのか?




お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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