↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/205

11-26 薄氷www

久々の連日投稿です。さてエリーゼちゃんの今後はいかに?

「おいしい!」


 この日エリーゼが初めて見せた若い女の子らしい素のリアクションだった。商業区のはずれにあるカフェレストランのような店で、ぼくとエリーゼはテーブルをはさんで向かい合っている。ショートケーキのようにクリームとフルーツをあしらったスイーツを品良く頬張ったところでの反応がこれだ。

 じつはこの店「エスカイヤ」は、先日リュミエラと入って最後はコトに及んでしまった店でもある。今日初めて会った女の子を記憶も生々しいここに連れてくるのは人間としてどうかとも思ったが、好みも知らない女の子を連れてくるのにふさわしい店をあまり知らないぼくは、苦渋の選択を行った。


「気に入っていただけましたか?」


 ぼくは、背中をゾクゾクさせながら、よそいきの言葉をかける。いや、正直なところ、こういうふうにお互いをよく知らない女の子と長い時間を過ごすのははじめてなので、ぼくも必死なのだ。アクセサリーショップとドレステーラーに彼女をエスコートして、この店にたどりついた段階で、メンタルポイントは黄色ゾーンに入っている。ちなみに、アクセサリーショップはリュミエラと何度か入った店で、ドレステーラーはイネスが結婚するときに、タニアが持ってきた素材でドレスを織り上げた店だ。


 スミルノフ司教から妙なハッパをかけられはしたが、もちろん真に受けてはいない。スイーツをはさんで話をするときに、少しでも関係ありそうな話がきければ儲けもの、ダメでもいいや、という感じで臨んでいる。ガッついているととられるような真似は厳に控え、適度な距離を保って不機嫌にさせないことだけを注意していたのだが、この店のケーキは良い仕事をしてくれたようだ。


「あ……、申しわけありません。はしたなくはしゃいでしまいました。アンリさまは、本当にステキなお店をご存じですのね? ここもステキですけど、先ほどおじゃましたお店も、どちらも本当にすばらしいモノばかり見せていただきましたわ。なにかお礼をさせていただかなければ……」


「いえ、喜んでいただけたのなら、それが何よりです。それにしても、スミルノフ司教さまも、突然とんでもないことを言いだされて、少し慌ててしまいました」


「わたくしもですわ。わたくし、お父様やお祖父様以外の殿方と、あまり長い時間を過ごしたことがございませんの。ナターリャさまがああ言いだされたとき、取り乱してしまったわたくしを見て、笑っていらっしゃったのではなくて?」


「ぼく自身が取り乱していましたから、そんなことは決して」


「ホントかしら?」


 エリーゼは探るようなまなざしのままクスッと笑った。そして、首飾りの先で揺れるアメジストのような紫の宝石をあしらったトップに指を添える。気に入ってくれたようだ。優雅な仕草だが、反則的な胸部装甲のせいで、トップのある位置が微妙におかしい。


「またあの店にうかがえるかしら……」


「しっかりした店ですから、もうエリザベートさまもお得意様ですよ。お父様やお祖父様にお願いしてみては?」


「エリーゼと……」


「はい?」


「エリーゼと呼んでくださると嬉しいですわ。それで、アンリさんはもう、わたくしを連れていってはくださらないの?」


 えー、おい、これはどうしたことだろう。たしかにエリーゼ嬢、少々世間知らずかもしれない。

 もちろん、上目遣いとともにこう言われるという結果が嬉しくないかといえば、男としては舞い上がりたい気分になってくるのだが、情報目当てという部分に罪悪感を感じるし、これ以上踏みこむ前に、できればベアトの許可を取っておきたい感じだ。


「エリーゼさまは、ぼくなどと一緒でよろしいのですか? 拙いエスコートしかできませんが……」


「とんでもありません。小さなことまで気配りを頂いて、本当にのびのびさせていただきました。感謝していますの。ナターリャさまに改めてお礼を申しあげたいですわ」


 エリーゼは胸の前で手を組み合わせて、パッと笑顔を浮かべる。その拍子に、胸部装甲がぷるんと揺れた。ヤバい、これ最強だろ。


「ぼくでよろしければ、またいずれ」


 さすがに「いつでも」というのは避けた。でも、絶対ベアトの事後承諾は必要だ。




「スミルノフ司教さまは、教会の命令でドルニエに来られたと伺っていますが、今日エリーゼさまが訪問されたのも、やはり教会の関係ですか?」


「ええ、わたくしが近々、教会の指示で、その……すこし荒っぽいおつとめをすることになっていますの。ナターリャさまはその準備を手伝ってくださることになっていて……あの、荒っぽいおつとめ、なんて、ガッカリされますわよね?」


「エリーゼさまが荒事、というのは少しビックリはしますけど、ガッカリなどは……。でも、荒っぽい、ってどのような?」


「それは、あまり他人に漏らさないように、と言われていますの。ごめんなさい」


「なるほど。そういう話は、よくあることなのですか?」


「いえ、初めてですわ。わたくし、魔法と剣の素質がすこしあるらしいんですの。教会で小さいころから訓練は受けてきましたし、その中で魔の存在とはいえ生き物を殺めたりもして参りました。ただ、今回は訓練ではない、ということのようで、わたくしも少し戸惑っております」


 ん? ということは、エリーゼはただの魔獣狩り的なものという認識なのか?


「強い女性には、憧れてしまいますね。すばらしいと思います。昔から、そういう仕事は覚悟していらっしゃった?」


 口先三寸と思うだろうが、実はこれは本心。強い女性はすばらしいと思うんだ。小さいころから強い女性に押さえつけられてきた、とか、そういうのは関係ないよ? 絶対にないよ?


「ええ、教会にお仕えする上で、そういうこともあるかもしれない、とは。ですが、今回は学生の身で突然のことでしたし、お父様やお祖父様も不思議がっておりますの」


 ふむ、教会が一体となって「英雄」を生み出そうとしているワケではなく、エリーゼも自分が「英雄」となることを期待されているとは思っていない、と。少なくともフェルナンデス家にとっては寝耳に水らしい。ただ、エリーゼが「英雄」になることで彼女の父や祖父が冷や飯を食うことはないだろうから、計画のおおもとはフェルナンデス家の対立派閥からではないだろう。「英雄」を生み出したことでフェルナンデス枢機卿の一派の教会での地位を高め、場合によってはフェルナンデス枢機卿を出し抜いて発言力をさらに上積みする、といったところか。

 これなら、こちらの手の内を少しあかしてもよいかもしれない。そうすれば、ついでに彼女に対する罪悪感も早めに払拭できる。


「エリーゼさま、その荒っぽいおつとめとは、メルビルの森ではありませんか?」


「え、アンリさんがなぜそれを?」


「ここから先は、しばらくはエリーゼさまとぼくの間だけの話にしたいのですが、よろしいですか?」


 エリーゼは少し頬を染めて頷いた。あ、二人だけの秘密、ってキーワード?

 ぼくは、数年前のメルビル遠征での事故の話と今回のリシャールたちの遠征について説明し、今回の遠征が何らかの背景を持つ可能性があること、教会が関わっているという噂があることをつけ加えた。


「そのあたりのことを、スミルノフ司教さまがなにかご存じではと思って、今日伺っていたんです」


「そうでしたの……。わたくしのおつとめとも関係がある、と考えるのが普通ですわね。何か出来ることはございますか?」


「いえ、いまはそのお気持ちだけでじゅうぶんです。もしもの時は、またお話しさせていただくかもしれませんが……」


「ええ、お声をかけてくだされば、いつでも参りますわ。ここのケーキで手を打たせていただきます」


 エリーゼがニコッと笑ってみせ、マジムードになりかけた空気はまた甘々にベクトルが向いてしまった。




 その後しばらく他愛ない話をしたあと、ぼくはエリーゼをスミルノフ司教のもとに送り届けて、そのまま学舎に戻った。直接フェルナンデス家の邸宅に送っていかなかったのは、見知らぬ男が彼女を連れ回していたことを、彼女の家族がいぶかしく思うだろうという配慮からだったが、司教のニマニマ笑いに見送られる結果となった。




 翌日、ぼくはベアトにジルの小屋で落ち合った。学舎に帰ってすぐ、ポーター経由で彼女にメッセージを送っておいたのである。そして、そこで前日にあったことを洗いざらい話した。もちろん、甘々な空気が何度か出現したことは秘したが……。


 ぼくの話を聞き終わると、ベアトはひとつため息をついた。


「さすがアンリくんね」


「い、いまの話のどこに、『さすが』という要素があったかな?」


「うん、やっぱりわたしの見こんだとおり、アンリくんはすごいと思う。ギリギリのところで絶対に正しい選択をするの」


「だから、どういうことかな……?」


「わたし、昨日『エスカイヤ』に入るアンリくんを見てるのよ」


 ぼくは固まった。当然、見たのはぼくだけではあるまい。


「あの、いま説明したとおり……」


「誤解しないでね。アンリくんの説明は心から信じてるわ。わたしがアンリくんを見たことを知らない状態で話してくれたんだもの。すごい、っていうのはね、わたし、今週末にはこの件でアンリくんと話そうと思っていたの。その時に同じ説明をされたとして、いまと同じくらいアンリくんを信じられたかどうかは、ちょっと自信がないわ」


 うわー、あっぶねえ。正座モノだったかも。


「あ、じゃあ、すごいっていうのは……」


「うん。わたしがアンリくんを信じられるように行動してくれたってこと。皮肉じゃないからね? ありがとう、って思ってるから」


 うん。ぼくは、本当の意味でベアトに勝てる日が来るんだろうか。


「ぼくこそ……ありがとう。そう言ってくれて、本当に嬉しい」


「はい、じゃあ、この件はここまで。次の件、いくね?」


 え? 次の件って?


「わたし、エリザベートさんとはパーティーで何度かご一緒してるの。話したことは一度だけだけどね」


 あ、じゅうぶんあり得ることだとは思っていたけど、顔見知りかぁ。


「彼女がどれだけ男の子に冷淡にふるまってるかも見てるわ。でも、昨日のエリザベートさんはフワフワと幸せそうにしていたのだけど、このあたり、今後も含めてどう考えているのかしら?」


 一難去ってまた一難だぁ……。






お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。