サイコパスと呼ばれし男
晃は草原を駆け抜けながら、まるで機械のような精密さで魔物をあしらっていく。
彼の通り抜けた後にはドロップアイテムで海ができる。
「さて、あらかた狩りつくしたか。これに憤慨したザコ冒険者どもが誰かに八つ当たりでもすりゃ、ミッション達成なんだがな」
コミュニケーションミッション1
女の子を助けよう
彼が抱えているミッションの一つだ。
漠然とし過ぎていてどうしていいか途方に暮れてしまうのが初心者のやることだが、彼はコミュニケーションミッションの常連である。
怖いものなどもはやない。
「ってか、運営にも文句の一つ言ってやりたいぜ。誰が社会不適合だよ。いつかぶっとばしてやる」
そう、怖いものなど何もないのだ。運営の老婆心を物ともせず、異性との交流を頑なに拒否してきた彼は、何度も何度もコミュニケーションミッションが現れて、進行を邪魔されている。
そのおかげでついに彼はコミュニケーションミッションの穴を見つけたのだ。
自作自演でもオッケーラインだということを。
「っちくしょー、んだよ、俺たちが狩に来たってのによー。どうやったらこんな魔物をリポップまでに狩り尽くせるんだか……」
晃は微笑んだ。
「カモが来たぜ」
そうやって、その冒険者たちが手近にいる女の子をいじめる機会を待った。
憂さ晴らしにPK行為を行うのは不良っぽい三人組冒険者のステータスと言っていいだろう。
だが、待つ位置が悪かったらしい。ちょうど彼らの目の前につったっていたのだ。
だから、運悪くターゲットにされた。
「おうおうおう、そこの突っ立ってる兄ちゃん?いま、ちょっと俺ら暇なんだわ?暇つぶしにつきあっ、ヘブゥゥ!?」
鳴ってはいけない音が鳴り響き、冒険者は倒れ伏した。運が悪かったのはコイツら不良冒険者どもである。
「俺じゃねぇんだよ、クソども!!!!!」
優しげなイケメンフェイスをこれでもかと捻じ曲げた晃はその冒険者に対して指を鳴らして威嚇をする。
「ひ、ひいぃぃぃ!!!???こ、コイツまさか、あの、社会不適合じゃあ!?」
「あぁん!?んだとカスども!?俺は社会にめっちゃ適合してんだよ、テメェらとは格が違うってだけだ!おいおいおい、どう落とし前つけるんだ!?」
「ひ、ひいぃぃぃ!!!???なんでもしますからご勘弁ください!!!!!?????」
晃はそれを聞いてこれでもかと顔面を崩壊させて笑う。
「その言葉を待ってたんだよ。てめぇら、手近にいる女を襲え」
「へ、で、でも、倫理規定で合意がないと女は剥けませんぜ?」
「ビッチを剥いて誰が楽しいんだよ、ボケ!?俺はなぁ、コミュニケーションミッション達成のためにてめぇら使役してやってんだ、ありがたく思いやがれぇぇぇ!!!」
「は、はいぃぃぃぃぃ!!!???」
晃は気付いていない。コミュニケーションミッションは社会不適合の代名詞であることを。それを叫ぶことは声高にそれを宣言しているのと同等である、ということを。
「ち、ちくしょう、相手が悪すぎるぞ……。サイコパス野郎に捕まるとは俺たちも運の尽きだな……」
フィールドのある程度晃から離れたところで彼らは女の子を探していた。
「これからは真っ当に生きようぜ。二度とあんなのに捕まるのはごめんだ……」
「でも、くされサイコパス野郎の命令を聞かないとヤベェことになりそうだぜ。ちょうどあそこにか弱そうな女の子がいる。土下座して頼み込むか。さすがに反倫理行為で15秒懲罰はいただけねぇ」
運営は、迷惑行為をする客を追い出したりはしない。
その代わりに、懲罰制度が規定されており、例のテストの痛みを倍にしたような激痛が全身を襲うという地獄を罪の重さによって何段階かに分け、規定している。
「ごめん、お嬢さん、ちょっと俺たちに襲われてるフリをしてくれないか?」
「え、えと、いい、ですけど」
「助かるよ。クエストの分のアイテムとかあるならいくらでも言ってくれ。限度はあるがお礼だ」
「え、そ、そんな、悪いですよ」
か弱そうな女の子は手をワタワタ振って否定している。
「いやいや、本当君のおかげで俺たちの命が助かるんだ。感謝しても仕切れないよ」
「そんな、やめてください。ただ、私はやられたふりをするだけでいいんでしょ、ボランティアで十分ですよ」
女の子は最高の笑顔で不良冒険者たちにそういった。
「(天使だ……)」
「(天使がいる……)」
「(生きててよかった……)」
そう思いながら、三人組は相談する。この子にならどんなレアアイテムだって貢いでいい気がする。
「本当か、でも、それじゃ心苦しいなじゃあ、まぁ、これだけでも頼むよ」
そういって三人が手渡したのは、ダイヤモンド鉱石だ。
「え!?ダメですダメです!!!こんな高価なものもらえません!!!」
「貰ってくれ。俺たちから天使様へのプレゼントさ」
「ほんと、やめてください!!!悪いですよ!!!」
その困った顔に三人は心底癒されていた。
だが、彼らは忘れていた。今、世界最高レベルのサイコパス野郎に命を握られているということに。
そして、彼らは知らなかった。
そのサイコパス野郎に握られた命はもれなく握りつぶされているということを。
「どらぁっっっ!!!!!」
誰にもわからなかった。
痛みさえ感じる暇はなかった。一瞬で三人の体が光の粒になって消えていった。
「キャァァァァァァ!!!!!」
トラウマになりそうな倫理規定抵触ギリギリのPKを目の前で見せつけられ、少女は叫び声をあげた。
「お、お嬢さん、大丈夫かい?俺が来たからにはも、もう大丈夫だ。おうちへおかえり」
彼は全身を震わせながら、そう言うと猛ダッシュで女の子から逃げていった。彼女が見えなくなるとミッション確認画面を開いた。
「ん?どうしてだ?」
依然としてそこにはあった。
コミュニケーションミッション1は未達成のままだったのだ。
「どちくしょー!!!運営めーーーー!!!セキュリティーホールを潰しやがったかぁぁぁ!!!!!」
その後しばらく、ボーダーゾーンへ行く年少冒険者はいなくなったという。
個人の行動が運営を動かしたという数少ない事例の一つとして、彼は歴史に名を刻んだのだ。




