サイコパス野郎の暴走
「ちくしょうが……。仕方がない。最後の手段だ」
晃は左の腕輪を操作し、誰かに電話をかける。
彼の視界にはcallingと書かれた小さなタスクが表示された。
『んー?もしもしあっくん?』
「あぁ。ミナミか。ちょっと今ディプラにいるんだけど、コミュニケーションミッションがまた湧いてきたんだ。悪いけど、協力してくれないか?」
晃はそういうと、死角から襲ってきた魔物を真っ二つにした。
『えー、私、今リアルジャパンでお買い物中なんだよー。もうちょっとあとにしてくれない?』
「はぁ。わかった。なら仕方がないな」
『そうだ、あっくん?ゲームだからってゲスの極みみたいなことするのはダメだよ?』
「それは保証しかねる。また暇になったら来てくれ」
晃がそういうと視界から、タスクが消えた。
「まぁ、俺は当然のことをしているまでなんだがな?この世は弱肉強食だ。はははっ!!!はははははは!!!」
顔に手を当て高笑いを始めた彼に周りの冒険者はドン引きしている。
「ふぅ。一人で笑っても虚しいだけだな」
そういって再び歩き始める。
「ちょっくら魔王を狩りに行くかねー」
剣、銃、魔法が武器として選択できるこの世界だが、基本的に遠距離攻撃ができない剣は切り捨てられる運命にある。
だが、コイツだけは違う。
まるで死角などないように全方位から襲いかかってくる的を捌いている。
実は、死角がなかったりする。
「ってか、なんでこんな勝ちゲーに苦労してんだよ。あー作業だ。だるい……。ん?」
晃は荒地の真ん中で人影を見つけた。
「ふーん。みたことのないモンスターだな。不意打ちじゃつまんねぇ。おーい!」
晃はそう言って人影に呼びかける。
「お、寄ってきた。どんな攻撃して来るんだろ?へへへ、せいぜい俺を楽しませろよ、クソモンスター」
晃は全速力で人影に向かって走り始める。
あんなに人間に似たモンスターは見たことがない。
騎士系のモンスターか?それともアンデッド系なのだろうか?まさか、自分の知らない新たな系統なのか?
そんな風に胸踊らせる晃は剣に力を込めていつでも惨殺できる構えを作った。
「ひゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」
しかし、目の前にいた人影は晃の期待したものとは違った。
普通の女の子だった。
「げっ、まずい!?」
晃はその場でフィギアスケーター顔負けのスピンをして勢いを殺す。
なんだか新しい技開発のインスピレーションが刺激されたような気がしたが、今はそんな悠長に考えていられない。
目の前の女の子に当たらないように必死でその場で止まる。
やがて大回転が終わり、少しフラフラしながら相手にピントを合わせていく。
「っち、なんだよ、モンスターじゃねぇのかよ。無駄に走って損したぜ」
晃はそういうとその場を去ろうとした。
「ちょ、ちょっと……、待ってください……!」
だが、その前に女の子に引き止められた。
「な、なんだよ?文句あんのか?」
晃の鼓動が不自然に早まっていく。
「ち、ちがいます。わ、わ、私、今すごく困ってて、その、あの……」
女の子の肩はひどく震えている。
「なら、その辺のリア充どもにでも助けてもらえよ。俺は女にトラウマがあるんだ」
晃はぶっきらぼうにそういった。だが、よく見ると彼の手が震えている。
「その、えと……、周りに人がいない、というか……」
「ん?あ、そっか。そういや、俺以外未踏破だなここ。よくこんなとこまで来られたな、お前くらい強けりゃ困ったことがあっても別に乗り越えられるさ、じゃあな」
彼は女の子に背中を向けてからそうまくしたてて今度こそ女の子から逃げ仰せようとした。
「いや、だから待ってください……!!!」
その彼の服を女の子は必死の思いで掴んだ。
晃はぎょっとして、女の子の方を振り返る。女の子の目には今にも溢れそうなくらい涙がたまっていた。
「な、なんだよ、そうまでして俺の恥ずかしい思い出を増やしたいのか?」
「え、えと、その迷惑は絶対かけないので、第二の街まで連れて行ってください!!!」
「なんでだよ、ここまで来られる実力者なら帰りも余裕だろ?」
「ろ、ログインしたらここにいました」
「なんだそれ……ありえないだろ……」
「そ、そんなの私に言わないでください。私なんかが話しかけていい相手じゃないのことは十分、わかってます。なので、せめて。邪魔だけはしないので、た、助けてください……」
「ずいぶん卑屈だな……。リアルの俺レベルじゃないか」
晃は少し考える。
リア充どもは確かこんな卑屈なことは言わない。リア充とは無意味な上から目線で、彼らができることができないものを見下し、そして、自分たちのグループの楽しいネタにして嘲笑してくる趣味の悪い奴らのことだ。
それに、今はコミュニケーションミッションがある。
いくら女子が苦手だからって、とやかく言っている場合ではないことは確かだ。
「仕方ない。今回だけだ。そして、俺に会ったことは誰にも言うな。人助けして自己満足してるナルシストとか裏で言われてるのを聞いたら2週間は部屋で引きこもるはめになるからな」
「ず、ずいぶんと、卑屈なんですね」
「お前に言われたくはないぞ?」
そう言うと、晃は今までの進行方向とは逆方向へと走り始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください。早すぎます!」
「先に魔物を殲滅するんだ。そこで待ってろ」
そう言うと、晃は宣言通り周囲の魔物を一刀両断(物理)していく。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!??」
魔物達が普段の戦いではありえないような肉塊に変わっていくのをみて女の子は悲鳴を上げた。
だが、当の晃は全く気がついていない。
「ははは!!!???リア充ども、テメェらの熱い視線にはずいぶん悩まされてきたが、ここで遭遇しなら百パーPKしてやる!!!こんな風にな!!!???告白ゲームだと、ふざけやがって!!!肉も血も骨も、全部残らず叩き潰してやる!!!ははは!!!弱者は食われるのみだ!!!ははははははは!!!!!」
女の子は思った。
やばい、とんでもない奴に助けを求めてしまった。
「ふぅ。終わったぞ」
「助けて、助けて、助けて、助けて…………」
「安心しろ、もうお前を襲うものはないぞ?」
「いや、その、魔物なんかよりよっぽど恐ろしい……」
魔物とて、あんなに一方的な惨殺などという展開は予期していなかったはずだ。女の子はすこし同情してしまった。
「あぁん?」
女の子は魔物の心配以前に自分の身に危険が及びそうになってしまったようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………」
女の子はびっくりして尻餅をついた今にも泣き出してしまいそうなのを必死で抑えているようだ。
さしずめ喚いたら捨てられるとでも勘違いしているのだろう。
さすがに晃の良心も痛む。
「いや、そんなに怯えるなよ。俺は危害を加えてきた奴以外には最低限の礼儀を尽くしてるぞ?」
「わ、わわ、わかりました。なので、私を第二の街へ」
我ながら酷いことをしたと思った晃だった。
だが、これは自己防衛のためだ。仕方がない。それでも、さすがに……。
そう思い直した晃は深くため息を吐き、少女の方を向いた。
「まぁ、さすがにビッチではなさそうか。少し警戒を解いても大丈夫かもな」
そう言うと、荒地を駆け出した。
「はわわ、待ってください!!!」
「おっと、そうか。スピードにポイント振りすぎてたんだった!」
訳:あ、俺がずっとぼっちだったのをぼっちだったのを忘れてた。




