長かったです
「そ...そっか〜」
それしか言葉が出せなかった。まさか地球でも悩んでいたことが、異世界でも影響するなんて。
「すみません、先生」
「いや、佐々木さんが謝ることじゃないよ。ただ、まさかの理由すぎてね...」
「エストール王、あとは私が責任を持って説明しておきますので、謁見を終了してもよろしいでしょうか」
「あ、ああそうだな。雪代殿も疲れが取れていないようだからな」
生徒に気を使われている。普段であれば『大丈夫だよ』と言うのだが、今回は甘えさせてもらおう。
「こっちです先生」
私は佐々木さんに案内され、入ってきた時とは違う扉から廊下に出る。
「ありがとう、佐々木さん。助かったは」
「いえ、最初から話の重要な部分を聞いてくるところ、先生だなって感じました。あ、この部屋を使ってください」
案内された部屋は、なんと和室であった。出入口前の1畳程が靴を脱ぐスペースになっており、残りは畳が敷き詰められている。右手には囲炉裏、左手には布団が敷かれている。私の心の傷は、みるみる内に回復していく。
「佐々木さん、これって...」
「へへ、日本の和室が恋しくなっちゃって、無理言って作ってもらいました。この部屋は、この王都にいない組が帰って来た時のために用意した部屋ですので、遠慮なく使ってください。
「佐々木さんも変わらないわね。さすが学級委員長」
佐々木さんは、まとまりの無い6年2組においての数少ないまとも枠である。真面目で、他の生徒に注意できる胆力を持ち合わせている。普段は物静かであるが、怒ると般若のように豹変するという。しかし私自身は見たことがないので、悪ガキ達の流したデマであろう。
「ありがとうございます...ただ、今みんなはバラバラな状態なんです」
その言葉に私の心がざわつく
「詳しく教えて」
「順番に説明しますね」
すると目の前にホワイトボードが出現する。そこに「6年2組」「エストール王国」「魔王」という単語が現れる。
「まずですね、30年前に私達はここエストール王国に召喚され、『勇者一行様』として熱烈な歓迎を受けました。その際の王も、先ほどの王様だったんですけど、大陸全土が魔王率いる軍勢により危機に陥っている。どうか魔王を討伐して欲しいと言われました。ただ私達は小学生だったのでほとんどの生徒が状況についていけず、泣いたり、恐怖したりしていました」
6年生であるからある程度の考える力は育っているが、それでも見ず知らずの大人達に囲まれた状況をすぐに受けいられる生徒が少ないのは容易に想像できた。故に、その場にいることができなかったのに対して、胸が締め付けられる思いであった。
「そんな中動いたのが天野くんでした」
「天野くんが?」
天野満、授業中ノートに絵を描き続けている子。ノートに書いているだけならまだ可愛げがあるのだが、校舎の壁や床はもちろん、他人の持ち物にまで書いてしまう問題児だ。そんな彼が最初に動いたと言うのはすごく違和感であったため、思わず聞き返してしまった。
「実は天野くんは、異世界を題材にした作品が大好きみたいで、怖さよりも好奇心が勝ったみたいです」
異世界ものが好きとは、初めて聞く情報だ。彼の好奇心が、他の生徒を助けたということか。この先会う機会があったら褒めないとな、彼は嫌がるだろうけど。
「それで天野くんが矢面にたって最初は話をまとめ、その後を私が引き継ぐ形になりました。しかし2つの大きな問題がありました」
そこでホワイトボードの単語が消え、身長や体型の異なる2人のシルエットが映し出される。
「1つ目が転移者が複数人であったことです。これはエストール王国にとっても予想外のことで、元々500年前に魔王を討伐した勇者を召喚は1人でした。故に30人は予想外でした。2つ目に全員が一度に来たわけではなかったことです」
私は首を傾げる。
「先生と同じ現象が私達の間でもあったんです。最初にこちらに来た組は身長が低かったり、体型が細身のもの。後から来た組は身長が高く、堅いのいい人達でした。最初の組と最後の組で5年くらい空きがありました。結果何が起きたかというと、新たな人達が来る度に皆が地球のことを思い出してしまって、前に進めなくなってしまうんです」
「....ごめんなさい」
「そ、そんな先生のせいではないですよ。...ただ、その頃は1日が本当に長かったです」
佐々木さんの笑顔はどこかぎこちなかった。それだけで当時の辛さが伝わってくる。
「すみません、続けますね。その後私達は魔王討伐のための修行を重ね、15年前についに魔王を討伐しました。それからは、皆が各々の好きな生き方をしようと話し合いで決め別れました。なので今私が把握しているのは15人だけです。内、エストール王国にいるのは7人で...キャ!先生」
「ありがとう...本当に、ありがとう佐々木さん」
私は思わず佐々木さんを抱きしめた。最初こそ天野くんの行動であったが、その後は佐々木さんが皆を必死にまとめていてくれたのだろう。そんな佐々木さんには感謝しかなかった。
しばらくしてお互いが元の位置に戻ると、佐々木さんが乱れた服を直し終わってから話し始める。
「それで、王都には誰がいるの?」
「堂島くん、音無さん、片支那さんです...って、どうしたんです?・・ああ気持ちはわかります」
王都にるメンバーを聞いて私は思わず天を拝む。今の3人に佐々木さんを加えたメンバーが6年2組のまとも枠グループだからである。まあ、裏を返せば危険なグループが出歩いているという事ではあるのだが。
「3人とも王都で仕事についています。夜には会いにこれると思いますよ」
楽しみだ。まだ異世界転移の動揺に立ち直れていない中、問題のある生徒と会う可能性が低いというのは純正に嬉しい限りだ。
「では、私も残りの仕事を片付けてきますので失礼します」
「うん、忙しい中ありがとう」
佐々木さんが部屋を出ていくと、部屋の探索を始める。そして見つけてしまった、部屋の奥にあるお風呂を。
「はあ〜極楽、極楽」
大量の情報によってストレスを感じていた脳が解放されていく。....しかし、異世界転移、当然ではあるが知識としては知っていても、こう実際に当事者になると戸惑いばかりである。しかも今回は生徒達が、30年近くすでにこちらの世界で生きている状態だ。24歳の私に対して、1番若い生徒で37歳、あれ?全員人生の先輩になっている。佐々木さんは大人びた女性に成長しており若々しかったが、年齢的に言えば42歳である。そうだとしたら、私大分失礼だった?なんなら先生って名乗らない方がいい?
「ダメだ...佐々木さんに相談しよう」
私は風呂から上がると、用意されていた服に着替える。そうして夜が来るのを待とうと思った時、外から雄叫びが聞こえてくる。窓に近づき見ると、遠くまで城下町が広がっている。城下町はお城を中心にして広がっているようで、その内の一本の道路で大きな土煙が舞っている。よく見ると発生源は人であった。そしてその人物は王城に向けて走ってきている。いや、違う明らかこの部屋を目指していると、私の直感が告げている。急いで廊下に出ようと走り出すが、遅かった。
『ガッシャン」
窓ガラスを難なく突き破り、華麗に畳に着地したのは、肌を小麦色に焼き、細身ながらも全身が鍛えられている女性であり、背中にはハルバートを背負っている。そして彼女は言い放つ。
「お久しぶりです雪代先生!伊藤桜花です!」
「スポーツバカ女子組...」
私はつい口から本音が出てしまった。




