3-07 - いつもそうだろ? -
3-07 - いつもそうだろ? -
ざばばばば・・・。
「くそっ、目が痛ぇ!」
ざぁぁぁ・・・
俺は「レストラン・タダーノ」から道を挟んで向かいにある「トゥーリックの宿屋」の裏手で目を洗ってる。
この宿屋を経営してるのは俺の親父・・・つまりここは俺の家だ。
井戸から魔道具で汲み上げられた流水を顔に浴びせて目を開ける、まだ目の中がゴロゴロしてやがるが随分とマシになったぜ。
「畜生・・・」
とたとた・・・
後ろから誰かが来たようだ。
「お兄しゃん・・・」
「キャディか、兄ちゃん今忙しいからあとでな」
どうやら声をかけてきたのは妹のキャディのようだ。
ざばざば・・・
ごしごし・・・
「あのねー、窓からお外を見てたらね、お兄しゃんが泣きながらおじちゃんのとこから出てきたから・・・どうしたのかなってー」
「泣いてねぇ!、土が目に入ってな、今水で洗い流してる」
「そかー」
「そだぞー」
よし!、土が取れて痛くなくなったぜ。
どうやら妹は俺の事が心配で外まで様子を見に来てくれたようだ。
俺はキャディの頭を撫でて微笑んだ。
「わぁ、お兄しゃん、頭くしゃってしないでー」
「兄ちゃんの目、おかしくねぇか?」
俺は屈んでキャディに顔を近付けた。
「赤くなってりゅうー」
赤くなってるかぁ、どうりで凄ぇ痛かったわけだ、あいつ・・・。
俺は建物の間から通りの向こうに見える「レストラン・タダーノ」を見た。
今日は天気がいいから光の反射で白壁が眩しい、それに店の後ろには真っ青な海と空・・・俺の住んでるこの街は景色しか取り柄がねぇ退屈な田舎街だ。
・・・
俺の名前はトシロー、13歳、皆からはトシって呼ばれてる。
俺は今クソ野郎の卑劣な罠にハマって目に泥をかけられたところだ。
「泣いてるように見えたのかよ・・・最悪だぜ、誰か知ってる奴に見られてねぇだろうな」
俺には敵が多い、こんな性格だから友達も居ねぇ。
俺は自分で言うのもなんだが生意気なガキだ、憎まれ口を叩いて大人からは煙たがられ同世代の子供達は俺を遠巻きに見てるだけだ、年下の奴には嫌味を言って泣かし年上には喧嘩をふっかける・・・。
関わると碌な事が無い問題児・・・悪ガキとしてこの辺じゃぁ有名になった。
でもそれは年下の奴が妹のお菓子を取り上げて泣かしてるのを注意しただけだし、年上の奴らは街の建物に落書きしてたから止めようとしたら喧嘩になった。
・・・いつの間にか俺が落書きしたって事になってたがな!、畜生っ!。
そんなだから俺は問題によく巻き込まれる、街にある学校には最初の3年くらいしか行ってねぇし教師からも遠回しな言葉で来るなって言われた。
代わりに勉強は親父が家庭教師をつけてくれた、周りと上手くやれない俺の為に大金を払って・・・親父には感謝してるしいつか恩返しねぇとな。
俺の一族はこの街では少し肩身が狭い。
実は俺の爺さんの世代まではこのコルトの街と隣接する街5つ合わせて独立した国だった、隣の街には王城の跡もある。
国王は俺の爺さんだ、つまり国が潰れてなかったら俺は王子様ってわけだ、やめてくれよ冗談じゃねぇ、鳥肌が立つぜ!。
元の王国は国と言っていいか分かんねぇくらいの小さな国だったそうだ、主要な産業は漁業と農業、豊富な海産物をローゼリア王国に売って生活してた・・・やってる事は今も変わらねぇ。
ローゼリア王国がエテルナ大陸全土に同盟を呼びかけた時、最初に同盟に加わった国の1つだった、属国ともいうけどな・・・。
とは言っても独自の文化は尊重され主権はあったし差別もされてなかった、友好国、商売相手っていう関係だったらしい、国力は虫とドラゴンくらい差があったが当時の国王同士が友人だったようだ。
その国が何で潰れたかっていうと国王・・・うちの爺さんが兵を集めてローゼリアっていうかシェルダン領に侵攻した、親父が生まれてすぐの頃らしい、馬鹿な事をしたもんだぜ勝てるわけがないのにな。
誰かが爺さんに言ったんだと「ローゼリアがこの国を攻めようとしている、向こうの国王が兵を集めていてこの国の民は皆殺しになる」・・・もちろん大嘘だ、つまり爺さんは騙されたって訳だ。
向こうの国王にもその誰かさんが言ったそうだ、あの辺境の属国が兵を集めてる・・・侵攻する気だぞってな。
いくらなんでも2つの国の王様が簡単に騙され過ぎだろ!・・・って思うよな。
なんでも爺さんは旅の占い師だかに心酔してころっと騙されたようだがローゼリアは超大国だ、簡単には騙されない筈だった・・・親父が言うには向こうの大貴族に俺らを争わせたい勢力が居て、そいつらが巧妙に仕掛けたらしい。
これは親父の推測だが裏でギャラン大陸のデボネア帝国が絡んでたんじゃないかって言ってたな、あの帝国は確か2年くらい前えらい事になったようだが・・・。
そんな感じで兵は出したがそのままプチってやられた、当然だ、国力が違い過ぎるし軍なんてローゼリアの武器をそのまま輸入してたんだぜ、ほぼ無抵抗で降伏したんだと。
だから幸いにもこちらの死傷者は数人だった、皆殺しでも文句言えないのにローゼリアは優し過ぎるだろ。
国王の爺さんも捕まった・・・薬でも盛られてたのか言動がおかしかったと聞いている、だが騙されたってのは言ってたようだ、水晶の鑑定でも嘘じゃないって事が証明された。
じゃぁ誰が騙したんだって事になったが結局それは分からなかった。
だから親父達は死罪にならなかった、爺さんはいくらなんでも無罪放免じゃ済まないから向こうの王様の温情で・・・っていうか本人の強い希望で毒を煽って眠るように死んだそうだ。
普通なら一族郎党皆殺しになるところなのにな・・・。
もちろん生き残った王族や貴族は平民になる筈だった、だがそれじゃぁ路頭に迷う奴がたくさん出るって事でまた向こうの王様の温情で最低の地位だが爵位は残してくれた。
つまり親父達や俺は一応末端だがローゼリア王国の貴族って事になるな、騙されて国を潰しちまった馬鹿で哀れなお貴族様だ。
貴族籍は残されたが親父や伯父貴は国を潰した当事者の子孫だ、偉そうにできる訳がない。
親父が言うには目立つとまた担ぎ上げられて争いの火種になるから気をつけなきゃいけないらしい、だから爵位だけ持って平民に紛れて商売をやってる。
親父や伯父貴は人当たりが良くて人望があるから客商売もできてるが俺は最低の悪ガキだ、商売したところで客なんて来ねぇだろうよ、実家の宿は妹に任せて・・・良くてハンターくらいにしかなれねぇだろうな。
・・・
・・・
「お兄しゃん、どーして目に土が入って痛い痛いしてたの?」
叔父貴のレストランをじっと眺めてた俺を心配したのかキャディが声をかけてきた。
何でこんな事になったんだろうな、俺が間違ってたのかも・・・な。
「ダチを揶揄ってたら叩かれた・・・」
「だち?」
「なんでもねぇよ・・・全部俺が悪いんだ、いつもそうだろ?」
「お兄しゃん悪くないもん!、優しいの!」
わしゃわしゃ・・・
「こんなところに立ってても仕方ねぇ、中に入ろうぜ」
「やぁだぁー、また頭くしゃってしたー」
俺は妹の頭を乱暴に撫でて宿屋の裏口に向かって歩き出した。
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