3-04 - わるだくみ -
3-04 - わるだくみ -
「例の彼女の身を守る・・・常時発動の防御結界?だったかな、その魔道具はもう完成したのかね?」
趣味の悪い執務室の中で私と向き合っている男が尋ねる・・・相変わらず横柄な態度だ、気に入らないが私はこいつに雇われている身、感情を表に出さず答えた。
「王立魔法研究所の所長であるドック・フューチャが制作中であります、奴隷の首輪の技術を応用した腕輪になっており、それを嵌めた者の魔力量に比例した強度の防御結界を全身に発動させると聞いております」
「その魔道具の効果は?」
今説明したではないか!、馬鹿か?、馬鹿なのかこいつは・・・それとも人の話を聞かない人間なのだろうか、私は察しの悪い男にも理解できる言葉で説明を始めた。
「彼女の魔力量があまりにも膨大である為、推測になりますが・・・外部からの物理、魔法、毒、呪いの全てに対して効力を発揮、ドラゴンのブレスを浴びても1日は耐えられるかと・・・」
「・・・凄まじいな、そうなると彼女には誰も傷一つ付けられないという事になるね」
さっきからそう言っているだろう、それに一昨日私が送った書簡に同じ事が書いてあるぞ、お前は読んだのか?。
私はさりげなくソファから立ち上がり男の執務机の上に視線を移す・・・私の送った手紙と同じものが未開封で置いてあった!。
「・・・その通りでありますが、何か?」
「問題があると思わないかね?」
問題ありと報告書に書いてあるぞ・・・私は目の前の男に質問を返す。
「・・・何か問題でも?」
「もし、彼女が王国に牙を剥いた時、誰にも止められないだろう、国に対して脅威になる・・・とは思わないかね?」
私に言わせればデボネア帝国と共謀して王国を乗っ取ろうとしていたお前の方が脅威だと思うが。
「それは・・・」
「化け物には首輪を付けるべきだとは思わないかね?、そして鎖をこちら側で握る事が出来れば・・・」
「魔道具の腕輪は一度嵌めたら外せないそうです、これは奴隷の首輪の技術を応用している為のもので、装着者の魂と魔力に深く融合するので外れなくなると・・・」
「それはいいな、王家に歯向かった時に無力化・・・できれば殺せるような仕掛けを腕輪に仕込め、奴隷の首輪にはそれがあるだろう?、同じものでいい」
また面倒な事を・・・。
「ですが、ドック・フューチャが我々の命令に素直に従うか・・・」
「従わせろ、奴を脅してもいいし、金で抱え込んでもいいからやらせろ、それがあれば彼女を我々の奴隷にできる」
・・・
・・・
「では私はこれで・・・」
バタン・・・
こつこつ・・・
ギィ・・・
「報告は終わった、私はこれで失礼する」
男の執務室を出た私は隣室に控えている執事に声をかけた。
「こちらをお納めください」
どさ・・・じゃらっ・・・
執事が懐から革袋を取り出し私に手渡す・・・結構な重さだな。
「ありがとう、では、あのお方によろしく」
バタン・・・
こつこつ・・・
「いい小遣い稼ぎになった・・・か」
私の名前はターレ・パンダァ、ここローゼリア王国で宰相の側近をやっている、側近といっても主な役割は諜報活動や情報操作、汚れ仕事だが・・・。
元々は王都で掃除屋・・・情報屋をやっていたし今もそれが私の本業だ、宰相との付き合いはそれほど長くない、何度か依頼を受けているうちに有能で使える男だと認められたのだろう。
私としてもローゼリア王国の権力者に近付くのは仕事柄都合がいい、それに悪くない額の報酬を提示されたから側近として雇われてやったという訳だ。
別にあいつに対して義理や忠義は無いが金払いが良いから仕えている・・・それに奴はもうすぐ破滅するだろう、そしたら私は名前と顔を変えて別の仕事を探すまでだ。
「どうだった?」
あれから数日経ち私は再び悪趣味な執務室に呼び出された、こいつの横柄な態度は相変わらず腹立たしい。
「・・・ドック・フューチャと会い、最初は渋っておりましたが彼女が将来暴走した時の危険性を指摘して抑止機能を付けるという名目で了承させました・・・向こうの出した条件は大金貨100枚」
私とて高額な報酬で雇われている身だから仕事はきっちりこなしている、宰相の側近という立場を使えばドック・フューチャには簡単に会えた。
「想定の倍か・・・欲深いな、だが弟子を溺愛しているという噂だったが金の力には抗えなかったか、それで?こちらの条件は全て飲んだのだろうな?」
狂人と呼ばれている気難しい魔導士相手に苦労して交渉した私の成果に礼や労りの言葉も無しかよ・・・笑えるほど典型的なクズ上司だな。
思わずため息をついてしまったが奴は気付かない、早く結果を報告しろと急かされた。
「魔道具に奴隷の首輪と同様の機能を付与、魔力を腕輪装着者に流すと苦しみ始め更に流し続けると死亡します、但し魔力を流す人間は王家の血縁者のみ、且つ対となる魔道具の指輪を装着した人間に限定されます」
不満そうな顔だな、王家の血縁者という条件付きなのが気に入らないのか?、お前にも王家の血が入っていると聞いているぞ、何が不満なのだ?・・・私は更に説明を続けた。
「この仕様に関してはこちらがいくら説得しても譲りませんでした、更にこの件は王家以外への口外は厳禁、この条件を飲ませる時に大金貨20枚を上乗せされましたが・・・」
「彼が弟子可愛さにこの約束を破る可能性は?」
奴が私の言葉を遮った、おいおい、人の話は最後まで聞けよクズ野郎!。
「・・・ご承知のとおり彼は魔法研究の権威で現存する全ての攻撃魔法を熟知しています、加えてあの魔力量・・・力で脅すのなら騎士団全員連れて来いと言われましたので仕方なく金で言う事を聞かせました」
「うむ・・・なるほどな」
「彼も馬鹿ではありません、我々と敵対してまで弟子に義理立てする事はないでしょう、それに魔道具が完成した後にはこちらの魔道具師に動作を確認させるので偽装も不可能かと」
「指輪は複数作らせて今の王位継承権を持つ人間全員に配れ、彼女を好きに使う事が出来れば我が勢力にとって大きな武器となる、王女殿下と親友というのも都合がいい、彼女を人質にして殿下もこちらの勢力に付ける」
もう一度ドック・フューチャと交渉しろという事か・・・下手に彼を怒らせたら私の命が危ないのだ、今の報酬じゃ割に合わないぞ、どうにか断れないだろうか?。
「ですが・・・王家の血族は他にも多くいらっしゃいます、その連中を裏切ってまで彼女はこちらの勢力に付くでしょうか?」
「まぁ、その辺はこちらの駆け引きと手腕によるな、殺せない化け物を相手にするよりは遥かに楽だ、やりようもある」
まるで自分の手腕が優れているように聞こえるな・・・私はその「やりよう」の詳細を知りたいのだが!。
まぁいい・・・仕事はしたぞ、報酬さえ貰えれば後はどうなろうと私は構わない。
「そうですか・・・では私はこれで失礼致します」
「報酬は用意してある、持って帰るといい」
「・・・どうも」
「ふふっ・・・彼女は可愛い、私の好みだ、虐めてやりたい・・・私の配下になったら身体中を舐め回してやろう、どのような泣き声を聴かせてくれるのか今から楽しみだよ」
まだ全部聞こえてるぞ幼女趣味の変態野郎!・・・。
バタン・・・
こつこつ・・・
私は扉の外に立っている執事と向き合った、疲れた表情をしていたのだろうな・・・執事の生暖かい視線が私に向けられた。
「こちらをお納めください」
どさ・・・じゃらっ・・・
執事が懐から革袋を取り出し私に手渡す・・・なんてこった!、前回より軽いじゃないか!。
「・・・では、あのお方によろしく」
バタン・・・
こつこつ・・・
私は部屋の外に出て趣味の悪い調度品で溢れている屋敷の通路を歩く・・・疲れたな、早く帰って冷えたビールが飲みたい。
「だが、いい小遣い稼ぎにはなったか・・・」
それにしても奴は考えが足りない、はっきり言って馬鹿だろう・・・自信満々に言っていた「駆け引きと手腕」とやらを観客席から楽しませて貰うとしよう。
「彼女を奴隷にする・・・か」
「ふふっ・・・」
あまりにも馬鹿過ぎて、思わず笑ってしまったぞ。
時空転移魔法陣を使い歴史に干渉して腕輪を「付けない事」にもできる怪物を相手によく言えたものだね。
それにドック・フューチャ・・・彼は間違いなく彼女を超える化け物だ、怒らせて「私の国」が滅びないか心配だな・・・。
読んでいただきありがとうございます!。
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