2-11 - ただいま -
2-11 - ただいま -
こんにちは、拙者の名は田中太郎。
理世たんが亡くなって50日、今日はいよいよ生身の身体でここに戻って来る日・・・ちょっと緊張してきたでござるな。
あの日以来、ほとんど我が家の家族団欒の場と化している仏壇のあるこの座敷には妻と息子が同じように緊張した顔で座っているでござる。
「なぁダーリン、緊張してきたわ、あたしらしくないよな・・・」
「僕も、映像では毎日のように会ってたけど・・・」
「拙者もどんな顔をして会えばいいか分からないでござるよ、でも・・・いよいよでござるな」
目の前の魔法陣が明るく輝き中から人影が現れたでござる・・・拙者もう我慢できないでござるよ!。
「理世たん!」
ぐえ!
抱きしめようと飛びついたら・・・理世たんえらく筋肉質でござるな。
むきっ・・・
「のわー、何じゃこりゃぁ!」
拙者は叫んだでござる、抱き付いたのは理世たんじゃなくて両手両足を縛られたスキンヘッドゴリマッチョの全裸男でござった!。
「あー、ごめーん、今日は私まだ生身で転移してないんだよー、たまたま別の実験で借りてた奴隷の返却期限が明日までだから返す前に転移の実験に付き合ってもらってたの」
いつもの映像版理世たんがゴリマッチョの後ろから現れたでござる。
「お父さん何で男に抱き付いてんの?」
「理世たんかと思って間違えたでござる!」
「直接生身でそっち行くのはまだ怖くてね・・・ちょうど博士が奴隷借りてたから返す前に地球の食べ物を食べてもらって大丈夫かどうか確認してみたらどうかなーって」
「・・・」
「その人に何か食べさせてあげて、もう抵抗する気力も起きないくらい心を折ってるから暴れないと思う、もちろん私は折ってないよ奴隷レンタル商会の人が折ってあるって言ってたみたいだから」
息子が台所に置いてあったパン4個と唐揚げ、サラダとお茶を持ってきて縛られた手に渡すと・・・。
すごい勢いで食べてるし!・・・あ、泣いてるでござる、お腹空いてたのかな?・・・ちょっと可哀想でござるな。
「理世たん・・・この人は何をして奴隷になったのでござるかな?、っていうか男の人怖くないでござるか?」
「大丈夫!、いきなり触られたらお漏らしする自信あるけど遠隔で別の部屋に居るのを転移させたから私その奴隷には近付いてないのです!」
「・・・」
「それに寝てる聖女様を叩き起こして・・・じゃなかったお願いして浄化20回重ね掛けしてるから汚れてないでしょ、あと罪状は資料を見るからちょっと待って・・・」
聖女様を叩き起こしたでござるか!。
「今まで逃げ回って捕まらなかったけど余罪を調べてたら・・・嘘が分かる水晶使ってね、これやったか?あれはやったか?他には何もしてないか?、って聞いてたら余罪が8つあって全部有罪!」
「そんなものがあるのでござるか!」
「罪が1つだけなら刑務所みたいな所に入るんだけど、3回の猶予全部使い切ったからいきなり奴隷落ちだって」
「わぁ・・・」
「最初はお金目当てで宿屋を襲って家族全員惨殺、次は食堂で暴れて店主の首の骨折って殺してるね・・・3つ目は行商人の馬車を襲って、そこにたまたま乗り合わせてた女性や子供達を・・・」
「もういいでござる!、聞きたくないでござる!」
目の前のゴリマッチョは極悪人でござった!・・・隣で話を聞いていた息子と妻が拙者を置いて部屋から逃げようとしてるでござる!。
「全部食べたみたいだね・・・じゃぁ転移させて連れ戻すから、明日までお腹壊したり死んだりしてないの確認したら今度こそ生身でそっち行くねー」
そう言いながらゴリマッチョと娘が魔法陣から消えたでござる・・・凄く疲れたでござるな。
翌日のお昼過ぎ、また拙者達は座敷に座って理世たんを待っていたでござる。
拙者はもう迂闊に飛びつかないでござるよ、昨日のゴリマッチョの肌の感触がまだ手に残ってるでござるからな。
魔法陣が光って・・・仄かに甘い柑橘系のいい香りがするでござるな・・・。
「お父さん、ただいまぁ!」
娘が泣きながら拙者に抱き付いてきたでござる。
「ぐすっ・・・わーん!、懐かしいお家の匂いだぁ、やっとかえってこれたよぉ!」
拙者の胸に顔を埋めて娘が号泣してるでござる・・・思ったより小さくて軽い、これだと小学校6年生頃の理世たんかな・・・お帰り、理世たん。
「最初に何かしたい事はあるでござるかな?」
まだ泣き続ける理世たんの頭を優しく撫でながら聞いたでござる。
「うん、みんなにちゃんとご挨拶する・・・ちょっと顔を洗ってくるね・・・」
そう言って立ち上がり座敷を出て行こうとする理世たん・・・左足を引き摺って杖で身体を支えながら歩いているでござる、足が不自由なのは本当だったのでござるな・・・。
「・・・やっと帰ってきてくれた」
妻も泣いているでござる・・・。
「お姉ちゃんいい匂いした・・・」
息子が少し変態的な事を言っているでござるな。
「・・・というわけでっ!、田中理世、無事に帰ってまいりましたぁ!」
「わー、パチパチ」
まだ目は赤いものの娘が笑顔で拙者達に挨拶したでござる。
「またお家に帰って来られるなんて本当に信じられないよぉ!、こっちでは私が死んで50日?くらいしか経ってないけど私15年ぶりの我が家だからね!、頑張った私!、偉いぞ私っ!」
「・・・理世、こっちに来て体調はどうだ?」
妻が娘に聞いたでござる。
「特に向こうと変わりないかなぁ・・・」
自分の身体をペタペタ触って確認した後、右手を上に掲げ何か呟くと小さな魔法陣が現れたでござる。
「向こうと違って空気の中の魔素が少ないから魔法を使う時に自分の魔力が凄く減るね・・・でも私は魔力が膨大にあるから大丈夫だけど向こうの人がこっちに来たら魔法使えないんじゃないかなぁ、大きな魔法を使うなら宇宙船の時みたいに私は向こうに居て魔法陣だけ転移させてって方法になるかも?」
「いやこっちでも魔法使えるんかい!」
拙者は娘にツッコミを入れたでござる。
「先に私の身体の事をみんなに知ってもらいたいから、ちょっと気持ち悪いだろうけど見て欲しい」
娘が眼帯を外したでござる、青に近い灰色の右目に対して眼帯に隠れていた方の左目は赤黒く濁っていて額から顎に向かって大きな傷があるでござるな・・・とても痛そうでござる。
「呪いの刃で斬られたら傷が刺青みたいに赤黒く残るの、眼球も傷ついて呪いが入ったから赤黒くなってるでしょ、左目はほとんど見えない」
次に理世たんが左の手袋と左足の靴下を脱いだ、左足には十箇所以上も傷があるでござる!。
「一番ひどいのは左足、腱や神経がズタズタになって膝から下は感覚が無いの、今は杖に頼ってなら普通の速さで歩けるよ・・・最後に・・・」
背中を向けてローブとブラウスを脱いだでござる、リゼたんの白い背中には右肩から左脇腹にかけて斜めに大きな傷が!。
「これが最初に切られたとこ、一番傷が深いかなぁ」
「こっちの病院でどうにかできないでござるかな?」
脱いだ服を着ながら娘が拙者の質問に答えたでござる。
「どうだろうねー、下手に病院に行って血やDNA調べられたらマズいよね、それより一番問題なのは私死んでるから保険証が無い!、国籍もないし戸籍もない!、何もない!、お父さんどうしよう!」
「それは考えてなかった・・・困ったでござるな」
「下手に外を歩いて騒ぎになっても嫌だからしばらくはこの家を出ないと思う、私そもそもお家に引きこもってるの大好きだし!、ネットがあれば何日だってこもってられるよ!」
やはり娘は生まれ変わっても生前の理世たんのままでござるな。
「今日からお部屋にこもって「艦⚪︎れ」や「⚪︎神」やるぞー・・・あ、そうだ、これあげる」
どさっ!
「何でござるかな?」
娘が重そうな革袋を2つ、腰のポーチから出したでござる。
「前に金貨いっぱいあげるって言ったよね、小金貨100枚くらい持ってきたから・・・それと向こうのダイヤ的なやつ、たぶんこれ1つで王都の一等地にある家が買えるよー」
袋から取り出すと光り輝く五百円硬貨くらいの金貨が沢山入ってござった!、もう一方の袋には綺麗に研磨された巨大なダイヤみたいなのが5個・・・。
「これ地球の金と同じみたいだからとりあえず持ってて、何なら売ってもいいし・・・私って向こうでは大金持ちだけど日本円全然持ってないからここに居候する滞在費的なやつ?」
「理世たん名義の銀行口座がまだあるし、保険もあったから全然大丈夫でござるよ」
「・・・さて、日も傾いてきたしあたしは夕食の準備してくる、理世も食べるだろ」
「わーい!、15年ぶりのお母さんのご飯っ!」
そう言って喜ぶ娘に背を向けて妻が座敷を出て行った。
・・・そして娘の帰還から更に10日が過ぎたでござる。
魔法陣から生身の理世たんが出てきてずっとこの家に居る、自分の部屋だったり仏壇のある座敷だったり・・・、向こうでお仕事は無いのでござろうか?。
「理世たん」
「何?、お父さん」
拙者は座敷でテレビを見ている娘に尋ねた。
「毎日ここに居て向こうのご両親は心配してないでござるかな?」
「毎日は来てないよ」
「え?」
「こっちに来てるの今は5日に1回くらいかなぁ、私向こうでお仕事あるし」
「でも昨日も居たでござる」
もちろん拙者としては毎日居てくれた方が嬉しいのでござるが・・・。
「日本で1日過ごした翌日向こうに転移するの、時間は日本に転移した直後ね、そうすると向こうでは私が一瞬消えてまた現れたみたいに見えるの」
言っている意味がよく分からないでござる。
「それから向こうで5日暮らすでしょ、次に日本に転移するのは前に転移して帰った直後だから・・・このお家でずーっと目を離さないで私を見てないと確かに帰ってないように見えるかもね」
「・・・」
「毎日この座敷や私のお部屋でゴロゴロしてるように見えても次の日の私は向こうで5日お仕事して泥のように疲れてる状態なの!」
拙者が首を傾げているのを見た娘が図を書いて説明してくれた、おかげで何とか理解できたでござるよ。
「今は日本で転移魔法陣の検証や実験の事もあるし、5日おきに日本へ帰ってきてるけど生活が落ち着いたら1年・・・向こうは1年が400日あるから年に4回、100日に1回くらいの頻度で帰ってこようかなーって思ってるの」
「もう少し頻繁に帰ってきてもいいでござるよ、理世たんと一緒に家族皆でお出かけもしたいでござるからな」
「時空転移魔法陣の仕様で一度戻った過去より前には戻れないから頻繁に日本で生活してるとあと50年もしないうちにみんな死んじゃうよね」
なるほど・・・そういう事でござったか。
「たとえば100日に1回戻って日本で1日過ごしたとするでしょ、そんな感じで行ったり来たりを続けると日本で40日過ごしたら向こうでは4000日、つまり10年経ってる事になるね」
「じゅ・・・10年でござるか!」
「今私は15歳だけど、その間隔で日本に帰ってたら1ヶ月ちょっと経つと向こうでの年齢は25歳だね、そんな感じで計算して私の年齢が900歳になってもお父さん達に会えるようにって思ってるんだぁ」
「900歳・・・」
まさにエルフでござるな!。
「それに安易に時空転移魔法陣を使うと歴史が変わったりしてマズいから私は向こうではまだ時空転移魔法陣使った事ないよ、博士は王国が建国される前くらいの所にちょくちょく行ってるみたいだけど・・・」
「理世たんのお友達・・・リィンちゃんでござったか、その子が襲われる前に行って理世たんが怪我しないようにはできないのでござるか?」
「リィンちゃんにも私が怪我しないように歴史を変えてくれって頼まれたんだよねー、でもあの時は私がたまたま盾になってリィンちゃんが無事だっただけだし、変にやり直そうとして何かの間違いで少しでもリィンちゃんが斬られたら死んじゃうから怖くてできないよ」
「・・・そうでござるか、理世たんも色々考えているでござるな」
拙者も会社からはまだ休んでろって言われてるでござるが・・・マスコミや周りの目が落ち着いたら会社に出て日常を取り戻すのもいいかもしれないでござるな。
読んでいただきありがとうございます!。
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