表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神功皇后 ― 海を越える巫女王 ―  作者: 筑前由紀
第二章  西国動乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/26

第25話|塵輪襲来

筑紫の国々が手を結ぶと、足仲彦天皇たらしなかつひこのすめらみことは間を置かず海の守りを固めました。


烏賊津使主いかつおみ

「はっ」

「対馬へ渡れ」

「承知いたしました」

烏賊は息子の真根子まねこを伴い、対馬の守りを任されます。


十城別王とおきわけのみこ

「ここに」

「壱岐へ向かえ」

天皇の異母弟、十城別王も力強く頷きました。


こうして壱岐・対馬には見張りが置かれ、岬ごとに兵が配置されます。


海を見張る者。

島を守る者。

岬守、島守と呼ばれる者たちであります。


さらに狼煙台のろしだいも整えられました。

敵船を見つけ次第、煙を上げる。

煙は煙を呼び、島から島へ。

やがて穴門、筑紫へ。

誰より早く敵襲を知らせるためでした。


対馬と壱岐は、倭国の最前線。

賊が現れれば、まずこの二つの島が敵を食い止める。


それが、新たな海の守りであったのです。




それから幾日もの間、海は静かなままでした。

狼煙が上がることもありません。


「賊も恐れをなして近寄ってこないのかもしれませんね」

家臣の一人が言いました。

兵たちに、少しずつ緩んだ空気が広がっていました。




――七月七日のことでした。


その日、宮から海を眺めていた息長帯姫おきながたらしひめは、不意に胸を押さえます。

冷たいものが背筋を走りました。

風が変わる。

海がざわめく。

胸の奥で、神が何かを告げています。


「……来る」


その声に、天皇が振り返りました。

「帯姫」

帯姫は海を見つめたまま、小さく呟きます。

「賊が来ます」


家臣たちは顔を見合わせました。

「しかし……」


武内宿禰が眉をひそめます。

「壱岐からも対馬からも、狼煙は上がっておりませぬ」

「狼煙を上げる間もなく、やられたのでしょうか」

兵の一人が言いました。


しかし帯姫は静かに首を横へ振ります。

「いいえ」

その瞳は、遥か西の海を見据えていました。

「……壱岐対馬を通っておりません」

誰も言葉を返せませんでした。

家臣たちの多くは半信半疑でした。


ですが。

足仲彦天皇だけは、帯姫の言葉を疑われませんでした。


「皆、海を警戒せよ!」


その一声で宮中が動き始めます。

兵は鎧をまとい、武器を手に取り、軍船の準備が始まりました。


その頃。

見張りの兵が、海を指差します。

「黒い船です!」


水平線の彼方。

黒い帆を掲げた船団が、ゆっくりと姿を現しました。


一隻。

二隻。

十……。

二十……。

その数は、夜の海へ溶け込みながら、なお増え続けていきます。


一羽の鳶が鋭く鳴き、逃げるように陸へ飛び去りました。

潮風が急に冷たくなります。

兵たちは思わず身震いしました。


黒い船団の先頭。

ひときわ大きな船の舳先に、一人の大男が立っております。

鬼の角を思わせる兜。

全身を覆う黒い外套。

風を受けて翻るその姿は、まるで巨大な翼を持つ鬼のようでした。

誰も名を知りません。

ただ、その姿を見ただけで兵たちの足はすくみ、戦意は揺らぎ始めます。


その時でした。

「怯むな!」

宮門の前へ、一人の武人が進み出ます。

阿部高麿。

その隣には弟、助麿。


「豊浦宮を落とすわけにはいかない!」

兄弟は互いに頷き、槍を高く掲げました。

「進め! 舟を出せ!」


号令とともに皇軍の軍船が一斉に沖へ漕ぎ出します。

黒船もまた速度を上げ、穴門の海で激突しました。

舟と舟がぶつかり合い、鉤縄が投げられ、兵たちは敵船へ飛び移ります。


怒号。

悲鳴。

鉄と鉄が激しくぶつかり合う音。

静かだった海は、一瞬にして修羅の海となりました。




この日、海を越えて現れた賊は、後の世に「塵輪じんりん」と呼ばれることになります。

その名は、恐怖とともに、永く人々の記憶に刻まれるのでした。

次回、第26話「鬼を討つ」。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ