第24話|海を守る者たち
豊浦宮には、筑紫各地の首長たちが次々と集まっておりました。
対馬。
壱岐。
末盧。
伊覩。
そして奴。
皆、対馬と壱岐が賊に襲われたとの知らせを受け、険しい表情をしております。
武内宿禰は広間を見回しました。
「奴国の長老、磯良殿のお姿が見えませぬな」
奴国の若き海人、名草が一歩前へ進み出ます。
「磯良様は、『年寄りは若い者の決めることに口を出すものではない』と申しておりました」
広間に小さな笑みが広がりました。
名草は真っすぐ足仲彦天皇を見つめます。
「ですが、この海を守るためなら、奴国も力を尽くします」
足仲彦天皇は満足そうに頷きました。
「その言葉だけで十分だ」
奴と大和。
長い年月の中で、時に手を取り、時に距離を置いてきた両者でした。
古き海人たちの誇りは、今なお失われてはおりません。
それでも名草は、この場へ来たのです。
それだけ今回の事態は、奴国にとっても見過ごせぬものでした。
武内宿禰が口を開きます。
「ところで、賊が新羅の者であったというのは誠か」
対馬の首長が頷きました。
「はい。島には百済より渡って来た者も暮らしております。その者たちが申すには、賊の話す言葉には新羅の訛りがあったそうです」
広間がざわめきます。
すると功満王が静かに一歩進み出ました。
「……それならば、新羅の者であった可能性は十分あります」
皆の視線が功満王へ集まります。
「現在、半島では高句麗の勢いが増しております。私は百済で、その圧力を目の当たりにしてまいりました」
功満王はゆっくりと言葉を続けました。
「新羅は高句麗に従うことで国を保っております。もし高句麗が海へ勢力を広げようとしているのであれば、新羅の者が動いていたとしても不思議ではありません」
重い沈黙が流れました。
末盧の首長が口を開きます。
「対馬が破られれば、次は壱岐」
伊覩の首長も頷きました。
「壱岐の次は末盧」
名草が静かに続けます。
「そして伊覩、奴……。海に面した国々は、次々と賊に狙われることになるでしょう」
広間の空気が張り詰めました。
足仲彦天皇は一同を見渡しました。
「対馬も壱岐も、一国だけで守るものではない。海に生きる者すべてで、この海を守る」
その言葉に、名草が深く頷きます。
「奴国も船を出しましょう」
「末盧も」
「伊覩も」
次々と賛同の声が上がりました。
こうして筑紫の国々は、それぞれの誇りを胸に、一つの目的のため手を結ぶこととなったのです。
次回、第25話「塵輪襲来」では、
海の守りを固めた倭国でしたが、七月七日、帯姫の予知どおり、後に「塵輪」と呼ばれる賊が穴門へ襲来します。




