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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第八部:覇道の蹄音

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第九部 第9章:戦闘の行方

1. ゲルマニア統一戦争の結末と軍事的統計


黒鉄期1735年秋、後に「ゲルマニア統一戦争」と呼称される決戦は終結を見た。この戦いは、旧来の傭兵支配体制が物理的に崩壊したことから「傭兵群団の黄昏」、あるいはその極めて合理的な殲滅戦術から「盤上の咆哮」と戦術史家たちによって名付けられている。


戦闘は早朝の開戦から黄昏時の終結までという、一万規模の軍勢が衝突した野戦としては稀有な短期間で決着した。ミューラー公国軍(後のゲルマニア公国軍)と同盟軍計2450名に対し、ガウス自治領および四つの傭兵群団から成る連合軍13000名が激突したが、その損害比は極めて一方的なものであった。


ゲルマニア公国軍側(統一軍):総数2450名に対し、死者248名、重傷者209名。損害率は約2割に留まった。


傭兵群団側(連合軍):総数13000名に対し、死者9821名、重傷者2173名。損害率は9割を超え、事実上の全滅と記録されている。


この戦果は、副団長シンが立案した攻城兵器の投入と機動包囲網による「殲滅戦術」の有効性を証明した一方で、後に「戦争という名の虐殺」と評されるほどの凄惨な光景を平原に残した。


2. ゲルマニア公国の誕生と国家戦略の転換


勝利を収めたアレク大公アレク・フォン・ミューラーは、即座にゲルマニアの統一を宣言し、ゲルマニア公国の初代君主アレク一世として即位した。


アレク大公は国家の安定を最優先し、それまでゲルマニアを裏から支配していた傭兵制度を「国家の賊」と定義して徹底的な排除に乗り出した。公国は強力な正規軍の育成を柱とする軍国主義的体制へと移行し、これは約百年後の「ゲルマニア帝国」樹立と、西方諸国全域を揺るがす「十年戦争」へと繋がる軍事的胎動の起点となった。


事後処理の開始から五ヶ月目には、中央平原の何もない土地に新首都ベルグラードの建設が開始された。大公宮を中心とした同心円状の都市計画により、完成までに三年の歳月を要したこの新都市は、四方10kmに及ぶ強固な外壁を備え、旧帝都に代わる政治・経済の中心地となった。


3. 残存傭兵の処理と赤い鷹歩兵隊の結成


アレク大公は当初、各地に点在する残存傭兵団の完全討伐を標榜したが、戦闘力の著しい低下を懸念した軍部(特にシンやツェンの示唆)を受け、降伏者の正規軍編入という妥協案を選択した。


統一戦争で生き残った約1000名の傭兵に加え、各地で降伏した者たちを合わせた約10000名の元傭兵が正規軍に組み込まれた。この巨大な元傭兵集団を統率する重責は、アレク大公に下った赤い鷹傭兵群団(シーゲル群団長)が担うこととなり、彼らは「赤い鷹歩兵隊」として公国軍の主力歩兵の一角を形成した。


4. 緋色の傭兵団との同盟解消と条件


決戦直後、アレク大公とシンは、同盟の解消と戦後処理に関する以下の五項目の取り決めを交わした。


1.犯罪性の精査:主体的に犯罪に関与していない元傭兵の罪は問わない。

2.優先編入:緋色の傭兵団を脱退する者は、優先的に公国政府または軍へ編入させる。

3.正規軍化:赤い鷹傭兵群団を「赤い鷹歩兵隊」として公国軍へ編入する。

4.報奨金:緋色の傭兵団に対し、1200万Gの報奨金を支払う。

5.国外退去:同団に属する者は二ヶ月以内にゲルマニア国外へ退去する。


アレク大公は、シンが損害を2割に抑え、傭兵を使い潰すという自身の「統治の合理」を書き換えてしまったことを危険視した。シンを「自らの意志で盤面をひっくり返す不確定要素」と評価したアレクは、最大級の敬意を持って、彼らの追放を決定したのである。


5. 緋色の傭兵団の最終編成と主要人物の去就


最終的に、ガーブおよびシンに付き従いゲルマニアを離れる者は150名弱となった。その内訳は以下の通りである。


幹部:団長ガーブ、副団長シン、副団長オットー。

実戦部隊:作戦部1名、弓隊20名、狩人部隊16名、歩兵部隊40名、遊撃隊3名、斥候・特務隊20名。

支援部隊:工兵20名、兵站・交渉・鍛冶・調合・給食隊計28名、訓練部隊8名。


主要人物および各部隊の去就は以下の通り記録されている。


ツェン:アレク大公の直接勧誘に応じ、公国軍参謀(叙爵後は参謀本部長・子爵)に就任。

遊撃隊:トライデン、ゼーヴが戦死。ツヴァイルは重傷のため脱退、ゼクスとアハトは公国正規軍への加入を選択。アインツ、フィーア、フェンが団に残留。

支援組:壱、弐、肆はオットーを支えるため団に残留。参は部下と共に離脱し、消息不明。ゲルド(鍛冶)とエマ(給食)は数名の弟子・隊員と共に残留。

マルコ:訓練部隊を率いていたが、シンの判断により、故郷の村を再建させるべく帰郷を命じられた。


6. 新政府の体制と教育機関の設立


アレク一世大公の下、公国政府と軍は以下のように組織された。


政府閣僚:内務大臣ブラウンシュタイン侯爵、外務大臣ヴィットマン侯爵、軍務大臣アドルフィーネ伯爵、参謀本部長ツェン子爵。


軍事組織:アレク大将、アドルフィーネ少将(黒狼騎士団・公国騎士団)、第一歩兵団(旧鉄鋼兵)、第二歩兵団(旧赤い鷹)。


特筆すべきは、アレク大公が人材育成を最重要課題に据えたことである。緋色の傭兵団が実施していた孤児教育を参考に、初等教育を担う教練所が各地に設置されたほか、高等教育機関として商務学校、一般兵養成軍学校、軍大学、経世大学(官吏養成)が創設された。


公的記録にはこれらは大公の独創と記されているが、側近ブラウンシュタイン侯爵の日記によれば、これらは追放された「ある人物シン」からの強い示唆に基づいたものであると、大公自身が後に苦渋と敬意を滲ませて語ったという。 (ゲルマニア帝国内務大臣、ヴィットマン外務大臣の忘備録より)


黒鉄期1735年冬、緋色の傭兵団は報奨金を手に、宿敵オルレアン伯爵が待つフランク王国への帰路についた。彼らは、一つの国家の誕生という巨大な爪痕を残して幕を閉じたのである。


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本稿は、提供された史実資料および記録に基づき、黒鉄期1735年秋に発生した「ゲルマニア統一戦争」の終結、およびその後の国家再編と主要勢力の去就について客観的な視点から、黒鉄期1772年帝国創立10周年記念事業としてゲルマニア帝国修史局が「帝国史・前史」としてまとめたものからの抜粋である。



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