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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第八部:覇道の蹄音

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第八部 第5章:赤い鷹の合流と「慈悲なき統一」の行軍

アレク公主が残した「これから増える。どう扱うか考えておくことだ」という不吉な予言は、あまりに早く、そして巨大な形となって現実のものとなった。


その日、旧帝都の拠点に現れたのは、かつてゲルマニア傭兵界でその名を轟かせた「赤の烈風傭兵群団」の中核、「赤い鷹傭兵群団」の一行だった。 率いるのは、四十代の筋骨逞しい男、シーゲル。彼はアレク公主の元へ直接赴き、「公主の掲げる義に感じた」として助力を申し出たのだという。だが、アレクの回答は冷淡なものだった。「『緋色の傭兵団』の下で働くというのなら、受け入れよう」と。


赤い鷹傭兵群団は、四つの傭兵団で構成された、戦闘員六百五十、支援員百五十、計八百名という大所帯だった。 「……アレク殿下も、大概なことをしてくれますね」 俺は思わず頭を抱えた。俺たちの構成員の二倍以上の規模、しかもゲルマニア屈指の群団を、たかだか三百人程度の俺たちに「束ねろ」というのだ。これは同盟者としての試練か、あるいは俺たちの力を使い潰すための計算か。


軍議の場には、団長のガーブ、シン、オットーさん、ハンス、そして作戦部のツェンが並んだ。対する赤い鷹側は、群団長のシーゲルと四人の分団長。 シーゲルは俺に、アレク公主からの封書を一通手渡した。中を改めると、そこにはただ一言、 『智で従わせろ』 とだけ記されていた。


読み終えた俺に、十八の鋭い視線が注がれる。俺がその書状をツェンに回すと、彼は不敵な笑みを浮かべ、全員に聞こえるように言い放った。 「……つまり、『この猪突猛進な筋肉集団を、知恵で飼い慣らせ』とのことです」 四人の分団長の顔色が変わった。抜剣せんばかりの殺気が漲るが、シーゲルが笑って彼らを制した。 「その通りだ。俺たちには知恵がない。ただ戦場を用意され、我武者羅に突っ込むことしか教わってこなかった。だが……、その生き方では立ち行かなくなってきたのだ」


シーゲルの顔から笑みが消え、苦渋に満ちた真顔になる。 「特にガウス自治領の商人どもには、いいように扱われた。俺たちは戦うしか能がない。だからこそ、お前に団を託したい。俺たちが真に輝ける『戦場』を用意してくれ」


俺は「赤い鷹」の特性を脳内で演算した。彼らの強みは、他の群団を圧倒する爆発的な突進力だ。だが、それは弱みでもあった。ゲルマニアの戦争は、傭兵が戦場をコントロールし、政治的な利害を調整する「道具」として機能する。しかし、赤い鷹の乾坤一擲の攻撃力は、しばしば相手を「全滅」させてしまう。政治的な駆け引きを台無しにする彼らは、いつしか戦場から遠ざけられ、かつて千八百名いた戦闘員は六百五十名まで激減していたのだ。


「シーゲル団長、一つ聞きたい。……あんたらは、死に場所を求めているのですか?」 俺の問いに、シーゲルは静かに答えた。 「……応、と言いたいところだが、死にたいわけではない。ただ、生き残るために真摯に戦いと向き合いたい。あのひりつく感覚、生きているという実感を味わい続けたいのだ」


俺は決断した。 「分かりました。最も危険な戦場で、あんたらを使いましょう。……ガーブ、それでいいか」 「シーゲルさん、よろしく!」 ガーブが右手を差し出すと、シーゲルはその巨大な掌でがしっと握り返した。


________________________________________


翌日から、「赤い鷹」との合同訓練と再編が始まった。 赤い鷹の戦闘員六百五十名は、シーゲルと四人の分団長を長とする、百三十人ずつの五つの分団に再編成された。 同時に、緋色の既存部隊も増強された。


ヤミル歩兵部隊: 訓練部隊(マルコ隊)を卒業した三十名が加わり、百名に。

クリス弓隊: 二十名が加わり、六十名に。

斥候・特務・兵站: 赤い鷹の支援員から計七十名を補充。

新設・工兵部隊: ノインの設計思想を実現するため、新たに八十名の工兵隊を組織。


これにより、緋色の傭兵団は総員一千二百名弱、戦闘員八百名超という、ゲルマニアの勢力図を塗り替える可能性を持てる大規模戦闘集団へと進化した。 赤い鷹合流の噂は、食い詰め者の野良傭兵や弱小団を惹きつけたが、それらはすべてマルコの教導隊に放り込んだ。半分は訓練の過酷さに逃げ出したが、残った者たちがいつか「内臓」となってくれるだろう。


急激な規模拡大に、オットーさんは「金が、金が……!」と毎日算盤を弾いて嘆いていたが、アレク公主から「押し付けた詫び代」として莫大な軍資金が提供され、ひとまずの急場は凌ぐことができた。


________________________________________


アレク公主の統一宣言から二ヶ月。 ミューラー公国軍はついに動いた。南部から西部に向けて進発し、中央平原南西部からフランク王国国境沿いに並ぶ十一の領主の平定を開始した。騎馬の機動力を活かした電撃戦である。 そして俺たちには、ゲルマニア東部の平定という任務が下された。軍監として、黒狼騎士団から三十名の監視役が同行することになった。


標的は、中央平原東部に隣接する三つの小領主、森林地帯の一個領主、そして山岳地帯の強敵、ヴィットマン子爵である。 俺たちは、温めてきた全戦力を動員し、進軍を開始した。


中央平原東部の三領主との戦いは、拍子抜けするほど一方的に終わった。三領主が連合して当たってきたが、俺たちが一撃を見舞うと、敵の傭兵たちはあっさりと逃げ出した。彼らは「政治的なポーズ」として一度だけ戦い、負けたという既成事実を作って帰順したかっただけなのだ。 戦後、三領主が卑屈な笑みを浮かべて領有権を差し出してきた姿に、シーゲルは「戦いを何だと思ってやがる!」と激高した。


俺たちは彼らの処遇を黒狼の軍監たちに預け、次へ向かった。 後で知ったことだが、軍監たちは三領主すべての首を刎ねたという。 「膝を屈するなら最初から屈せよ。我らが主に、駆け引きなどという不純物は不要だ」 アレク公主の冷徹な言葉が、そこにはあった。


森林地帯の領主は、弓兵二百を擁して頑強な防衛線を敷いた。だが、ハンスの斥候隊が見つけ出した間道を通り、赤い鷹の二分団が背後から急襲。挟撃によって敵は全滅した。領主は城に火を放ち、自決した。 残る山岳地帯の一領主は、恐れをなしてヴィットマン子爵領へと逃げ込んだ。


ここで俺たちは一度足を止めた。 アレク公主の進軍状況は、ハンスの情報網によって逐次もたらされていた。公国の黒狼騎馬団は敵の防衛線を文字通り「踏み潰し」、十一の領主のうち二つを帰順させ、六つを討ち取るという驚異的な速度で北上していた。


アレク公主軍が西部を蹂躙し、残り三領主という地点まで迫る中――。 俺たちは、ゲルマニア屈指の精鋭「鉄鋼兵」四百を擁するヴィットマン子爵領の前で、一歩も動けない膠着状態に陥っていた。 険峻な山岳を背負った、沈黙する巨龍。その牙をどう抜くか。俺は盤面を見つめ、次なる「智」を絞り始めた。



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