第八部 第2章:廃都の軍制――「人間の体」をなす有機体
茶色の蛇傭兵団との「宣戦布告」から半年。旧帝都という廃墟の心臓部で、俺たち「緋色の傭兵団」は、かつての六人の敗残兵からは想像もつかない巨大な「組織」へと変貌を遂げていた。現在の団員数と編成は以下の通りだ。
【緋色の傭兵団:組織図】
団長: ガーブ(ガーベラ)
副団長: シン(作戦・軍事)、オットー(兵站・交渉・資金管理)
作戦部: 隊長:シン / 隊員:ノイン、ツェン
弓隊(中距離戦闘): 隊長:クリス / 隊員:40名
狩人部隊(弓・騎馬): 隊長:イエーガー / 隊員:25名
歩兵部隊(近接戦闘): 隊長:ヤミル / 隊員:80名
(内訳:重装歩兵10、長槍歩兵20、軽装歩兵50)
斥候・特務隊(目耳): 隊長:ハンス / 隊員:30名
遊撃隊(最精鋭): 隊長:ガーブ / 隊員:8名
兵站・交渉・資金管理: 隊長:オットー / 隊員:18名
給食・調達隊: 隊長:エマ / 隊員:32名
訓練・教導部隊: 隊長:マルコ / 隊員:80名
(内訳:孤児30名、途中加入組50名)
鍛冶・調合部隊: 隊長:ゲルド / 隊員:12名
総員約340名。 実働戦闘部隊は現時点で160名だが、マルコがシゴいている途中加入組が仕上がれば、200名を超える「中級規模」の傭兵団としてゲルマニアの勢力図に食い込むことになる。
俺の組織論は「人間の体」の比喩に基づいている。
「直接戦闘部隊」は獲物を仕留める手足。「斥候部隊」は進むべき路を示す眼と耳。これがなければ、いかに強力な暴力も無闇に振り回されるだけの死体に過ぎない。そして「兵站や後方支援」は栄養を運び体力を維持する腹や内臓だ。これがない組織は衰弱し、自壊する。最後は「作戦部」、すなわち勝利への道筋を描く頭脳だ。このすべてが揃って初めて、傭兵団という一つの生命体は動き出す。
特に増強に力を入れたのは、俺が最重要視する「目と耳」――斥候・特務隊だ。 ハンスは旧帝都の裏社会に潜り込んでいたチンピラや、加入希望としてもぐり込んできた不審な連中を見つけては、どこか奥まった場所へ連れ込み、こんこんと「勧誘」したらしい。戻ってきた数と加入した数が合わない理由を尋ねると、ハンスは「実力のない屑は不要」と冷たく切り捨てた。加入した連中に面談すると、どいつもこいつも「ボスのためなら死ねる。絶対服従!」と怯えながら繰り返すのみだ。……ハンス、お前、暗闇で一体何をしたんだ?
遊撃隊は、ガーブの狂犬ぶりに惹かれたか、あるいは運悪く目をつけられたか、新たに四名の猛者が加わった。フェン、ゼクス、ゼーヴ、アハトの四人だ。彼らは身の程知らずにもガーブに挑戦し、案の定、半殺しにされた。その後、ガーブが血だらけの彼らを指差して「こいつら欲しい。くれ」と言い出した時には、団内に「ついにガーブが男を食い殺すつもりか」と戦慄が走ったが、単に部下にしたいという意味だったので全員胸をなでおろした。
新たに設立された鍛冶・調合部隊。その隊長、ゲルドというおっさんの登場は劇的だった。 ある朝、拠点の門の前で轟音のような鼾をかいて寝ている大男がいた。見張りの八名は、なんと彼にのされて仲良く添い寝をさせられていたのだ。 話を聞けば、南西の領主の元を飛び出してきた一流の職人だという。俺たちの噂を聞き、面白がってやってきた彼は、挨拶もそこそこに「武器を見せろ」と喚き散らした。ガーブの大刀や俺の双刃を一瞥するなり、「手入れがなっておらん! 儂が見本を見せてやる! すぐに火床を造れ!」と逆ギレしてきたのだ。 十日かけて完成した工房に三日間籠もり、彼は俺たちの獲物を鍛え直した。ガーブはその仕上がりに感激し、「おっちゃん、大好き!」と抱きついた。無骨な職人の顔が火床の炎よりも真っ赤になったのを見て、俺は新しい「内臓」の獲得を確信した。
最後に、俺の右腕となる作戦部だ。 俺が不在でも団を動かせる頭脳を求め、ハンスが見つけてきたのがノインだった。 彼は一軒の廃屋に引きこもり、奇妙な道具の設計図とがらくたの山に囲まれて暮らしていた。俺が拾い上げた一枚の羊皮紙――それは、組み立て式の「攻城兵器」の緻密な設計図だった。 ノインは「効率」と「論理」の信奉者だ。彼には「お前の創りたいものをすべて形にしてやる。代わりに俺の知恵になれ」と言って家から連れ出した。
もう一人の隊員、ツェン。ある日突然拠点を訪れ、俺に盤上遊戯での勝負を挑んできた。 結果は一勝六敗。俺がここまで完膚なきまでに敗北したのは初めてだった。 彼は自分の戦略眼を実戦で試したいと豪語し、翌日、模擬集団戦闘を行った。 「理」においてはツェンが勝っていたが、実戦経験の差で俺が三連勝した。「人は駒じゃない」という俺の言葉に、ガーブが「経験不足」と追い打ちをかけたのが効いたのか、彼は「シンの下で実戦を学ぶ」と言って加入を決めた。
現在、作戦部では以下のフローで戦略を構築している。
ハンスによる精密な情報収集。
ツェンによる基本案の構築。
ノインによる論理的補強と工学的反証。
オットーによる経済的実現性の査定。
シンによる最終判断と戦術への落とし込み。
この徹底した合理性こそが、俺たち緋色の傭兵団の生命線だ。 そんな組織の地固めに奔走し、半年が経った頃――平和を破る一報が届いた。 アレク殿下からの先触れだ。
『三日後、旧帝都に着く』
「……いきなりかよ! まだ拠点の工事も終わってねぇぞ!」 俺の叫びは、慌ただしく動き始めた団員たちの喧騒にかき消された。盤上の支配者が、ついに俺たちの檻(拠点)を検分しにやってくる。




