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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第八部:覇道の蹄音

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第八部 第1章:廃都の収穫と「緋色」の洗礼

第八部:覇道の蹄音


「国家誕生への蹄音。死を命じる王の合理を、生き抜く軍師の合理で上書きせよ。」


ゲルマニア統一宣言。アレクの「捨て石」戦略を見抜き、カタパルト投入など独自の「生存戦略」でヴィットマン子爵ら強敵を屈服させていきます。


茶色の蛇傭兵団との「宣戦布告」に勝利した余韻は、瞬く間に現実的な処理の山へと姿を変えた。 戦場となった宮殿前広場には、三百名を超える敵兵の遺骸が転がっていた。これをどう扱うか。まとめて埋めるか、それとも火葬にするか。衛生面と、何より「茶の剣」という巨大な群団へのデモンストレーションも兼ねて、俺は火葬を選択した。


旧帝都中から馬車を総動員し、丸一日かけて遺体を荒野まで運び、巨大な薪を組んで火を灯す。三百余名を荼毘に付す作業には、実に十日間を要した。 これがオットーさんの言う「赤字」の最たるものだった。 さらに追い打ちをかけたのが「ハイエナ」たちの暗躍だ。戦闘の翌朝、広場に野ざらしにされていた茶色の蛇の面々は、夜のうちに身ぐるみを剥がされていた。武器や防具、装身具はもちろん、衣服まで徹底的にはぎ取られ、文字通りの全裸で横たわる死体の山……。その無残な光景を見て、勝利の感慨は霧散した。 勝負に勝った勝者が、死体を運び、その葬儀費用を出し、さらには「ただ働きだ」と不満を漏らす団員たちをなだめるために毎日酒を振る舞う。ソロバンを弾くオットーさんの顔面は日に日に青ざめ、「二度と宣戦布告はするな」という、懇願を通り越した厳命が俺に突きつけられた。


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だが、この戦いは旧帝都の空気を劇的に変えた。 「よそ者の傭兵団」だった俺たちは、今や「街を害虫から守り抜いた救世主」として住民たちに受け入れられつつあった。


その変化は、各隊長への反応に顕著に現れた。 弓隊長のクリスには、毎日どこからか贈り物や花束が届くようになった。あの戦いでクールに敵を射殺していた姿に「守られたい」と願う婦人方が増えたらしい。当の本人は「不本意です。役割として演じているだけです」と無表情に胃薬を飲みながら、イケメン君としての営業スマイルを振りまいている。


歩兵部隊長のヤミルは、街の頑固な職人やおっちゃんたちに酒を誘われることが増えた。あの二メートル近い巨躯が街を歩くだけで「治安の象徴」に見えるのだろう。 そして団長のガーブ。彼女は街の子供たち、特に女の子から「お姉様」と慕われ、拠点の周りでまとわりつかれるようになった。猪突猛進の女狼も、これには調子が狂うようで、顔を赤くして子供たちをあしらっている。 ハンス? 奴は相変わらず影に潜み、何も変わらない。 そして俺……シンはといえば、戦後処理の事務作業と加入希望者の対応という「余計な仕事」に埋もれ、ハンスと酒を飲みながら愚痴をこぼす夜が増えただけだ。


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気づけば、マルコが率いる訓練部隊の子供の数も膨れ上がっていた。 孤児院の院長が「緋色の傭兵団の管理下にあるのが、子供たちにとって最も安全です」と断言し、孤児院そのものの運営が俺たちの実質的な管轄になってしまったのだ。孤児は一気に三十人増え、拠点は賑やかというより騒々しくなった。


俺はマルコに「基礎教練」と「読み書きの指導」を徹底させた。普段の生活は孤児院の職員に任せているが、マルコは職員と共に一日中泥だらけになって子供たちを追いかけ回している。 初期の孤児二十名の中からは、すでに基礎課程を卒業し、弓隊や歩兵隊の末端として配属される者も出始めた。「教導隊長」としてのマルコの働きは見事なものだ。俺は彼を労い、一杯奢ることにした。


商人たちとの交渉も、以前とは比べものにならないほどスムーズになった。 オットーさんは「怖いくらいに話がまとまる。こういう時は後でしっぺ返しが来るぞ、くわばら、くわばら」と用心を深めているが、商業ギルドが俺たちを「旧帝都の正当な守護者」と認めたメリットは計り知れない。


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だが、良いことばかりではない。一番の悩みの種は、傭兵たちの干渉だ。 「緋色が茶色の蛇を食った」という噂はゲルマニア中を駆け巡り、力自慢の荒くれ者たちが腕試しにやって来るようになった。 「肉体言語で語れば俺たちは兄弟! さあ、死合いを――」 と言い終わる前に、俺はそいつを双刃の柄でぶっ飛ばした。


さらに厄介なのは、団への加入を求める個人や小規模な傭兵団の殺到だ。 この対応はすべて俺に押し付けられた。一人ひとりと面談し、その実力を試し、背景を探る。中には他群団からの密偵サクラも混じっているが、そういった連中はハンスが音もなく「裏の話し合い」へと連れ出していく。


俺は加入希望者を、シンの組織論に基づいた三つの集団に分けて対処した。


不適合者・寄生虫 俺たちの名声にあやかり、楽に食い扶持を得ようとする者たち。彼らには食堂で一食だけ振る舞い、即座にお帰り願った。不満を漏らして暴れ出す者もいたが、炊事場から現れたエマおばちゃんの巨大なお玉で昏倒させられ、拠点の外へ叩き出されていた。


実力不足・後方支援候補 戦う意思はあるが、戦闘員としての資質に欠ける者たち。彼らはオットーさんに預け、兵站や事務に回した。読み書き計算ができる者は「壱」から「肆」までの元裏社会ボスたちの下で徹底的に叩き直されている。オットーさんの理詰めの説教に泣き出す者や、「弐」さんたちの厳しい指導に青ざめる者が続出しているが、組織の「内臓」を育てるためには必要な過程だ。


即戦力・戦闘員候補 個人技で一定の基準を超えた者たち。彼らはヤミルとマルコの下で、過酷な集団戦闘訓練に放り込まれる。指示に従わない傲慢な手練れもいたが、ヤミルが「立ち止まるは悪手だぜ」と一言残して拳一つで沈め、従順な兵士へと変貌させている。また、読み書きができない者には夜間に「肆」さんの特別講義を行わせた。講義後、顔を腫らした新人が何人も出てくるが、「言葉が通じないなら肉体言語で教えるしかない」という肆さんの教育方針だ。……まあ、うまくやってくれ。


こうして、混乱と熱狂の「宣戦布告」から半年が経過した。 緋色の傭兵団は、もはや六人の敗残兵ではない。 旧帝都という廃墟の心臓部に、巨大な脈動を刻む「一つの有機体」へと進化を遂げつつあった。



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