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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第七部:盤上の真実と三つの極

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第七部 第5章:廃都の処刑場――「戦場の天秤」が描く壊滅の円舞曲

宣戦布告から三日後の正午。かつて神聖ロマヌス帝国の威信を象徴し、数万の軍勢をも収容した宮殿前広場は、今や崩落した宮殿と貴族邸の残骸が積み上がる、死の静寂に包まれた広大な廃墟と化していた。


この広場を舞台に、二つの勢力が六百歩の距離を置いて対峙する。 片や、数に任せて雑然と横に広がる「茶色の蛇傭兵団」、三百名余り。その中心には、団長ホルツフェラーと「精鋭」を自称する三十名の剣士が陣取っている。 対するは、俺たち「緋色の傭兵団」、戦闘員百二十三名。俺が提唱する「人間の体」の比喩に基づき、機能的に配置された精鋭たちだ。


正面中央には、俺とガーブ率いる遊撃隊、その直後にヤミル率いる歩兵部隊。左右にはクリスの弓隊とイエーガーさんの狩人部隊が展開し、さらにその外縁にはハンス率いる斥候部隊が、獲物を狙う獣のように身を潜めている。 広場は瓦礫の堆積により、真っ直ぐ突撃できるルートは中央と左右の三箇所に限定されていた。幅はいずれも十人が並んで通れる程度だ。


「おい! ガキぃ! 裁定者は誰だ! どこに居る!」 苛立ちを爆発させたホルツフェラーの怒号が響く。奴は開始の合図を誰が出すのかさえ確認していなかったのだ。


その時、十騎ほどの騎馬集団が広場を横切るように現れた。その一騎が下馬し、朗々と声を張り上げる。 「待たせたな! 緋色の傭兵団による茶色の蛇傭兵団への宣戦布告――俺、黒狼傭兵団団長アドルフィーネ・ヴォルフハルトが裁定を行う!」


「何でお前らがここに来る!」と叫ぶホルツフェラーを、アドルは冷笑で一蹴した。「裁定者がいないと吠えたのはお前だろう? 俺ほどこれに適した人間はいないぞ」


俺はガーブに合図を送り、「緋色の傭兵団は了承する!」と叫ばせた。アドルが「異議なし」を確認し、右手を高く掲げる。 「勝敗は殲滅! 総員戦! ……それでは、はじめ!」


戦端は、茶色の蛇の両翼からの無秩序な突撃で開かれた。


「行け! てめえら! 蹂躙してこいや!」 ホルツフェラーの命令に従い、傭兵たちが左右二箇所の通路へ雪崩れ込む。俺は冷静にその突出を見極め、右手を上げた。


「放て」 クリスの弓隊とイエーガーさんの狩人たちが、同時に三本の矢をつがえ、精密な射撃を開始する。同時に、左右に展開していたハンスが指笛を鳴らし、斥候たちが瓦礫の影へと消えた。


傭兵たちが雄叫びを上げ、瓦礫の間から姿を現した瞬間――「ざぁっ」と、仕掛けられた綱が左右から引き絞られる音が響いた。 先頭の傭兵たちが足を取られ、無様に前のめりになる。後続は綱と倒れた仲間に衝突し、狭い通路で次々と重なり合い、巨大な「渋滞」が発生した。


そこに、俺たちの矢が容赦なく降り注ぐ。ひゅひゅひゅっ、どどどっ! 「がっ!」「ぎゃっ!」 立ち止まることさえ許されない密集地帯で、三十、四十、五十名と、猪突する傭兵たちが次々と土に還っていく。


「歩兵部隊、前進! 慌てるな、歩調を合わせろ!」 俺の号令で、重装備の歩兵部隊が遊撃隊を追い越し、中央の瓦礫の間をゆっくりと進んでいく。 中央の通路からも敵が溢れ出してきたが、そこには歩兵の頭上を越えて、クリスの神速の矢が山なりに降り注ぐ。「ひょろひょろ矢が当たるか!」と嘯いた敵兵の額を、クリスの放った矢が貫いた。相変わらず速く、そして美しい弓捌きだ。


槍兵と敵兵が激突し、さらに中央で五十名ほどを削り取ったところで、俺は次の指示を出す。


「歩兵、左右展開! ハンス、壱さん、弐さん、頼むぞ!」


ヤミルと数名の長物使いを残し、歩兵たちが左右の混乱地帯へと殺到する。ハンスに鍛えられた特務隊、そして「壱」「弐」といった裏社会の猛者たちによる容赦ない市街戦が始まった。彼らは瓦礫を盾に、敵の隙を突いて確実に数を減らしていく。


「さて、中央だ。……進もう」 俺は両手にナイフを、ガーブは身の丈ほどもある大刀を抜き放った。アインツら四人の遊撃隊も抜剣する。俺たちは歩みを速め、ヤミルの横をすり抜けて敵の真っ只中へと突入した。


激突。 俺はナイフ二本を瞬時に投擲して二名の息の根を止め、ガーブは歓喜の声を上げながら一振りで四名を切り伏せた。遊撃隊員たちもそれに続く。 「まだまだぁ!」 ガーブの咆哮が広場に響く。敵は俺たちの圧倒的な圧力に耐えきれず、じりじりと押し下げられていく。中央でさらに五十名が沈んだ。


一度、太刀を止める。俺たちの目の前には、文字通り死体の山を越えた先にある一本の道が開かれていた。 左右の通路でも、歩兵と斥候、そして「おじさん部隊」が、それぞれ五十名近くの敵を完璧に釘付けにしている。


ハンスが音もなく俺の横に追いついてきた。 「ハンス、配置は?」 「問題ない。全部隊、敵陣の横への展開を開始している」 「クリス、矢は?」「……十分だ」


俺は背中に隠していた「双刃」を静かに引き抜いた。 「よし、仕上げだ。前方、敵――『茶色の蛇』」 俺たちは、愕然と立ち尽くすホルツフェラーが待つ敵本陣へと、確かな足取りで歩みを進めた。



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