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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第七部:盤上の真実と三つの極

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第七部 第4章:廃都の包囲網と「毒蛇」への布告

旧帝都の周辺は、いまや重苦しく不穏な空気に完全に支配されていた。 拠点の窓から外を望めば、街を遠巻きに包囲する傭兵団の野営地から、無数の竈門の煙が立ち昇っているのが見える。茶の剣傭兵群団を中心に、赤、青、緑、黄……。黒狼を除く五色の旗が、獲物を狙う獣の眼のように廃都を見つめていた。彼らは互いに牽制し合いながらも、この新興の「緋色」がどのような出方をするのか、その真価を見極めようとしているのだ。


俺たちはアレク殿下との会談を終え、強行軍で拠点へと滑り込んだ。道中、茶の剣が差し向けた追っ手が現れるかと警戒していたが、結局、俺たちの乗る馬の速度に追いつける者は皆無だった。 ゲルマニアにおいて、馬は極めて高価な軍備だ。中小の傭兵団が維持費を含めて揃えられるものではなく、俺たちが有する馬も元々はイエーガーさんの狩人部隊のものだ。数頭買い足した際、オットーさんが「赤字が増える」と渋い顔をしていたのを思い出す。


拠点に戻り、泥を落とす暇もなく俺は軍議を招集した。


「留守番の皆さん、ご苦労様。周囲をハイエナ共に囲まれて窮屈だったろうが、これから『駆除』を始める。自由な空気を吸えるようにしよう」 俺の言葉に、集まった面々の表情が引き締まる。ハンスが最新の情勢を報告した。


「現在、旧帝都を包囲しているのは四群団で約一千名。最大勢力は茶の剣傭兵群団の五百余りだ。その中核を成すのが、団員三百名を擁する『茶色の蛇傭兵団』。団長ホルツフェラーは、住民への嫌がらせを主導している」 「兵種構成は?」 「すべて歩兵だ。弓兵も騎馬もいない。装備は片手剣が主流。集団戦闘の訓練を受けている様子はなく、単純な数の暴力で押し切る昔ながらのスタイルだ。ただし、周囲を固める三十名ほどの『精鋭』だけは、個人の武勇に秀でた歴戦の剣士らしい」


斥候(目と耳)を持たず、補給や戦術も雇い主任せ。俺は内心で切り捨てた。典型的な「旧時代の傭兵」だ。 「シン、その三十人と戦ってみたい」 ガーブがギラついた目で手を挙げる。


「ダメだ。お前は今や一隊の長だ。アインツたち遊撃隊の五人で当たるなら許す。足引っ張ったら殺す、くらい言ってやれ」 「ん、わかった。……お前ら、遅れたりヘマしたりしたら殺すからね」 ガーブの冗談に聞こえない宣告に、背後にいたアインツらが目に見えて震え上がった。


「よし。では明日、俺が茶色の蛇に『宣戦布告』を出す」 一座に戦慄が走る。


「条件は総員戦。後方支援を除く全員だ。壱さん、弐さんたち裏社会の精鋭も数人貸してくれ。戦場は、旧帝都内の『宮殿前広場と放棄された貴族街跡』を指定する」 そこには無数の瓦礫と複雑な路地が入り組んでいる。個人の武勇に頼り、平地での乱戦しか知らない連中を「教育」するには最高の檻だ。


________________________________________


翌日。俺は一騎で拠点を立ち、白地に赤の×印が描かれた「宣戦布告旗」を掲げて茶色の蛇の陣へと向かった。 周囲の野次馬傭兵たちが「正気か?」「たった百人で喧嘩を売る気か」と囃し立てる中、俺は茶色の蛇がたむろする最前線で馬を止めた。


「傾聴せよ! 緋色の傭兵団から茶色の蛇傭兵団へ、正式に宣戦布告する!」 俺は腹の底から声を張り上げた。 「貴様らは徒党を組み、謂れなく旧帝都の住民を脅し、商売を妨害している。その下劣な行為は、同じ傭兵として吐き気がする。住民を脅すことが貴様らの言う『戦』か? 俺たちはそれを単なる『コソ泥』と呼ぶ! 陰に隠れて蠢くネズミでないなら、正々堂々と相手をしろ。嫌なら『コソ泥団』と改名して去るがいい!」


言い終わるが早いか、前方から一本の剣が投擲された。俺は旗竿でそれを「ぎん!」と弾き飛ばした。 傭兵たちが二つに割れ、奥から筋骨隆々の男が歩み寄ってくる。団長ホルツフェラーだ。全身傷だらけの、いかにもな古参兵の風格がある。


「おうおう、ガキがいっちょ前にほざきやがって……」 「おい、じいさん引っ込んでろ。俺はあんたのところの団長と話しに来たんだ」 「このガキゃあ! 俺が茶色の蛇の団長、ホルツフェラー様だ! 今ここでぶち殺してやろうか!」 額に青筋を浮かべて咆哮する彼に対し、俺は淡々と条件を突きつけた。


「勝敗条件は殲滅。ただし、こちらは降参した者には手を出さない。……いいな?」 「皆殺しだ! 降参など知るか!」 「わかった。そっちは『皆殺し』、こっちは『降伏者保護』。戦闘条件は総員戦。三日後の正午、場所は旧帝都内の貴族街跡だ」


ホルツフェラーが鼻で笑った。 「なぜそんな瓦礫の山を選ぶ。……逃げ隠れするためか?」 「お宅らが住民に手を出さないよう、隔離した檻で戦うためだ。……それとも、瓦礫の中では何もできない無能だと自白するか?」 「てめぇ……もう許さねぇ! 皆殺しにしてやる! 覚悟しやがれ!」


俺は馬首を返し、背後の怒号を無視してゆっくりと歩き出した。 三日後。この廃都の瓦礫は、彼らの墓標となるだろう。 アレク殿下、見ていてくれ。これが、俺たちの「勝ち方」だ。



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