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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第五部:旧帝都再興編(承)

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第五部 第4章:遊撃の産声と「盤上の咆哮」の予兆

訓練場に沈黙が降りていた。地面に這いつくばったままのアインツら四人に、俺は冷徹な視線を向けた。


「説明してやる。……最初に『四対一』の戦いと言ったはずだ。だが君たちがやったのは、単なる『一対一の四連続』に過ぎない」 言い返そうとしたツヴァイルを、俺は手で制した。 「そもそも、開始の合図と同時に一斉に飛び出したな。その時、誰が先陣を切り、誰が脇を固め、誰が退路を断つか決めていたか? ……決めていなかっただろう。『誰か』が行くだろう、自分はその後ろに続けばいい。フィーアさん、君は心のどこかでそう思わなかったか?」 図星を突かれたのか、フィーアが顔を伏せた。


「戦い方の手順シークエンスを想定せず、集団戦闘の『型』すら身につけていない。相手の出方を下読みせず、多対一の優位を自ら放棄している。……『卑怯』だと? 戦場では流れ矢一つ、背後からの不意打ち一つで命を落とす。降参したふりをした相手に喉元を掻き切られる。その時、卑怯だと言い残して死ぬのが君たちの正義か?」


三人は言葉を失い、ただ俺の言葉を浴びていた。


「ガーブはこの戦いで、ほとんど大刀を振っていない。ドライデンの足を狩り、ツヴァイルの両手剣を受けただけだ。つまり君たちは、ガーブにとって大刀を振るう価値もないほど『弱い』と判断されたんだ」 彼らから、屈辱に震える「怒りの波動」が伝わってくる。だが、俺は容赦しない。


「傭兵が最初に学ぶべきは『生き残る』ことだ。君たちは、これまで戦ってきた無骨な傭兵たちを『無様で醜悪だ』と侮蔑していなかったか? だがな、アインツ。リーダーである君は指示を出したか? 囲めばなんとかなるという、根拠のない希望的観測で仲間を死地へ追いやったんじゃないか?」 アインツが深くうなだれた。


「……お前たちは弱い。もういい、帰れ。俺たちの戦場に素人がうろちょろされては迷惑だ。宣戦布告のルールは無効とする。傷の手当をしたら、さっさとゲルマニアを去れ」 俺は腰を上げ、周囲を見回した。そこには『壱』から『肆』までの元組織の面々や、マルコが教え込む子供たちもいた。


「お前たちも同じだ。覚悟のない奴は、今すぐここから消えて構わない」 俺はそれだけ告げると、背を向けて訓練場を後にした。


________________________________________


その夜。拠点の食堂は、エマおばちゃんが作る「胃袋を掴む」絶品料理の匂いに包まれていた。 俺たちが談笑しながら食事をしていると、昼間の四人が現れ、俺の前に跪いた。


「……俺たちは、甘かった。自分たちの弱さを知った。だから、教えてくれ。戦場での生き方を、俺たちを鍛え直してくれ! この傭兵団の端っこでいい、置いてほしいんだ!」


「なぜだ? ……俺たちに、君たちを飼うどんな実利がある。言ってみろ」 「うまく言えない……。だけど、だけど、このままじゃ終われないんだ!」


思わず苦笑しそうになるのをこらえた。俺より年上のはずだが、呆れるほど純粋で、そして馬鹿だ。だが、その「熱」は悪くない。 「……いいんだな? 俺はお前たちを、目的のために使い潰すかもしれないぞ」


「上等だ! あんたに認めさせてやる。俺たちが本物の傭兵として生き残れるってことをな!」 俺は「してやったり」と心の中でにやりと笑った。


「分かった。加入を認める。ガーブ! こいつらはお前の部下だ。好きに鍛えろ」


「いいよー」 エマおばちゃんのスペアリブを頬張りながら、ガーブが気の抜けた返事をする。


「アインツ、ツヴァイル、ドライデン、フィーア。お前たちは今日から『ガーブ隊』……遊撃隊だ。最も過酷な戦場に放り込んでやる。覚悟しておけ」 「望むところだ!」 アインツが胸に拳を当てて叫び、他の三人も真剣な眼差しで頷いた。 「よし。晩飯の続きだ。エマおばちゃん、新入りにも飯を出してやってくれ!」 「あいよ、たっぷり食べな!」


エールを満たしたコップを掲げ、俺は宣言した。 「四人の新入団員に、乾杯!」 「「「乾杯!!」」」


宴の喧騒の中、オットーさんが隣で囁いた。 「目論見通りになって良かったですね、シン君。彼らの潜在能力、惜しかったのでしょう?」 ……やはり、この古狸には見透かされていたらしい。


________________________________________


こうして、緋色の傭兵団に遊撃隊が誕生した。


隊長であるガーブは、俺たちの中でも桁違いの武力を誇る。普段はのほほんとしているが、戦場では神経を研ぎ澄ませ、敵の「間」や勢いの強弱を完璧に読み取る感性を持っている。一瞬で懐に踏み込む脚力と、大刀を片手で振り回す腕力。そして何より、敵将を確実に仕留めるその執念から、かつては「首狩りの女狼」と恐れられた。本人はその名を嫌っているがな。


異分子であった狩人部隊と、元冒険者の遊撃隊が加わったことで、俺の描く部隊構成は一つの完成形を迎えた。俺の組織論に基づき、「人間の体」に見立てた機能分化は以下の通りだ。


中長距離戦闘部隊(手足): クリスと旧組織の弓隊(21名)

弓隊兼騎馬隊(手足): イエーガーら狩人部隊(20名)

近接戦闘部隊(手足): ヤミルと元組織の歩兵部隊(61名)

斥候・特務隊(目と耳): ハンスら情報収集・暗闘部隊(11名)

兵站・交渉・資金管理(内臓): オットーと『壱』たち(21名)

後方補給部隊(内臓): エマおばちゃんら給食隊(11名)

後方支援隊(育成): マルコと子供たち(21名)

遊撃隊(最前線): ガーブとアインツら(5名)


総勢約160名。騎馬の少なさは心許ないが、今の俺たちにできる精一杯の布陣だ。


________________________________________


だが、組織の地固めに奔走していたこの三ヶ月の間に、旧帝都を取り巻く空気は急速に冷え切っていた。 五色の傭兵群団、特に茶の剣傭兵群団の動きが活発化している。俺たちが鉄鎖傭兵団を壊滅させた恨みは、彼らのトップである「茶色の羆」を激怒させていた。


「緋色の小賢しいネズミどもを干上がらせろ」 そんな噂と共に、旧帝都を囲む見えない包囲網がじわじわと狭まっているのを、ハンスの報告が示していた。商業ギルドを通じて入ってくる各地の動静も、領主たちが不穏な蠢きを見せていることを告げている。


俺たちは包囲され、旧帝都から出ることもままならない状況に陥りつつあった。


敵意、関心、静観……バラバラな思惑を持つ勢力に対し、どう楔を打ち込むか。地図を見つめる日々が続く。茶の剣に対抗するために他の群団と共闘できるか、あるいは傭兵以外の勢力と手を組めるか。 だが、俺たちはこれまで組織の強化に集中しすぎた。外部への「伝手」が圧倒的に足りない。俺自身も一人の傭兵として戦場に立つ以上、広い視野を保ち続けることには限界を感じていた。


「……もう一人、俺とは違う視点で『考える』人材がいればな」 独り言を漏らした、その時だった。


「シン君! 大変だ!」 オットーさんが、商業ギルドからこれまでにない形相で駆け込んできた。


「シン君! ミューラー公国のアレク・フォン・ミューラー殿下……公主代行様より、直々に面談の申し出があった!」


ガタリ! と椅子を蹴倒して立ち上がった衝撃で、愛用のペンが床に転がった。 アレク・フォン・ミューラー。「戦争と政治に長ける天才児」であり、「静かなる盤上の支配者」と称される、あの化物か。


予測よりも早すぎる接触。 風向きが、一気に変わり始めた。



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