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『緋色の傭兵団の物語』「ゲルマニア編」  作者: 嵗(sai)
第四部:旧帝都再興編

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第四部 第1章:千里を走る悪評と「掟」の旗

第四部:旧帝都再興編


「廃都は俺たちの領土テリトリー。宣戦布告こそが、死んだ街に響く再興の産声となる。」


•神聖ロマヌス帝国の廃墟を拠点とし、五十人規模の「鉄鎖傭兵団」を完封。略奪者から住民を守る「秩序」へと変貌していく過程を描きます。


魔獣の特異体を討伐し、あの宿場町に(オットーさんの計算によれば、辛うじて現物支給込みで)黒字をもたらしてから、すでに四十日が経過していた。俺たちは今、かつてゲルマニア全土を支配した神聖ロマヌス帝国の中心地であり、現在は廃墟とスラムが混在する旧帝都を目指して東へ街道を進んでいる。順調にいけば、あと数日でその崩れた城壁が見えてくるはずだ。


本来、十日もあれば到着するはずの旅程にこれほどの時間を費やしているのは、道中で「計算外」の事態が次々と積み重なったからだ。


まず、マルコの入隊である。 宿場町を出立しようとしたあの朝、マルコとその取り巻きたちが往来の真ん中で膝をつき、「連れてってください!」と叫んだ光景は、今思い出しても頭が痛くなる。半ば強要に近い懇願に対し、血相を変えて飛んできた町役場の親父さんや親御さんたちとのひと悶着を含め、出発から大幅な足止めを食らうことになった。


結局、同行を許したのはマルコ一人だけだった。だが、戦場で育ち「生き残る」ための術を骨の髄まで叩き込まれた俺たちと、田舎町のごろつきに過ぎないマルコでは、基礎体力が月とすっぽんだった。


「馬車と同じ速度で走れ」と命じて一時間後、マルコは白目を剥いてぶっ倒れた。その夜の模擬戦では、近接戦闘を不得手とする弓兵のクリスにさえ、赤子のようにひねられた。


「弱すぎる。足手まといだ、帰れ」とガーブが冷たく言い放ったが、俺はあえてそれを止めた。 「いいじゃないか。今後、新たな団員が加入した時のための『標準訓練課程』を構築する良いサンプルになる」


こうして、のちに教育隊長となるマルコの地獄の日々が始まった。朝の柔軟、日中の走り込み、晩飯後の組み稽古。最初の三日間は昼前に倒れて馬車で伸びていたが、徐々に傭兵としての「骨格」ができつつあるのは、教育係としての俺のささやかな楽しみでもあった。


だが、遅延の最大の原因はマルコではない。行く先々で俺たちを足止めする事件と事故の連発だ。


盗賊の襲撃三回、野生動物の襲撃四回、魔獣遭遇二回。そして、他傭兵団による絡みや襲撃が実に八回。 遭遇、交渉、戦闘、そして決着。何より時間がかかるのは「後始末」だ。ゲルマニアのルールに則り、最寄りの傭兵ギルドを探して戦果を報告し、事情聴取に応じ、犯罪者を引き渡す。これらの雑事をこなすだけで、貴重な時間は砂時計の砂のようにこぼれ落ちていった。


特に厄介だったのは、他傭兵団の存在だ。


「噂は千里を走る」とはよく言ったもので、俺たちが「特異体」を討伐したという情報は、驚くべき速度でゲルマニア中に広まっていた。俺たちのツラを拝みに来る連中は多種多様だった。功名心に流行るならず者、引き抜きを狙う傭兵、あわよくば暗殺を目論む刺客。


「いい運動になったぜ」 「ああ、鈍っていた体が喜んでる」 ガーブとヤミルの二人は、これ幸いと襲撃者を叩きのめして運動不足を解消していたが、残りの俺たちは死に物狂いで情報を集めていた。


俺とオットーさんは町に着くたび、役人や商人、ギルドへ足を運び、最新の情勢と五色の傭兵群団の動向を探った。爽やかな笑顔を武器に街の奥様方から情報を引き出すクリス(本人は胃薬を飲んでいたが)や、裏社会の男たちと「血の通わない話し合い」を繰り返すハンス。これらの情報を共有し、俺は地図の上にゲルマニアの現状を立体的に組み立てていった。未だ確たる方針を打ち出すには至らないが、混沌としたこの国の「力学」が見え始めてきている。


だが、そんな前向きな空気を一気に引き裂く厄介ごとが、ついに目の前に現れた。


傭兵団からの、正式な「宣戦布告」だ。


ゲルマニアの傭兵業界は、トップに君臨する五色の傭兵群団(黒、赤、青、緑、茶)によって統制されている。彼らは互いに牽制し合いながら「戦争をコントロール」することで、この国の秩序(あるいは停滞)を維持してきた。 俺たちはそこに楔を打つというよりは、彼らとは一線を画した独立独歩の存在でいたいと考えている。他人の指図でやりたくもない仕事を押し付けられたり、オルレアン伯爵への復讐という大願の途中で「肉壁」として使い潰されたりするのは、絶対に御免被るからだ。


現在、ゲルマニアの傭兵の八割はどこかの群団に所属している。残りの二割は独立系だが、そのほとんどは新参者か、群団に淘汰される寸前の弱小組織だ。実績を上げた独立団は、群団に吸収され、欠員を補充するための「人材供給源」として組み込まれる。それがこの国の傭兵社会の縮図だ。


傭兵にとって「生き残ること」は絶対の信条だが、それは単なる「逃走」を意味しない。卑怯な逃げ方をして生き残れば、社会的・経済的に抹殺され、二度と再起できなくなる。


そこで、泥沼の遺恨を解決するために用意されたのが、「傭兵(団)の宣戦布告」という手続きだ。 「条件が不利だった」「卑怯な手を使われた」 そんな言い訳を封じ、同じ条件で雌雄を決する。五色の群団トップが定めたこの慣習こそ、血なまぐさい傭兵たちの間に残る唯一の「騎士道ごっこ」の名残だと俺は思っている。


だが、今まさに、俺たちの目の前でその旗――白地に赤の×印が掲げられている。 「……うーむ、困ったな。目的地に着くのがまた遅くなる」


そう言いつつ、俺は笑っていた。


困った事態であるのは間違いない。だが、この「宣戦布告」は、俺たち「緋色の傭兵団」が単なる流浪の徒ではなく、このゲルマニアの秩序を揺るがす「無視できない勢力」として認められたという、何よりの証明でもあったからだ。復讐への道筋は、今、確実に動き出している。



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