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推しのフィギュアが尊すぎて、推し活できません!  作者: 夜月黎


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47.推しの視線の先

開場時間になり、私と葵さん(と奏)は、中に入った。


まずは、席の確認。


「えっと……ここ……」


座席番号と合わせて、確認する。


「……ここっ!?」


「ちょっ……夕莉っ、近っ。めちゃくちゃ近っ!!」


葵さんが興奮しながら、私の背中をばんばん叩く。


「ちょっと葵さん、痛いっ」


「だぁってぇー!!」


うっきうきの葵さんは飛び跳ねて喜んでいる。

まぁ……気持ちはわかる。

私だって飛び跳ねたい気分だ。


座席に荷物を置き、ステージを見上げる。


……確かに近い。


ドームだから、至近距離、ってほどではないけど、確実に等身大で見える。


「……豆粒じゃない……」


ぽそっと呟くと、とたんにわくわくしてくる。


「豆粒どころかっ」


葵さんもきらきらした目でステージ方向を見る。


「やばっ、ドキドキしてきた……」


座席に座り、胸を抑える。

やばいくらい心臓が早い。


「朔の視界に入るかな」


葵さんが顔を抑えながらそんなことを言ってる。

私もはっとする。


「……か、奏の視界に……私、入るのかも……?」


顔に熱が上がってくる。

私は両手で自分の頬を抑えた。

その時、私の膝の上のトートバッグから奏が顔を出す。


「……いっつも俺の視界に入ってんだろ」


私は奏を手で隠しながら、見下ろす。 


「……奏違い」


「どっちも俺だろ」


「違うよ」


奏は不機嫌そうに溜め息をつく。


「さっきまでの大泣きしてた奴はどこ行ったんだよ……」


私は、うっと言葉を詰まらせる。


それ、言わないで。


「それとこれとは、別の話!」


奏は拗ねたようにそっぽを向く。


「あんたら、仲良いのね」


葵さんが笑いながら言った。


「え?」


「は?」


私と奏の声が重なる。


「今のどこ見たら仲良いんだよ?」


葵さんは意味ありげにふふっと笑った。


「秘密ー」


「ちょっと、葵さんっ……」


葵さんはにやにやしたままスマホを開いて、見入ってしまった。


私は軽く溜め息をつく。




しばらくすると、客電が一段回落ちる。

十分前だ。


私の胸はドキドキを通り越して、バクバクしてる。

葵さんもスマホをしまい、前を向く。


「やっばー、緊張してきた……」


そう言いながら、深呼吸をしている。

私も真似して深呼吸する。


「はぁーっ」


それでも、緊張は収まらない。


もうすぐ、本物の奏があの場所に……。

目の前のステージに。


そう思うと、これは夢なんじゃないかとさえ思ってしまう。


そして。

今日も時間ぴったりに客電が完全に落ちる。


どきぃっとする心臓と同時に跳ね上がるように私は立ち上がる。


「葵さんっ、始まる!」


「やばいっ!!」


葵さんも胸の前で手を組み、ステージを見ている。


私は今日はサコッシュを短めにして前にぶら下げている。

その中から奏はステージを見ている。


昨日と同じSE。

オープニング映像。


何度見ても、見惚れる映像だ。


最後のメンバー紹介の奏のところが終わると、会場が揺れるような悲鳴。


アリーナ席のせいか、昨日よりも直にうねりが迫ってくる。


一曲目は昨日と同じだ。

ドラムスティックのカウントからの奏のシャウト。


やっぱり……。


「近いっ!!」


思わず叫んで葵さんと目を合わせる。


私達は両手をあげてステージに向かって振る。


もう、肉眼で等身大の奏が見れるなんてっ!!

これまでにないほど、興奮しちゃう!


「今日はっ!本当に、ラストだっ!!」


その言葉と共にライブが始まる。


セトリは昨日とほとんど同じだ。


そして、合間のMC。

内容はまたしても昨日と同じような、十周年への感謝の言葉。


それから初日のライブの感想など。


最後に奏に戻ってきたところで、少しだけ困ったように頭を掻く。


「俺、昨日飛ばしすぎたみたいでさ」


そう言ったところで、陽から突っ込みが入る。


「奏は飛ばしすぎない日なんてないだろっ」


会場に起こる爆笑。


「陽、黙れ」


奏が陽を指差す。

凪がくすくすと笑ってる。


奏はまた前を向いて、話す。


「今日、疲れてんのか、幻覚見たんだよな」


会場がしーんとなる。

奏は会場を見回しながら、苦笑する。


「信じてねぇな?」


控えめな笑い。


「なんかさ、ちっさい俺がいたんだよ」


会場中から『えーっ』という声があがる。


私はどきっとした。


「……え?」


サコッシュの中の奏を見る。

奏はにやっとして私を見上げた。


「……ちょっ、まさか……」


奏は答えずにステージ上に視線を戻す。

スッと細められたその視線は本物の奏に向いている。


その時、ステージ上の奏の視線がばっちりとこちらを向いた。


えっ!!??目が合った!!??


そんな興奮もあったが、すぐにサコッシュを隠す。

しかし、奏はそのサコッシュのあたりを目を丸くして見ていた。


「奏?どうした?」


言葉に詰まっている奏に朔が声をかける。

ハッとしたように奏は視線を朔に向ける。


「……なんでも、ねぇ」


それからまた困ったように笑う。


「やっぱ、まだ疲れてんのかもな」


そう言うと、会場からは心配の声があがっていた。


私は隠したサコッシュに話しかける。


「ちょっと、奏!どういうことっ?!」


無理矢理サコッシュの中に押し込まれた奏は不機嫌そうに顔を出した。


「……ってぇーな」


「奏ってば!!」


ふっと笑った奏はステージの方を顎で指す。


「いいの?次始まんぞ?」


私はステージに視線を戻す。


奏のMCが終わろうとしていた。


「ま、そんなだけど、まだまだっ、飛ばしていくぞっ!!」


その言葉と共に次の曲のイントロが始まる。


言いたいことをぐっと堪え、私はサコッシュの奏に目を向ける。


「っ!あとでっ、絶対聞くからねっ」


奏は口元だけで笑って返した。


私は再びライブに集中した。



ライブ終了後。


私は葵さんと抱き合う。


「めちゃくちゃ良かった!!」


「近かったねっ!!」


お互いに背中をばしばし叩く。


「今日の打ち上げは盛り上がるねっ!!」


「そうね、昨日の分も含めて……」


そこまで言って私は思い出す。


「あっ……」


そして、サコッシュに隠れた奏を見る。

奏は眠そうに欠伸をしている。


私は呆れて溜め息をついた。


ま、帰ってからでいいか……。

どうせここじゃ、人の目もあるからちゃんと話せないしね。


私達は規制退場に従って会場を後にした。



―――――――


一方、本物の奏は……。


ライブが終わって楽屋に戻ると、ペットボトルの水を一気に飲み干してから、飛び出した。


「ちょっとっ!奏っ、どこ行くの!?」


後ろから凪の声が聞こえるが、かまっている余裕はなかった。


途中止めるスタッフを振り切り、奏は会場の外に飛び出した。


外はまだファンで埋め尽くされている。


「こん中から探すのかよっ」


奏は人混みを振り返りながら、探す。


ライブ前に見た、小さな奏を。

そして、ライブ中、小さな奏と一緒にアリーナ席にいた女。


だが、会場の外は女性だらけで、しかもだいたいみんな同じような格好をしている。


ツアーTシャツ。

ロゴパーカー。


「……くそっ」


歩き回っても見つからない。


そのうちに、周囲が気づきだす。


「ちょっ……あれ、奏じゃない?!」


「えっ!本物っ」


「誰か……探してる?」


ざわめきは次第に大きくなり、やがて悲鳴に変わる。


思わず舌打ちをする。


その時。


「お前、何やってんだ!!ばかっ」


朔が奏の腕を掴んだ。


「きゃーっ!!朔までいるよっ」


「ちょっと、陽も来た!!」


騒ぎが更に大きくなる。


「奏っ、何してんだよっ!!戻るぞっ」


陽も反対側の腕を掴む。


奏はもう一度舌打ちする。


「……わかったよっ、戻るっ」


吐き捨てるように言って、奏は腕を掴まれたまま戻る。

スタッフがファンの列を掻き分けて誘導する。


「どうしたんだよ、奏?」


呆れたような陽の声に、奏は不機嫌そうに答える。


「……別に」


そう言いながらも奏の視線はすれ違う人を一人ひとり見ている。


「さっき言ってたな、小さい奏がどうとか」


「えっ、あれネタじゃねーの?」


「奏がその手の冗談言えると思うか?」


朔に言われ、陽は笑った。


「言えないだろな」


奏は不機嫌そうなまま、黙って二人に連れられていった。



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