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推しのフィギュアが尊すぎて、推し活できません!  作者: 夜月黎


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45.推し、接触する

昨夜、遅くまで大騒ぎしていたせいで朝の目覚めは最悪だった。


しかも元凶(かなで)に起こされる。


「夕莉、おい、起きろ」


「ゔーん……?」


ちゃんと枕元でスマホのアラームも鳴っている。

ベッドから手を伸ばしてアラームを止める。


「……奏?おはよ」


寝ぼけた目で奏を見る。


「おはよ」


奏が枕元でにっと笑う。


隣のベッドではまだ葵さんが寝ている。

そして、昨日のことを思い出す。


「……あー、昨日バレちゃったんだっけ」


ぼそっと呟く。


奏は苦笑する。


「隠し事一個減って良かったんじゃねぇの?」


「うん……そうなんだけど、なんか……」


もやもやする。

うまく言えないけど。


「夕莉?」


奏が訝しげに私を覗き込む。

ハッして私は笑顔を取り繕う。


「ううん、なんでもない」


奏はまだ不審そうに私を見ていたが、私はベッドから出た。


「うーん……」


葵さんが起き上がる。


「夕莉……うるさ……」


それから私の方を見て、奏を見る。

眠そうだった目がパッと開く。


「あっ……夢じゃなかった……」


「あはは……」


私は苦笑する。


「あ、葵さん、そろそろ準備しないと会場限定グッズ買えなくなっちゃう」


私は誤魔化すように慌てて言った。


「あ、そうかっ!急げっ」


私と葵さんは急いで支度をして、ホテルを出た。





会場についてグッズ列に並ぶ。

販売開始まで二時間。

葵さんとおしゃべりしてればあっという間だ。


「会場限定の缶バッジ買えるといいね」


私が言うと葵さんは悔しそうに拳を握る。


「ほんっとに!前回、買えなかったのが悔しすぎるっ」


葵さんの目は怒りに燃えている。


「ははっ」


私も同意するけど、葵さんの勢いに押される。


「そんな買えねぇもんなの?」


トートバッグから奏の声が聞こえる。

バッグの端から顔を覗かせている。


「ちょっと、奏っ」


私は慌てて奏を隠そうとするけど、葵さんは気にせず奏にも力説を始める。


「買えないのっ!!転売するバカがいるからっ」


「へぇ?」


「奏、なんとかしてよっ」


「俺に言われてもな……」


なんか楽しそうに会話してる。

私は、なんだか入り込めない。

またもやもや。


って言うか、奏、他の人にもバレちゃうって。


「ちょっと、他の人にもバレちゃうから大人しくしてて」


私は奏をトートバッグに押し込む。


「夕莉……意外と奏の扱い雑ね」


「え?」


葵さんの呆れた声に顔をあげる。


「……もっと神のように扱ってんのかと思った」


ははっと苦笑する。


確かに最初は緊張したけど、いつの間にか慣れてしまったのは事実だ。

……慣れるわけないって思ってたのに。


「いつもはもうちょっと大事にしてるよ……」


「そうなの?」


「……たぶん」


「ま、羨ましい限りだね」


葵さんはトートバッグを見てそう呟いた。


「……うん」


私は素直に頷いた。


その後も私と葵さんは他愛ない話をして販売開始まで過ごす。

ようやく列が動き出し、あっという間にグッズ販売所に辿りつく。

私も葵さんも無事に目当てのグッズを買えた。

出口を出て葵さんと合流したところで、私は購入したグッズをトートバッグに入れようとして気づく。


顔から血の気が引いていく。

心臓がどくどくいってるのが、わかる。


「あ、葵さん……」


私は真っ青な顔で葵さんを見た。


「どした?」


「か、奏が……いない」


「えっ!?」


葵さんも驚愕の表情を浮かべた。



✢✢✢✢✢✢✢ 


奏は人目につかないように隠れながら、ある場所を目指していた。


「……夕莉、そろそろ気づいたかな」


後ろを振り返る。

でも、この機会を逃す訳にはいかなかった。


なんとかバックステージ側に辿り着く。


奏は壁際に身を寄せながら、ゆっくりと通路を進む。

遠くからスタッフの声が飛ぶ。


「機材、そっち先入れて!」


「リハあと五分!」


ライブ前の緊張感が伝わってくる。


楽屋前の廊下の隅で待つ。

――本物の奏が戻ってくるのを。


しばらくして、足音と声が聞こえてくる。

奏は積まれた機材の陰から顔を出して、外の様子を見た。


廊下の向こうから四人が歩いてくる。

奏は少しだけ、目を細めた。


陽を先頭に凪、朔が近づいてくる。

……そして、最後に奏、自分がいる。


少しだけ眉をひそめたまま、楽屋に入っていく。


「……あの顔してんなら、すぐに出てくるな」


そう呟き、息を殺して待つ。


しばらくすると、楽屋の扉が再び開いて奏が一人、出てくる。


周囲に人がいないことを確認して、奏は廊下に出た。


「なぁ」


声をかける。


ピタッと止まった本物の奏は、不思議そうに後ろを振り返る。


誰もいない。


「下」


奏はもう一度声をかけた。


その声に下を見た本物の奏は、動きをピタッと止めて目を見開いた。


「……は?」


ニヤッと奏は笑った。

自分のマヌケな顔が面白かった。


「う、動いた……?」


「動いちゃ悪いかよ?」


少しだけ不機嫌さを出す。


本物の奏は、すぐにふっと鼻で笑う。


「別に悪かねぇけど」


奏は再びニヤッと笑う。

そう、内心めちゃくちゃ驚いてても表には出さない。

それがわかっていた。


「……俺だな」


当たり前のことを奏は口にした。

それから、手を差し出す。


「悪ぃけど、少しだけ手出してくれ」


奏が要求する。


一瞬躊躇ったのがわかったが、本物の奏はすぐに手を差し出した。


……そういう奴だよな。

奏は躊躇なく、その手に触れる。


小さな手が大きな手に触れた途端、本物の奏の視界がクラっとする。


「なっ……」


一瞬、視界が落ちる。

だが、すぐに戻る。


「……悪ぃな。少しだけ、貰ってくわ」


その声だけが聞こえ、本物の奏の視界が戻った時には、廊下にはもう何も無かった。


奏は固まったまま、呆然とする。


「……は?幻……?」


その時、楽屋の扉が開く。

出てきたのは朔だった。


しゃがみ込んだまま呆然としている奏を見て、朔は眉をひそめた。


「お前……何してんだ?」


「……朔」


奏はフリーズしたまま、顔だけを朔に向けた。


「顔色悪いぞ?」


朔が心配そうに覗き込んでくる。

奏はようやく体を動かして自分の顔を抑えた。


「……俺、今日ダメかもしんねぇ……」


「さっきまで元気だっただろ?」


「……幻見たかも……」


「は?」


朔の顔が更に不審そうに歪む。


「ちっさい、俺がいた……」



✢✢✢✢✢✢✢


奏は物陰に隠れ、一度息をつく。

壁にもたれ、しゃがみ込む。


「……とりあえず、成功……」


自分の手を見る。


触れた瞬間、本物から何かが流れ込んできた。

体が軽くなったのが、わかった。


「……これでまだしばらくは動ける……か」


はぁーっと息を吐く。

少しだけ休んでから、奏は立ち上がる。


「夕莉んとこ、戻んねぇと」


ふっと笑う。

慌てて奏を捜して、真っ青になってる夕莉の姿が思い浮かぶ。


行きよりも少しだけ足取りが軽い。

奏は夕莉の元へ向かった。


✢✢✢✢✢✢✢



「……どうしよう……」


私はベンチに腰掛けて両手で顔を覆った。

心臓のばくばくが止まらない。


「奏……私が雑に扱ったから……?」


涙がボロっと零れる。


「夕莉……」


葵さんが心配そうな顔で私の背中を擦る。


「……他の人に見つかってたら……?」


心臓のあたりがズキンと痛む。


「……夕莉」


葵さんが呼ぶ。

でも、その声が遠い。


「夕莉ってば!」


葵さんに大きく揺すられて私はやっと葵さんに目を向ける。


「葵さん……奏、戻ってこなかったら、どうしよう……」


もう不安が止まらない。

比例するように涙も止まらない。


葵さんがそっと抱き締めて頭をなでてくれる。


それでも……私の感情は収まらない。


「大丈夫だって。今までだってずっと夕莉の側にいたんでしょ?」


「うん……でもっ」


「……夕莉泣いてんのか?」


ベンチの下から声が聞こえる。


私と葵さんはばっと下を見る。


――奏がいた。



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