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推しのフィギュアが尊すぎて、推し活できません!  作者: 夜月黎


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44.推し、バレる

ライブ会場を出ると、外の空気は少しひんやりしていた。


たくさんの人が今日の興奮を抑えきれずに、あちこちで盛り上がっている。


私と葵さんもさっきまでの熱を抑えきれないまま歩く。


「凄かったね……」


ポツリと呟く。

葵さんはうんうんと頷く。


「やばかった……もう語彙力バカだけど、それしか言えない……」


めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔。

私も顔のニヤけが止まらない。


「アンコール、一曲目……」


思い出して、ぼーっとなる。


「夕莉の一目惚れ曲ね」


にやっと笑って葵さんは私を見た。


「夕莉……めちゃくちゃ泣いてたね」


「あはっ……」


少し恥ずかしい。


「……でも良かったね」


「うん」


そんな話をしながら、私達はホテルまでを歩いた。



ホテルの部屋に入ると、一気に疲れが出る。

まずはベッドにダイブ。


「つっかれたぁー」


大きく息を吐きながら、思わず声が出る。


でも、この疲れは心地良い疲れなんだよね。


枕に顔を押しつけながら、私は今日のライブを反芻する。


「ふふふっ」


思わずにやける。


「夕莉?一人で浸んないでよ」


葵さんが、ベッドに座り私を見る。

私は寝転がったまま見上げた。


「わかってる」


そう言いつつも顔のニヤけが止まらない。


「全く……私先にお風呂行ってくるね」


葵さんは溜め息と共に立ち上がる。


「りょーかい。その後、いつものやつね」


私はバスルームに向かう葵さんにひらひらと手を振る。


バタン、と扉が閉まったのを確認してから、私は自分の荷物を開ける。


そこには少し不機嫌そうに見上げる奏がいた。


「奏、大丈夫?」


「狭い」


私は苦笑しながら、奏をトートバッグから出す。


「ごめんごめん」


奏はベッドの上に立つと背伸びしながら欠伸をする。

私は呆れて溜め息をついた。


「あのライブの後によく欠伸なんかできるね」


「だって俺、見てただけだからな」


つまらなそうに奏は言った。


「もうっ……」


奏はベッドの上にあぐらをかいて座る。


「でもさ、夕莉は楽しかったんだろ?」


ニヤッとして私を見上げる。


「もちろんっ!!奏カッコよかったでしょっ!?」


私の感情が爆発する。

奏が一瞬引いたのがわかったけど、構わず続ける。


「やっぱり歌ってるときが一番カッコいいの!!」


前のめりになる。

つい、声も大きくなる。


奏は少しだけ顔を赤くしてる。


「それ、俺に言ってどーすんの……」


ハッとして私は元の位置に戻る。

奏本人(?)に奏カッコいいでしょって、私は何を言ってんだ!?


「ご、ごめん……つい」


奏はおかしそうに笑った。


「やっぱ、夕莉面白ぇな」


「どこがよっ!?」


(おれ)好き過ぎ」


ぐっ、と言葉に詰まる。

それ、言われちゃうと何にも言えない。


「そ、そりゃあね……」


私はいつものクッションの代わりに枕を抱える。


「アンコールの一曲目、良かっただろ?」


奏が私を見上げる。

その表情はいつものように煽るでもなく、嬉しそうだった。


私は一瞬息を呑み、それから静かに頷く。


「……うん、最高だった」


ぽすっと枕に顔を埋める。


「……その後の記憶、曖昧になるくらい……」


奏はまた笑う。


「夕莉、いい顔してたな」


何それ……?

恥ずかしくて顔あげらんない。


「……」


奏が立ち上がる。

そして両腕を広げる。


「……ステージから見てるとさ、会場中、その顔なんだ……すげぇよな?」


私は咄嗟に顔をあげた。

自分の指の先を見てる奏の目は、少し遠い。


灰色(グレー)が濃くなり、たぶん、記憶に想いを馳せてる。


「……うん、すごいの……奏だよ」


ふっとこちらを見た奏の目は淡く戻っている。


「……そうなのか……?」


「もちろん」


私がそう答えると、奏は少しだけ、寂しそうに笑った。


「……だといいけどな」


そう呟いた奏は、笑って私を見た。


「明日もあんだろ?」


「うん、もちろん」


「明日の席運はどうだったんだ?」


私はピタッと動きを止める。


「……あとで、葵さんと見るの……」


ふっと笑う奏はもういつもの奏だった。

私も顔を緩ませる。


――その時だった。


「夕莉?誰と話してんの?」


唐突に後ろから葵さんがひょいっと顔をのぞかせた。


「!?」


驚き過ぎて声が出ない。

私は葵さんを見たままフリーズする。


奏を、隠す余裕すらなかった。


「え"っっ!?!?」


変な声をあげながら、葵さんの動きも止まる。

ゆっくりと、私は奏の方へ目を向ける。


奏は――

最初、驚いたような表情を見せたが、すぐにニヤッと笑う。


……なんでそこで大人しくしないのっっ!?


奏らしいっちゃ奏らしいんだけど。


「な、な、なにっ!?それっ!?動いて……っ?!」


葵さんが驚愕の表情を浮かべながら、私と奏を交互に見る。


「……動いちゃ悪いかよ?」


葵さんの手が私を掴む。


「しゃ、喋ったっ?!奏っ!?本物っ!?」


奏は煽るような表情で葵さんを見る。


「本物ではねぇな」


「ちょっ……夕莉っ!?」


「あははは……」


私は誤魔化すように笑った。


「なんで動いてんのっ!!」


葵さんが私を揺すりながら、大声をあげる。


「それは……わかんない、かな」


「ええーっ?」


混乱した葵さんは、ひきつるように笑った。


「ま、まず落ち着いてっ」


私は葵さんの手を引き離しながら、落ち着かせる。


胸に手を当てて深呼吸する葵さん。


少し間を置いたところで、ようやく冷静になったようだった。


「夕莉?説明してもらおうか?」


腕を組んで葵さんが私を見る。

私は仕方なく、わかってる範囲でこれまでのことを説明した。


「……なるほど。結局はよくわからんってことがわかった」


納得したのかしないのかよくわからなかったけど、理解はしたらしい。


「最近、夕莉がおかしかった理由って、これ?」


私は困りながら笑う。


「そうね……」


指差された奏は不機嫌そうに葵さんを見上げた。


「これっていうな、これって」


葵さんは奏に顔を寄せてまじまじと見る。


「ファンクラブ限定の3万円のフィギュアでしょ?」


「そう」


不機嫌そうな奏はぷいっと顔を逸らした。


「奏そのものね」


私は苦笑する。


「そうなんだよね」


奏がチラッと私と葵さんを見る。


葵さんは少しだけ何か考えて、拳を握る。


「っ……うちの……」


絞り出すような声が聞こえた。


「え?」


「うちの朔はっ!!動かないのっ!?」


私は驚いて、後ろに引いてしまった。


葵さんは悔しそうにベッドをばんばん叩く。


奏も驚いたのか、目を見開いて葵さんを見ていた。

そして、おかしそうに笑い出す。


「ははっ、マジで面白れぇなっ!!感想それかよ」


葵さんは奏を見る。


「ねぇっ!うちの朔は動かないのっ!?」


同じことを問う。


奏は笑うのをやめて葵さんを見上げた。


「俺が知るかよ」


葵さんの顔が真顔になる。


「……なんでよっ」


「知らねって」


「知らねってじゃないのよっ!!うちの朔はっ!?奏、動かしてっ!!」


奏は引きつった顔で一歩下がる。


「いや、無理だろ」


私は奏に詰め寄る葵さんを後ろから抑える。


「葵さーんっ!!やめてー!!」


「いやっ、だって、奏動くんなら朔も動いたっていいでしょうっっ!!」


理屈はわかるが、言ってることはよくわからない。


っていうか、受け入れるの早すぎでしょっ。


「ははっ、夕莉言ってた通り、重度の朔オタクだな」


奏の呆れ声が聞こえた。


大騒ぎはしばらくおさまらず、ライブ後の余韻に浸る余裕は全くなかった。











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