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推しのフィギュアが尊すぎて、推し活できません!  作者: 夜月黎


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42.推しのライブ、開幕

会場内は薄暗く、靄のようなスモークがかかっている。

スタンド一階席、下手側。

近いというわけではないけれど、びっくりするほど遠い、というわけでもない。


広い会場内、ざわざわとした喧騒が耳につく。

私はどきどきするような、わくわくするような、なんなら始まってしまうのが惜しいような気持ちさえ感じながら、座席に座っている。


隣の葵さんも少しずつ口数が少なくなっていく。


開演十分前、一段階客電が落ちる。

ザワッとした空気にいよいよ始まる感じが強まる。


私はそっとパーカーのポケットにいる奏に触れる。


握り返してくる小さな手。

いることに安堵しながら、私はポケットから手を出した。


時間ぴったりに客電が完全に落ちる。


わぁっと一瞬の歓声があがり、全員が立ち上がる。

モニターが切り替わる。

真っ暗な夜空。

無数の星の中に浮かび上がる、細長い三日月。


SEが流れ、四人のシルエットが映し出される。

少しずつ色が付き始め、姿が見える。

それは、デビュー当時の四人。

まだ幼さの残る表情。

緊張の残ったような姿だ。


私の胸を懐かしさがよぎる。

パーカーのポケットから体を出し、端に座る形で奏がその映像を見ている。

暗闇の中、誰も見ていないと思ったんだろうな。

確かに全員モニターに釘付けで、気にしてる人はいなかった。


映像は切り替わり、過去のライブ映像、ツアー合間のメンバーの素顔。

次々と切り替わりながら、現在(いま)に近づいていく。


そして、十周年のスタート。

現在(いま)の奏の姿が映し出され、私の顔は一気ににやける。


……やっぱり今の奏が一番、カッコいい。


頬を抑えてモニターに見惚れていると、少しだけ奏がパーカーを引っ張る。


どきっとした私が奏の方を見ると、少しだけ不機嫌そうに私を見ていた。

私は葵さんに見えないようにしながら、唇に人差し指を当てて、静かにするように促す。

奏は、何も言わずにぷいっと顔を背けてモニターへ視線を戻した。


続けてメンバー紹介が始まる。

最初に『朝霧陽』の文字。

満面の笑みを浮かべる陽の映像。


次に『月城朔』。

少し目を細めて冷静に物事を見る朔らしい表情が会場を見据える。


隣で葵さんの息を呑むような悲鳴が聞こえる。


次は『天音凪』。

柔らかい笑みを浮かべる天使のような凪の姿が映る。

会場からは悲鳴にも近い歓声があがった。


そして、一瞬の間を置いて、最後に映し出されるのは――


『夜宮奏』の文字。

鋭い灰色(グレー)の目が真っ直ぐ前を見据え、煽るように口元に笑みを浮かべる奏。


爆発的な悲鳴が会場を渦巻く。


「ぎゃーーーっっ!!」


私も感情が爆発する。

思わず両手をあげて悲鳴をあげると、ポケットの奏がパーカーにしがみつく。

ハッとして手を下げ、パーカーを直す。


会場が暗転し、ドラムスティックの音が鳴る。

一気にライトがステージを明るく照らし、メンバーの姿が現れる。


いきなり奏のシャウトから始まる曲。


会場の熱気は一気に跳ね上がり、歪むほどの勢いを乗せてライブが幕開ける。


「十周年ラストっっ!!行くぞっっ」


奏の叫びが会場を盛り上げる。

応える観客の腕が一斉にあがる。


ギターの音が高らかに響き、それを追うようにドラムの速さが増す。

その隙間をベースの低い音がうねり、奏の歌へと繋ぐ。


私も葵さんも満面の笑みで腕を振り、飛び跳ねる。


「うわっ……っ」


ポケットの中で奏が小さく悲鳴をあげるが、私は最早気にしている余裕はなかった。


一曲目が終わり、流れるように始まる二曲目、三曲目。

立て続けに激しいロックナンバーが続き、熱量は更にヒートアップする。


そして、雰囲気ががらっと変わり、静かなギターのイントロから始まるバラード。


奏の声が、真っ直ぐに響く。

鳥肌がたつほどに、美しく心を刺すハイトーン。


私は胸の前で手を組みながら聞き惚れる。


この歌を、この声を生で、同じ空間で聞けることへの喜びが渦巻く。


曲が終わり、次の曲への転換の合間、私はポケットに手を入れる。


そこには、奏はいなかった。

どきっとして下を見ると、いつの間にか折りたたまれた座席に移動している。

私は飲み物を取るフリをして奏に近づく。


「ちょっと、なんでそこにいるのよ?」


奏は椅子の端に腰掛けたまま、呆れたように答える。


「落ちそうになったんだよ」


「ゔ……それはごめん」


「どうせ、誰も見てねぇから」


そう言う奏はそこを動く気はなさそうだった。

私は仕方なく、奏を隠すように荷物を移動した。


ステージ上では、スポットライトが四人を照らしていた。


奏がマイクを取る。


「今日は、十周年ラストの初日ってことだけど、覚悟できてるか?」


歓声が応える。


「まだ足んねぇな?」


更に大きい歓声。

ふっと満足したように笑った奏は、左手で朔を示す。


朔がマイクの前に立ち、一礼する。


「まずは、今日は来てくれて本当にありがとうございます」


拍手が沸き起こる。


「正直、十年も続くとは思ってなかった」


そう言って陽、凪、奏を順番に見る。


NOCTIS(うち)は問題児ばっかりだから」


少し悪そうな表情で笑っている。

どっと笑いが起こる。


この顔、葵さん好きなんだろうなぁと思って振り返ると、やっぱり顔をにやにやさせて見ていた。


陽の顔は引きつってるし、凪は目をぱちくりとさせて朔を見ている。

拗ねたような顔を逸らす奏は、ちょっと可愛い。


「それでも、この四人だからNOCTISらしくあれた十年だと思っている」


割れるような拍手。


「そして、またこの先がこの四人だからこそ見えると確信しています。これからも応援お願いします」


そう言ってまた一礼した。

会場からは、大きな歓声と拍手が沸き起こった。


奏は照れくさそうに頭を掻いてから、右手で陽を指す。


「陽」


ダァーンッ


と陽がドラムを鳴らし、マイクを取る。


「なんかさぁ、朔の後って喋り辛いんだけど」


くすくすと笑いが聞こえる。


「とにかく!十周年おめでとう!!俺達!!」


両手をあげる陽。

歓声が応える。


「まだまだ暴れてくぜっ!!」


そう言って陽はまた、ドラムを叩く。


また湧き上がる歓声。


奏は落ち着いた頃に、今度は凪を指す。


「凪」


凪は柔らかく笑って会場を見回す。

モニターに抜かれたその笑顔は、凪推しじゃなくてもぽーっとしてしまう。


「ホントに、みんなありがとう」


穏やかな声が会場に響く。


NOCTIS(ここ)は俺の大切な居場所です。これまでも、これからも」


会場が静まり返る。

凪はまたにっこり笑って会場を見る。


拍手が沸き起こり、凪は一礼する。


そして奏が前を向く。


「じゃあ、覚悟はいいな?」


煽るような目つき。

爆発する会場。


「全部!ここに置いてけっっ!!」


わあっーーっっ


会場が揺れるほどの歓声があがり、ステージ際で炎が爆発する。


そこからはもう記憶が飛ぶくらい、怒涛のようだった。


「次、ラストな」


奏の声がマイクを通して告げると、会場からは惜しみの悲鳴があがる。


ははっと笑う奏がモニターに抜かれ、私の胸がきゅーっとなる。


今日もこの時が来てしまったっていう思い。


……でも、今回は明日もあるからね!

まだ、耐えられる!


「かーなーでーっ!!」


私は大声で叫ぶ。


会場そこら中から同じような声が響き、ラストの曲。

最後、デビュー曲のイントロが流れると会場はまた爆発するような歓声に湧いた。








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