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怪物勇者   作者: Toooji
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第五十五章 終決


静寂。


誰も動かない。


王城最上階には、夜風だけが吹いていた。


魔王はゆっくりと女王から視線を外す。


その先には、瓦礫にもたれながら立ち上がる男の姿があった。


折れた剣。


満身創痍の身体。


それでも赤い瞳だけは、まっすぐ魔王を見据えている。


「……立つのか。」


魔王が低く呟く。


男は答えない。


ただ、ゆっくりと前へ出た。


女王も振り返る。


その姿を見つめ、小さく微笑む。


男は静かに頷いた。


もう言葉はいらない。


魔王は黒き剣を構える。


「くだらぬ。」


「約束など人を弱くするだけだ。」


男は折れた剣を腰だめに構えた。


「違う。」


掠れた声が響く。


その言葉と同時に、二人は地を蹴った。


轟音。


剣が激突する。


魔王は怒涛の連撃を繰り出す。


重い。


速い。


強い。


王城の柱が砕け、床が割れる。


男はそのすべてを紙一重でかわし、受け流し、時に身体で受けた。


腕が裂ける。


肩が砕ける。


脚が折れる。


それでも倒れない。


傷は癒える。


だが疲労は蓄積する。


それでも、一歩も退かない。


「なぜだ!」


魔王が叫ぶ。


「なぜ立てる」


男は息を切らしながら答える。


「約束を信じてくれる者がいる。」


その言葉に、魔王の動きがわずかに止まる。


「国王が。」


「賢者が。」


「仮面の部族が。」


「反乱軍が。」


「相棒が。」


「そして――」


男は最後の一歩を踏み込む。


「王女が。」


その一撃は、今までで最も静かな剣だった。


速さではない。


力でもない。


迷いのない一太刀。


魔王は受けようとする。


しかし遅い。


折れた剣が、黒き鎧の隙間を正確に貫いた。


胸。


心臓。


その奥に刻まれた魂へ。


魔王の身体が止まる。


黒き剣が手から滑り落ちた。


「……まさか。」


魔王の動きが止まる。


男は剣を離さない。


魔王は胸へ刺さった折れた刃を見下ろした。


「我は……。」


初めて空を見上げる。


「結局。」


「誰も支配できなかったのか。」


男は静かに答える。


「心は。」


「支配するものじゃない。」


「信じるものだ。」


魔王は苦笑した。


「……最後まで。」


「くだらぬことを。」


その身体から、黒い霧がゆっくりと溢れ始める。


呪い。


魔族の因子。


チャーム。


すべてが霧となって夜空へ昇っていく。


男の胸が熱くなる。


心臓が激しく脈打つ。


ドクン。


もう何十年も感じることのなかった鼓動。


黒い霧が男の身体からも流れ出していく。


裂けた口。


赤い瞳。


尖った耳。


その身体を蝕んできた魔王の魂が、少しずつ消えていく。


魔王はその様子を見て静かに笑った。


「そういうことか。」


「呪いではなく。」


「我自身だったのか。」


初めて、自分の呪いの正体を知る。


男は何も言わない。


魔王は女王へ視線を向けた。


「お前の勝ちだ。」


その一言だけだった。


言い訳もない。


誤魔化しもない。


そして。


魔王の身体は静かに崩れ始める。


砂のように。


夜風へ溶けるように。


黄金の瞳が最後に男を見た。


「見事。」


その言葉を最後に。


魔王は静かに消えていった。


夜が明け始める。


東の空が白む。


男はその場へ膝をついた。


折れた剣も、役目を終えたように静かに床へ転がる。


女王はゆっくり近付き、その肩へそっと手を置いた。


「ありがとうございます。」


男は答えなかった。


ただ静かに頷く。


夜明けの光が二人を包む。


長かった戦いは、ようやく終わりを迎えた。

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