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怪物勇者   作者: Toooji
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第五十三章 届かなかった約束


ひび割れた剣を握る男の腕が震える。


それでも剣先だけは、微動だにしなかった。


魔王は静かに笑う。


全身が悲鳴を上げている。


折れた骨は繋がる。


裂けた肉も塞がる。


しかし疲労だけは積み重なり、身体は鉛のように重かった。


それでもまた一歩、前へ出る。


魔王もまた剣を構える。


「お前は何のためにそこまで戦う。」


「国か。」


「正義か。」


「復讐か。」


男は静かに首を振った。


そして、短く答える。


「約束だ。」


その一言に、魔王は小さく鼻で笑った。


「たったそれだけか。」


「約束など枷になる。」


「だから人は弱い。」


次の瞬間。


二人は同時に踏み込んだ。


火花が舞う。


男は残された力を振り絞る。


一撃。


二撃。


三撃。


これまでで最も鋭い連撃だった。


魔王の黒き鎧へ新たな傷が刻まれる。


肩当てが砕ける。


籠手が割れる。


しかし。


魔王はその斬撃を受けながらも、一歩も退かなかった。


黒き剣が大きく横へ薙ぐ。


男は受ける。


だが。


限界だった。


甲高い音が部屋へ響く。


長年連れ添った鋼の剣が、ついに耐え切れず真っ二つに折れた。


折れた刀身が宙を舞い、石床へ突き刺さる。


男の手には半分だけとなった剣が残った。


その隙を、魔王は見逃さない。


腹部へ強烈な蹴り。


男の身体は暖炉を突き破り、壁へ激突した。


石壁が崩れ落ちる。


瓦礫の中へ男は沈んだ。


静寂。


魔王はゆっくり近付く。


瓦礫が動く。


男はゆっくり立ち上がる。


折れた剣を支え代わりにして。


呼吸は荒い。


視界も霞む。


それでも。


その赤い瞳だけは魔王を見据えて立ち上がる。


魔王は思わず笑ってしまう。


「その執念だけは認めよう。」


「だが。」


「叶えられぬ約束など、ただの独善だ。」


男は折れた剣を構えた。


半身の構え。


もう斬るためではない。


最後まで諦めないためだけの構えだった。


魔王はゆっくり兜へ手を添える。


「見せてやろう。」


黄金の瞳が妖しく光る。


自らへ掛けていた強化のチャームを、さらに深く重ねる。


鎧が軋む。


筋肉が膨れ上がる。


空気そのものが震え始めた。


「これで終わりだ。」


黒き剣が静かに掲げられる。


男は動かない。


いや。


動けなかった。


身体が限界を迎えていた。


折れた剣を握る手だけが震えている。


脳裏へ浮かぶ。


幼い王女。


国王陛下。


従順な相棒。


反乱軍の仲間。


勇者のお守りを握りしめて笑った少女。


「勇者にはなれないようだ。」


男は静かに目を閉じた。


魔王は剣を振り下ろす。


その一撃は迷いがない。


確実に終わらせるための一太刀だった。


その時。


王城の廊下に足音が響く。


石床を駆ける音。


次の瞬間。


重厚な扉が大きく開かれた。


夜風が吹き込む。


銀色の長い髪が月明かりに揺れた。


男は驚き、ゆっくりと顔を上げる。


魔王もまた、振り返る。


部屋の入口に立っていたのは――


この国を治める女王だった。

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