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怪物勇者   作者: Toooji
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第四十五章 王配視察


中央大陸王都より遥か東。


白き王国有数の穀倉地帯。


見渡す限り黄金色の麦畑が風に揺れ、幾筋もの用水路が大地を潤している。


王都を支える豊かな農村。


今日、この地は祭りのような賑わいを見せていた。


「王配殿下がお見えになる!」


鐘が鳴り、人々が道の両脇へ集まる。


やがて白い軍馬に乗った近衛兵が姿を現し、その後ろを豪奢な馬車がゆっくりと進んできた。


歓声が上がる。


「王配殿下万歳!」


馬車の扉が開く。


整った顔立ち。


陽光を受け輝く金色の髪。


王配は穏やかな笑みを浮かべ、人々へ静かに手を振った。


歓声はさらに大きくなる。


農夫の子供が花束を差し出す。


王配は膝を折り、その小さな頭を優しく撫でた。


「ありがとう。」


柔らかな声。


子供は顔を真っ赤にして母親の元へ駆け戻る。


周囲から温かな笑いが起こった。


「なんてお優しいお方だ。」


「やはり次の国王に相応しい。」


誰も疑わない。


その笑顔の裏側を。


視察は夕刻まで続いた。


麦の出来。


灌漑設備。


家畜の健康状態。


納税状況。


王配は一つひとつ丁寧に確認し、的確な助言まで与える。


地方役人たちは感嘆した。


「これほど国を考えてくださる御方はおられません。」


王配は微笑む。


「国とは、人が支えてこそ成り立つものです。」


その言葉に拍手が起こる。


誰も気付かない。


彼の言う"人"が、民ではなく"資源"を意味していることを。


----


夜。


宿泊先となった領主館。


食事を終え、人払いを済ませると、王配は窓辺へ歩いた。


外には収穫を終えた畑が月明かりに照らされている。


静かな声が漏れる。


「良い土地だ。」


背後で控えていた地方代官が頭を下げる。


「ありがとうございます。」


「若者はどのくらいいる。」


突然の問いに代官は少し驚いた。


「十五から二十五歳までなら、およそ二千人ほどかと。」


「ふむ。」


王配は窓の外を見たまま続ける。


「王都でも開拓が進んでいる。」


「今後さらに働き手が必要になる。」


代官は目を輝かせた。


「それでは移住団を募りましょうか。」


「希望者だけで構わない。」


「不自由ない王都での生活」


「いずれは自らの土地になる」


「そう伝えればよい。」


代官は深く頭を下げた。


「すぐ準備いたします。」


部屋を出て行く。


静寂が戻る。


王配は小さく笑った。


「家畜は、自ら檻へ入る方が管理しやすい。」


その笑みには、一片の罪悪感もなかった。


----


その頃、王都。


夜も更けた王城。


王女の居室前には、いつもと変わらず警備兵が立っている。


そのさらに奥。


一本の柱にもたれ、一人の老人が静かに目を閉じていた。


王配付き執事。


魔王が幼き日より仕え続ける、唯一の従者。


その目は閉じられている。


眠っているようにも見える。


だが。


執事はゆっくりと目を開く。


何かを感じ取ったかのように


老人は静かにうなずく。


「これでいい」


一言だけ呟く。


再び静寂。


その声は誰にも届かない。


ただ静かに、夜の王城へ溶けていった。

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