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怪物勇者   作者: Toooji
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第四十三章 再会の気配


女王の背中が遠ざかっていく。


男は柱の影から動けなかった。


胸の奥がざわついている。


聞き間違いではない。


確かに言ったのだ。


「……いるのですか」


と。


気付かれたのか。


それとも偶然か。


分からない。


分からないが――


あの声だけは変わっていなかった。


幼い頃。


庭園で花を摘んでいた少女の声。


市場で菓子をねだった少女の声。


秘密の抜け道を見つけてはしゃいだ少女の声。


男は目を閉じる。


今は感傷に浸る時ではない。


目的を忘れるな。


ここは敵地だ。


魔王の城だ。


一歩間違えれば終わる。


男は静かに息を吐き、再び闇へと溶け込んだ。


王城内部は昔より警備が厳しい。


だが男が迷う事はない。


かつて声を失っていた頃。


怪物の顔になったばかりの頃。


王女に手を引かれ城中を歩き回った。


誰も知らない通路。


使用人用の抜け道。


古い物置。


壁の隙間。


覚えている。


やがて男は王城中央部の高所へ辿り着いた。


古い鐘楼の裏。


ここからなら王城の大半を見渡せる。


そして見つけた。


王城の各所に配置された兵士達。


多い。


異常なほどに。


だが男が注目したのはそこではなかった。


兵士達の顔。


誰もが無表情だった。


まるで眠ったまま歩いているような。


生気のない目。


同じ動き。


同じ表情。


男は歯を食いしばる。


兵士には強めのチャームが掛けられているようだ。


チャーム。


王都全体にも浸透している。


長い年月をかけて。


少しずつ。


少しずつ。


人々の心に染み込んでいる。


これでは誰も気付けない。


自分の意思だと思い込む。


魔王のやり方だった。


その時。


城の中庭から声が聞こえた。


男は身を低くする。


数名の兵士。


そして――


執事だった。


黒い燕尾服。


年老いた男。


王都に来た当初から王子の側にいた人物。


誰もが忠実な執事だと思っている。


だが違う。


古魔王国の魔族。


魔王が幼い頃から仕えている存在。


男も何度か遠くから見たことはあった。


執事は兵士達へ指示を出している。


兵士達は無言で頷き。


機械のように。


仕事へ向かう。


男の瞳が細くなる。


ふいに執事は空を見上げた。


その瞬間。


男の全身に悪寒が走る。


距離はある。


見えるはずがない。


だが。


嫌な予感がした。


男は即座に身を引いた。


鐘楼の影へ飛び込む。


数秒。


いや。


数十秒。


静寂。


何も起きない。


だが嫌な予感だけは残った。


執事は何かに気付いた。


確信ではない。


男は即座の移動を決意した。


この場所は危険だ。


次に向かうべき場所は決まっていた。


王城大書庫。


女王が通い続けている場所。


この時間に王女がいる場所を。


決戦の際、女王はいないほうがいい。


確かめる必要があった。


----


夜は更ける。


王城の奥。


誰も近づかない静かな廊下。


男は音もなく進む。


そして。


大書庫へ続く扉の前まで辿り着いた。


灯りが漏れている。


誰かいる。


男はゆっくり近づいた。


聞こえてきたのは。


女王の声だった。


「お父様……」


そして。


ページをめくる音。


亡き国王。


女王。


長い時間隠されてきた真実が。


少しずつ姿を現そうとしていた。

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