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怪物勇者   作者: Toooji
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第四十一章 月下の庭園


月は高かった。


雨は上がり、空には雲はなく星も見える。


白き王国の王城は銀色の光に包まれていた。


男は庭園を見下ろす回廊の影に立っていた。


懐かしい場所だった。


王女と歩いた庭園。


国王に呼び出された場所。


全てがそのまま残っている。


記憶と変わらない。


男は仮面の奥で目を閉じる。


昔の声が聞こえる。


「あなたも一緒に来なさい!」


幼い王女の声。


自然と口元が緩みそうになる。


その時。


足音が聞こえた。


男は反射的に柱の影へ身を隠す。


現れたのは一人の女性。


銀色の髪。


夜風に揺れるドレス。


女王だった。


男の心臓が強く脈打つ。


いや。


本来の心臓ではない。


魔王の魂の欠片が刻まれた呪いの核。


それでも胸は震えていた。


王女。


そう呼びたくなった。


今は女王であることも。


もう子供ではないことも。


分かっている。


それでも。


男の中ではあの日のままだった。


女王は噴水の前で立ち止まる。


静かな水音だけが響く。


しばらく何も言わない。


そして小さく呟いた。


「どうして」


誰に向けた言葉でもなかった。


「昔を思い出す」


女王は噴水の水面を見つめる。


「お父様のこと」


「お母様のこと」


「……そして」


少しだけ笑った。


寂しそうな笑顔だった。


「馬番をしていた者のこと」


男は目を見開く。


風が吹いた。


銀色の髪が揺れる。


声をかけたかった。


謝りたかった。


守れなかったと言いたかった。


だが。


声を出すことは出来ない。


その時だった。


女王がふと顔を上げる。


まるで何かを感じたように。


男のいる方向へ視線が向く。


一瞬。


目が合いそうになる。


男は息を止めた。


月明かり。


柱の影。


ほんのわずかな隙間。


女王はそこを見つめる。


何秒にも感じられる沈黙。


そして。


小さく呟いた。


「……どなた?」


男の身体が硬直した。


気付かれたのか。


いや。


見えているはずがない。


だが。


女王の瞳は真っ直ぐこちらを見ていた。


返事は出来ない。


男は静かに後退する。


一歩。


また一歩。


影の中へ。


そして姿を消した。


女王は追わない。


ただその場に立ち尽くしていた。


何故か分からない。


確信があった。


誰かがいた。


それも。


自分の知る誰かが。


----


その頃。


王城最上階。


王配の私室。


眼下に広がる王都。


静かな夜。


だが。


なにか違和感があった。


王配はゆっくりと目を閉じた。


感知を広げる。


王都全体へ。


城下町へ。


王城へ。


だが。


異質なものは見つからない。


何かが。


霧のように。


水の膜のように。


揺れている。


王配は笑った。


久しぶりだった。


興味を持ったのは。


「おもしろい…」


静かな声だった。


だがその瞳には。


かつて西の王国を滅ぼした


魔王の色が宿っていた。


----


朝方。


女王はすでに執務室にいた。


机の上には一枚の紙。


王城周辺で目撃された不審者。


黒い外套。


鉄仮面。


正体不明。


女王は羽ペンを取る。


そして。


誰にも見られぬよう書き加えた。


『捕らえる必要なし』


『見つけ次第、女王へ報告せよ』


その文字を書いた後。


しばらく考え。


さらに一行加える。


『この件に関して、他言無用』


理由は説明しない。


出来なかった。


自分でも理由が分からないからだ。


ただ。


心のどこかで確信していた。


もし本当にあの男なら。


話をしなければならない。


----


王城を見上げる丘の上。


男は朝日を眺めていた。


昨夜の出来事を思い返す。


気付かれた。


いや。


感じ取られた。


それだけかもしれない。


だが。


王女は変わっていた。


昔より強く。


昔より賢く。


そして。


どこか悲しそうだった。


男は胸元の真名石の護符を握る。


冷たい感触。


反乱軍。


賢者。


仮面の部族。


国王との約束。


全てが背中を押している。


もう迷っている時間はない。


今日より王配は視察のため数週間ほど城を空ける。


この機に王城へ潜入して。


潜入ルート確認と。


王女の行動範囲を把握する。


王女がいては。


また暗殺失敗してしまうから。


静かに運命は。


二人を再び引き寄せ始めていた。

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