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怪物勇者   作者: Toooji
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第三十九章 王城の影


王都の夜は静かだった。


昼間の喧騒が嘘のように消え。


石畳には月明かりだけが落ちている。


鉄仮面の男は城下町の屋根の上にいた。


黒い外套が夜風に揺れる。


眼下には王城。


かつて何度も出入りした場所。


馬の世話係として。


幼い王女に手を引かれて。


今は敵の城だった。


男はここ数日。


王城周辺を偵察していた。


昼は人混みに紛れ。


夜は影を歩く。


その結果。


一つの事実が分かった。


警備が異常なのだ。


外敵への警戒ではない。


内部への警戒。


それも。


女王周辺だけが異様に厳重だった。


王配の警護よりも。


女王の警護の方が多い。


まるで。


女王が何者かに狙われているかのように。


男は眉をひそめる。


理解できなかった。


魔王が王国を支配しているなら。


女王など飾りのはずだ。


それなのに。


なぜこれほど警戒しているか。


その時だった。


王城正門から一台の馬車が現れる。


豪華なものではない。


実務用の馬車。


男は屋根の上から様子を見る。


馬車の横には騎士が数名。


馬車の中には。


一人の老人が乗っていた。


黒い燕尾服。


白髪。


背筋の伸びた執事。


男は目を細めた。


ただの執事ではない。


気配が違う。


長年戦場を生き抜いた者だけが持つ静かな圧力。


男の本能が告げていた。


強い。


そして。


何より。


不気味だった。


不意の馬車が止まる。


執事は窓の外をのぞき込む。


月明かりの下。


ゆっくり周囲を見渡した。


男は反射的に身を伏せる。


気付かれたかと思った。


しかし何も無かったように。


やがて馬車は走り出す。


男は胸を撫で下ろした。


----


翌日。


男は市場へ出ていた。


情報収集である。


商人達の話。


兵士達の噂。


酒場の愚痴。


その全てを拾う。


そして分かった。


女王は毎週決まった日に。


孤児院を訪れている。


護衛を減らし。


子供達と話をするらしい。


国王によく似ている。


誰もがそう言った。


男は少しだけ安堵した。


あの人は変わっていない。


そう思えた。


----


三日後。


曇り空。


小雨。


王都北区。


小さな教会の孤児院。


女王はそこにいた。


銀色の髪を結い。


簡素なドレスを身に纏っている。


子供達に囲まれ。


穏やかに微笑んでいた。


遠くから見れば。


普通の女性だった。


一国の頂点とは思えないほど。


優しい顔をしていた。


----


男は大通りを人混みに紛れ歩いていた。


王都の地図を確認しながら移動している最中だった。


小雨が降る。


石畳が濡れる。


視界の端を馬車が横切った。


男は気にも留めない。


そのまま通り過ぎる。


馬車の中では。


女王が窓の外を見ていた。


一瞬。


黒い外套が視界に入る。


どこにでもいる旅人。


ただそれだけだった。


女王は視線を戻す。


男もまた歩き続ける。


わずか数メートル。


二人の距離はそれだけ近くにあった。


だが。


互いに気付かない。


運命とは時に残酷だった。


----


その夜。


女王は執務室へ戻っていた。


机の上には報告書。


その中に一枚。


王城周辺で目撃された不審人物。


黒い外套。


鉄仮面。


旅人風。


女王は目を止める。


なぜか分からない。


胸が少しだけざわついた。


気のせいだ。


しかし。


報告書を捨てる事が出来なかった。


引き出しにしまう。


亡き母の日記の隣へ。


----


同じ頃。


王城最上階。


元国王の部屋。


今は王配の私室。


金髪の男は窓辺に立っていた。


眼下に広がる王都。


平和な国。


豊かな国。


支配した国。


満足そうに笑う。


だが。


その表情がふと曇った。


何者かがいる。


そんな感覚。


だが感知できない。


霧の向こうにいるように。


存在だけがぼんやりと感じた。


「気のせいか」


小さく呟く。


王配は知らない。


真名石の護符が。


かつて自らが刻んだ呪いの繋がりを。


曇らせ始めていることを。


そして。


王都に。


自らの首元に刃を近づけた男が


戻って来ていることを。


まだ知らなかった。

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