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怪物勇者   作者: Toooji
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第三十八章 王都潜入


王都の朝は早い。


巨大な城門が開かれると同時に、人々が流れ込む。


商人。


職人。


農民。


旅人。


様々な者達が行き交う。


その中に一人。


鉄仮面を被った男がいた。


黒い外套。


肩掛けの剣。


荷物は最小限。


どこにでもいる旅人にしか見えない。


王都では珍しくもない。


遠征以降。


顔に傷を負った者や家族を失った者も多く。


仮面を付ける者は以前より増えていた。


男は人波に紛れながら城門をくぐる。


懐かしい匂いがした。


焼きたてのパン。


市場の香辛料。


馬の汗。


石畳に染み付いた生活の匂い。


かつて過ごした街。


それは今も美しかった。


だが。


違和感は消えない。


人々は笑っている。


活気もある。


しかし。


誰もが同じような言葉を口にしていた。


「王配様のおかげで」


「王配様がいてくださるから」


「王配様は本当に素晴らしい」


何人も。


何十人も。


同じ言葉。


同じ笑顔。


男は眉をひそめた。


これではまるで幻魔王国・・・


気味が悪かった。


----


昼頃。


男は王都南区にある小さな酒場へ入った。


外見はありふれた店。


しかし頭領から教えられていた場所だった。


反乱軍の協力者。


表向きは酒場の主人。


裏では情報屋。


男が席に座ると。


白髪混じりの店主が近付いてくる。


「何にする?」


男は静かに答えた。


「遠い未来、東より兆し現る」


店主の手が止まる。


ほんの一瞬だけ。


そして何事もなかったように笑った。


「懐かしい言葉だ」


「奥へどうぞ」


地下室。


薄暗い部屋。


店主は扉を閉めると大きく息を吐いた。


「頭領は?」


「無事だ」


「そうか」


店主は安心したようだった。


男は単刀直入に尋ねる。


「王都はどうなっている」


店主の表情が曇る。


「見ての通りだ」


「王配か」


「ああ」


椅子に腰掛けながら続ける。


「王配様は優秀だ」


「治安も良い」


「商売もしやすい」


「民の人気も高い」


男は黙って聞いていた。


「だがな」


店主が声を落とす。


「時々怖くなる」


「怖い?」


「誰も反対しない」


沈黙。


「誰も疑問を持たない」


「誰も怒らない」


「誰も逆らわない」


「気味が悪いくらいにな」


男は胸元の真名石に触れた。


やはりだ。


魔王のチャーム。


それが王国全体に浸透している。


「女王は?」


男は思わず尋ねていた。


店主は少し意外そうな顔をする。


「女王様か」


「どうしている」


「立派な方だ」


即答だった。


「民の為によく働いている」


「先王に似ている」


「ただ・・・」


店主は苦笑した。


「怖くなった」


「怖い?」


「昔はもっと優しい方だった」


「今は違う」


「笑わない」


「妥協もしない」


「誰に対しても厳しい」


男は静かに聞いていた。


「王配様とも距離を置いている」


その言葉に男の目が細くなる。


「夫婦仲は悪いのか」


「さあな」


店主は肩をすくめた。


「だが一緒にいる所をほとんど見ない」


その夜。


男は王都を歩いていた。


王城近く。


高台の庭園。


そこは昔。


幼い王女と歩いた場所だった。


季節の花。


噴水。


白い石畳。


何も変わっていない。


男は立ち止まる。


胸の奥が痛んだ。


あの日々は戻らない。


戻せない。


だが。


守ることは出来る。


影となってでも。


----


同じ頃。


王城。


女王の執務室。


深夜だというのに灯りがついていた。


机には大量の書類。


女王は一人で目を通している。


そこへ侍女が入ってくる。


「陛下」


「何ですか」


「そろそろお休みになられませんか」


女王は首を振った。


「まだ仕事があります」


侍女は困ったように微笑む。


「先王陛下に叱られますよ」


その言葉に。


女王は少しだけ目を細めた。


「そうですね」


ほんの一瞬。


懐かしそうに笑った。


だが。


すぐに表情は消える。


机の引き出しへ目を向ける。


そこには。


亡き父の日記が入っていた。


誰にも見せていない秘密。


女王は静かに呟く。


「もう少しだけ」


「もう少しだけ待ってください」


その言葉が誰に向けられたものなのか。


侍女には分からなかった。


窓の外では月が輝いている。


----


そしてその夜。


王城からほど近い宿屋で。


鉄仮面の男もまた。


眠ることなく夜を過ごしていた。


運命は少しずつ。


交わろうとしていた。

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