表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物勇者   作者: Toooji
36/57

第三十五章 帰還


白き王国。


王都は静かだった。


数日前。


王国最強と呼ばれた軍勢が


西の大陸へ旅立った時は違った。


王都を包む空気は重かった。


国王の病状が悪化していたからだ。


王城最奥。


大きな窓のある寝室。


国王は寝台に横たわっていた。


かつて自ら馬を駆り、


民の声を聞くため国中を巡った男。


その面影は今も残っているが。


身体は痩せ細り、


声も弱くなっていた。


部屋には一人の女性がいた。


銀髪の女王。


かつて王女と呼ばれた娘。


今は王国を支える存在。


女王は椅子に腰掛け、


静かに父の手を握っていた。


国王は薄く目を開く。


「来ていたか」


「はい」


「仕事はどうした」


「終わらせてきました」


国王は小さく笑った。


昔なら叱っていただろう。


だが今は違う。


娘が立派に育ったことが嬉しかった。


沈黙。


窓の外で鳥が鳴く。


しばらくして国王が言った。


「強くなったな」


女王は少しだけ目を伏せる。


「まだ未熟です」


「そんなことはない」


国王は天井を見上げた。


亡き王妃の顔が浮かぶ。


幼い娘の顔も。


そして。


庭園を馬番を連れて走り回る娘を。


今はもういない男。


忠誠を誓った男。


思い出そうとしても記憶が霞む。


頭の奥が痛んだ。


何か大切なことを忘れている。


そんな感覚だけが残っている。


国王は小さく息を吐く。


「すまんな」


「何がですか?」


「王妃との約束を守れそうにない」


女王は首を振った。


「そんなことありません」


だが国王は笑った。


どこか諦めたように。


そして静かに目を閉じた。


「後を頼む」


それが最後の言葉だった。


----


白き王国国王。


崩御。


知らせは王国中へ伝わった。


街は喪に服す。


教会の鐘が鳴る。


民は涙を流した。


本当に愛された王だった。


葬儀には数万人が集まった。


貴族も。


商人も。


農民も。


兵士も。


誰もが王の死を惜しんだ。


そして同時に。


王国には新たな時代が訪れる。


銀髪の女王が即位した。


まだ若い。


だが国王の娘である。


民は歓迎した。


城のバルコニーに立つ女王。


堂々とした姿。


その横には空席があった。


本来なら夫が立つ場所。


しかしその人物はまだ西の大陸にいる。


遠征軍総司令。


王子。


王国の英雄。


誰もが帰還を待っていた。


----


その数日後。


港町に船影が現れた。


見張りが鐘を鳴らす。


「船だ!」


歓声が上がる。


人々が港へ集まる。


白き王国の旗。


帰って来たのだ。


誰もがそう思った。


しかし。


船は少ない。


あまりにも少なかった。


港は静まり返る。


やがて一隻の船が接岸する。


降りて来た兵士は少ない。


誰も笑っていない。


疲れ果てた顔だった。


港に集まった人々の顔色が変わる。


そして。


一人の騎士が膝をついた。


震える声で報告する。


「遠征軍……壊滅」


港が凍りついた。


誰も声を出せない。


数千の兵。


王国最強の騎兵隊。


誇り高き軍勢。


そのほとんどが帰って来なかった。


悲鳴が上がる。


泣き崩れる者もいた。


家族を待っていた者たち。


恋人を待っていた者たち。


港は涙で埋まった。


----


その翌日。


最後の船が到着する。


人々は再び港へ集まった。


船の上に立つ一人の男。


黄金の髪。


整った顔立ち。


王子だった。


歓声が上がる。


生きていた。


王国を導く英雄が。


王子は静かに手を振った。


悲しみを堪えるように。


苦しみを背負うように。


完璧な英雄として。


----


王城の高い窓。


女王の元に王子帰還の一報が届く。


女王は微笑まなかった。


ただ静かに遠くを見つめていた。


やがて。


小さく呟く。


「戻って来たのですね。」


その声に喜びは無かった。


怒りも無い。


悲しみも無い。


王子は帰って来た。


白き王国へ。


全てが始まった場所へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ