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怪物勇者   作者: Toooji
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第三十三章 魔王降臨


夜明け前。


幻魔王国の各地で、一斉に狼煙が上がった。


長い間、地下に潜り続けた者たち。


家族を奪われた者たち。


チャームに屈しなかった者たち。


そして――自由を忘れなかった者たち。


古魔王国反乱軍がついに立ち上がったのである。


「進め!」


頭領の怒号が響く。


反乱軍は城下町へ雪崩れ込んだ。


見張り塔が落ちる。


門が破られる。


各地で戦闘が始まった。


兵力では不利だった。


それでも士気は高い。


守るためではない。


取り戻すための戦いだった。


「今日で終わらせるぞ!」


歓声が上がる。


男は城外の戦場を駆けていた。


黒い外套。


鉄仮面。


肩から流れる黒布。


誰もその正体を知らない。


ただ一人。


死なない怪物だけが最前線で戦っていた。


魔物が倒れる。


怪物が斬られる。


反乱軍は道を切り開き。


次々と城へ迫った。


その勢いは凄まじかった。


城門は突破され、


ついに反乱軍は王城内部へ突入する。


「勝てる……!」


誰もがそう思った。


だが。


王城最上階。


玉座の間。


そこに待っていた七人の幹部が立ちはだかった。


巨大な斧を持つ魔族。


四本腕の剣士。


瘴気を纏う魔導士。


異形の怪物。


そして若い執事。


かつて魔王を支えた者。


「不届き者どもめ」


執事が静かに言う。


次の瞬間。


玉座の間は地獄となった。


反乱軍精鋭たちが次々倒れる。


だが頭領たちも負けてはいない。


真名石の護符が光る。


チャームは効かない。


魔導士の幻術も通じない。


幹部の一人が討たれる。


もう一人が重傷を負う。


互角だった。


いや。


少しだけ反乱軍が押していた。


だからこそ。


その男は姿を現した。


玉座の奥。


巨大な扉が開く。


重い足音。


鎧の擦れる音。


反乱軍全員が振り向く。


そこに立っていた。


魔王。


全身を黒銀の鎧で覆う支配者。


誰も顔を見たことがない王。


金髪だけが兜の隙間から覗いている。


空気が変わった。


ただ立っているだけなのに。


本能が告げる。


勝てない。


「なるほど」


魔王は静かに笑った。


「よくここまで来た」


その声は穏やかだった。


まるで褒めるように。


しかし次の瞬間。


魔王の身体から黄金色の光が溢れた。


自らにチャームをかけたのである。


筋肉が膨れ上がる。


鎧が軋む。


空気が震える。


まるで別の生き物になった。


エルフの血。


魔族の血。


不死の再生力。


そしてチャームによる自己強化。


魔王だけが持つ異形の力。


「なっ……」


頭領が息を呑む。


次の瞬間。


戦場が崩壊した。


反乱軍精鋭が壁に叩きつけられる。


護符のおかげで精神支配こそ防げていた。


だが。


純粋な力の差が大きすぎた。


剣が折れる。


盾が砕ける。


悲鳴が上がる。


頭領も肩口を深く裂かれた。


ここまで疲弊してなければ。


あるいは。


しかし今は。


勝ち目が見えない。


「これ程までとは・・・」


「退け!」


誰かが叫ぶ。


「退却だ!」


全滅する。


男は城外で異変を感じていた。


遠く離れていても分かった。


あの気配。


忘れるはずがない。


魔王。


胸の奥。


呪われた魂が疼く。


怒り。


憎しみ。


地獄の日々。


全てが蘇る。


城へ向かおうとしたその時だった。


伝令が駆け込んでくる。


「退却だ!」


「頭領の命令だ!」


男は立ち止まった。


歯を食いしばる。


行けば戦える。


だが。


今行けば全員死ぬ。


その時だった。


朝靄の草原に馬の嘶きが響く。


数十頭。


騎兵隊の馬たちだった。


王国から連れてきた名馬たち。


先頭には、あの賢い黒毛の馬がいる。


馬は一直線に男の元へ駆けて来た。


まるで迎えに来たように。


男は馬の首を撫でた。


「……頼む」


馬は鼻を鳴らした。


やがて敗走してきた反乱軍が次々と集まる。


負傷者。


頭領。


生き残った仲間たち。


男は馬たちを誘導した。


不思議なほど素直だった。


反乱軍は馬に跨る。


負傷者を乗せて走り出す。


夜の山道へ向けて。


追撃の声が遠ざかる。


魔王軍は深追いしなかった。


魔王は勝利していたからだ。


城の最上階。


玉座に座る魔王。


「もうよい」


静かに言った。


「退いた時点で奴らに未来は無い」


彼は余裕だった。


そして翌日。


幻魔王国全土に強力なチャームが放たれる。


逃亡者を炙り出すため。


反乱の芽を摘むため。


「後は任せる」


「予定通り、中央大陸へ向かう。」


魔王は幹部たちへ命じる。


王国軍全滅。


その報告とともに帰還する予定だ。


中央大陸では国王が危篤。


帰還する理由は十分だった。


魔王は立ち上がる。


「いくぞ」


向かう先は白き王国。


王妃が待つ国。


そして――


----


男たちは山脈の闇の中を走り続けた。


敗北だった。


だが全滅ではない。


まだ希望は残っている。


男の胸元で、


真名石の護符が淡く光っていた。


その光は。


誰にも気付かれず。


魔王の感知から男を隠し続けていた。

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