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怪物勇者   作者: Toooji
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第二十七章 護符


炭鉱跡を出た時。


男は思わず空を見上げていた。


久しぶりに見る青空だった。


長い洞窟の探索。


ノーム達の悪戯。


そして真名石。


すべてが夢だったような気さえする。


しかし腰袋の中には確かにあった。


淡く青く輝く石。


真名石。


男は何度もその感触を確かめた。


失いたくなかった。


ようやく手に入れた希望だったからだ。


反乱軍の隠れ里を出てから数日経っていた。


山脈の風は冷たい。


しかし男の足取りは軽かった。


久々に未来が見えたからだ。


隠れ里へ帰還すると歓声が迎えた。


真名石の存在は反乱軍の中でも伝説だった。


実在すると信じていた者すら少ない。


ましてや持ち帰った者などいない。


酒が振る舞われ。


肉が焼かれ。


その夜だけは皆が笑っていた。


男は少し離れた場所からその様子を眺める。


騒ぐのは苦手だった。


だが嫌いではない。


遠い昔。


西の王国でも似た光景を見たことがある。


戦の勝利祝い。


仲間達の笑顔。


思い出すと胸が痛んだ。


それでも今は目を逸らさなかった。


----


翌日。


頭領に呼ばれる。


案内された先は鍛冶場だった。


洞窟を利用して作られた大きな工房。


熱気が凄まじい。


反乱軍の武器や鎧の多くはここで作られているらしい。


中央では老いた魔族が腕を組んで待っていた。


白髪。


大柄な体。


片目には古傷。


見るからに頑固そうな男だった。


「そいつか」


老人は男を見る。


そして真名石を見る。


眉が上がった。


「本当に持ってきやがったか」


頭領が笑う。


「だから言っただろ」


「未来を変える男だと」


老人は鼻を鳴らした。


「賢者の戯言だと思っていた」


そう言いながら真名石を受け取る。


しばらく眺める。


職人の目だった。


やがて呟いた。


「綺麗な石だ」


----


加工には三日かかった。


真名石は想像以上に硬かった。


普通の工具では削れない。


特殊な魔鉱石の刃を何本も潰した。


そして完成した。


小さな護符。


薄い青色。


手のひらほどで薄い板状。


革紐が通され首から下げられるようになっている。


男はそれを受け取る。


不思議だった。


軽い。


しかし存在感は増している。


胸元へ掛ける。


すると――


一瞬だけ。


冷たい水が身体を流れた気がした。


「……?」


男が顔を上げる。


鍛冶師が笑った。


「感じたか」


「何をした」


「何もしてねぇ」


老人は肩をすくめた。


「それが石の力だ」


男は石を見つめた。


「余った石は使わせてもらってもいいか」


「我らの部隊にも持たせたい」


男は笑顔で頷く。


「好きに使ってくれ」


----


その夜。


男は頭領に呼ばれた。


二人で焚火を囲む。


珍しく頭領の表情は真面目だった。


「決戦の準備は整ったな」


「ああ」


「護符はどうだ?」


「・・・あまり分からない」


頭領は笑う。


「苦労した割にそんなものか」


だが続く言葉は重かった。


「ただな」


「お前を見ていると妙な気がする」


「妙?」


「以前より存在感が薄い」


男は黙る。


頭領は首を傾げた。


「上手く言えん」


「目の前にいるのに気付きにくい」


「そんな感じだ」


その時だった。


男も違和感に気付く。


胸の奥。


常に感じていた嫌な感覚。


何かが近くにいる気配。


あの感覚が弱くなっていた。


完全ではない。


だが確かに薄い。


何十年も付きまとっていた。


魔王の気配。


それが遠ざかっている。


男は護符を握る。


冷たい。


だがどこか安心する。


まるで清らかな水が流れているようだった。


----


その頃。


遥か彼方。


幻魔王国。


王城最上階。


魔王は執務机に座っていた。


農地開拓の報告。


奴隷の管理状況。


食糧生産量。


退屈な内容ばかりだった。


ふと。


魔王が顔を上げる。


何か違和感があった。


ずっと感じていた小さな棘。


それが消えている。


「……?」


金髪の王子は窓の外を見る。


だが何もない。


気のせいか。


そう結論付ける。


次の瞬間には興味を失っていた。


男は知らない。


今この瞬間。


魔王の感知から逃れたことを。


そしてそれが。


未来の戦いを大きく変えることになるのを。


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