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怪物勇者   作者: Toooji
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第二十六章 真なる名


炭鉱跡の最深部。


男は一人、暗闇の奥を歩いていた。


ノーム達の笑い声はもう聞こえない。


代わりに聞こえるのは、


地下深くを流れる水音だけだった。


ぽたり。


ぽたり。


静寂の中に響く。


やがて洞窟は突然終わった。


巨大な空洞。


天井は見えない。


中央には地下湖。


その湖の中心に、


一本の石柱が立っていた。


そして――


そこだけが青白く輝いている。


「……あれか」


見つめる。


不思議な光だった。


眩しくない。


だが目を離せない。


心の奥を掴まれるような光。


男は湖へ近づいた。


すると足元の水面が揺れる。


波紋が広がる。


一つ。


二つ。


無数。


たくさんの何かが近くにいるように。


その時だった。


声が聞こえた。


頭の中に。


――おまえは誰だ。


男は立ち止まる。


再び声。


――おまえは誰だ。


不思議な声だった。


男でもない。


女でもない。


老人でも子供でもない。


ただ世界そのものが語りかけているような声。


男は答えようとして、


言葉に詰まった。


自分は誰だ。


親衛隊長か。


怪物か。


復讐者か。


魔王を殺す者か。


どれも違う気がした。


気付けば、


男はぽつりと言っていた。


「……分からない」


声は沈黙した。


しばらくして、


優しく問いかける。


――では何を望む。


男は目を閉じた。


思い浮かぶのは一人の少女。


銀の髪。


笑顔。


花畑。


城の庭園。


幼い頃の王女。


そして。


泣きながら怪物と呼んだ王妃。


どちらも同じ人だった。


胸が痛んだ。


それでも。


男は答えた。


「守りたい」


静寂。


「国を」


静寂。


「王女を」


静寂。


そして最後に。


「約束を果たしたい」


その瞬間だった。


湖が光り始めた。


青白い光が空洞全体を埋め尽くす。


男は見ていた。


湖の中央。


石柱の上。


一つの石が見える。


水色。


透き通るような輝き。


まるで昼間に見る、月の欠片。


真名石。


男はゆっくり近づいていく。


そして手を伸ばし、片手を触れた。


温かかった。


その瞬間。


男の脳裏に無数の光景が流れ込む。


過酷な訓練。


戦場。


仲間の死。


監獄。


拷問。


永遠地獄。


絶望。


意識だけの世界。


恐怖。


拒絶。


孤独な戦い。


味わってきたたくさんの苦しみを


何度も何度も繰り返し見せられる。


そして――


全てが今に繋がる。


男は膝をついた。


知らぬ間に涙が溢れ、震えていた。


男は両手で石を掴み。


抱え込んだ。


魔王を倒すための希望。


賢者の言葉が蘇る。


『それは魂を洗う石』


『偽りを剥がし、自我を解き放つ』


『忘れた名を思い出させる』


『だが万能ではない』


『最後に決めるのは本人じゃ』


男は石を見つめた。


まだ分からない。


だが一つだけ確信していた。


私は「王女の剣」。


ずっと。


分かっていた。


男は立ち上がる。


そして初めて、


ほんの少しだけ笑った。


裂けた口のせいで、


酷く不気味な笑顔だったかもしれない。


洞窟の奥で、


再びノーム達の笑い声が聞こえてきた。


ケラケラ。


キャハハハ。


戻って来れたと実感する。


男は真名石を見つめた。


ここからだ。


ようやく。


ここから始まる。


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