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怪物勇者   作者: Toooji
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第二十一章 相棒


朝日が荒野を照らしていた。


男は岩陰で目を覚ます。


西の大陸へ上陸して二日目。


夜通し歩き続けていた。


本来なら疲労で倒れていてもおかしくない。


だが男の身体は普通ではない。


眠らずとも動ける。


食べなくとも死なない。


傷ついても再生する。


それでも疲れは溜まる。


思考も鈍る。


だから短い休息は必要だった。


男は立ち上がる。


仮面を被り直す。


腰の剣を確かめる。


今日も山へ向かう。


その時だった。


遠くから蹄の音が聞こえた。


トタタタタタッ――


男は身構える。


魔族か。


追手か。


だが聞き覚えがある。


規則正しい足音。


無駄のない走り。


やがて地平線の向こうから一頭の馬が現れた。


漆黒の軍馬。


見事な体躯。


強く美しい瞳。


馬が大きく嘶いた。


そして一直線に駆け寄ってくる。


男の目前で急停止した。


砂埃が舞う。


馬は鼻先を男の肩へ押し付けた。


甘えるように。


再会を喜ぶように。


男はしばらく言葉を失った。


国王直属騎兵隊。


数百頭の軍馬の中で。


特に賢かった一頭。

 

馬は再び鼻を鳴らす。


男は思わず笑った。


裂けた口ではまともな笑顔にはならない。


それでも。


心から嬉しかった。


「船を抜け出したのか」


軍馬は誇らしげに首を上げた。


おそらくそうなのだろう。


馬はとても賢い。


少なくともこの馬は。


男を追ってきた。


ただそれだけだった。


男はたてがみを撫でる。


「すまない、今度はおいてはいかんよ」

 

しばらくそうしていた。


馬は嫌がることもなく身を預けている。


やがて男は小さく頷いた。


「よし行くぞ」


軍馬が嘶く。


男は飛び乗った。


身体が自然に動く。


何十年ぶりかも分からない。

 

それでも感覚は忘れていなかった。


この国で魔王討伐に赴いた頃のままだ。


馬と一体になる感覚。


男は手綱を握った。


「山へ向かう」


馬は待っていたかのように駆け出した。

 

風が吹く。


荒野が流れていく。


速かった。


歩くのとは比較にならない。


数週間の距離が半分以下になるだろう。


男は久しぶりに前を向いていた。


目的地がある。

 

やるべき事がある。


相棒もいる。


ほんの少しだけ。


胸が軽かった。


----


数日後。


夕暮れ。


目指す山脈はまだ遠く先だった。


果てしない荒野が続く。


だが、今は一人では無い。


相棒の存在は心強かった。


男は馬を休ませるため。


小さな岩場へ向かった。


そこで異変に気付く。


馬が耳を立てていた。


警戒している。


敵がいる。


男も気配を探る。


すると。


岩陰から声がした。


「その馬……」


若い男の声だった。

 

「王国軍の軍馬だな」


男は即座に剣へ手を伸ばす。


岩陰から現れたのは二人。


どちらも角を持つ魔族だった。


だが奇妙だった。


鎧は古い。


武器も粗末。


そして何より。


目に生気があった。


操られた怪物兵の目ではない。


自分の意思を持つ者の目だった。


一人が男を見つめる。


仮面を見る。


外套を見る。


そして首を傾げた。


「人間か?」


もう一人が鼻で笑う。


「違うだろ」


その視線が男の赤い瞳を捉える。


「人間なら赤く光る目はしていない」


緊張が走る。


風が吹く。


誰も動かない。


やがて年上の魔族が口を開いた。


「質問を変えよう」


静かな声だった。


しかし鋭い。


「お前は魔王の味方か」


男は答えない。


剣の柄を握ったまま。


相手も武器に手を掛ける。


一触即発。


その時。


年上の魔族の視線が男の持つ木片に止まった。


港で拾った矢印の木片。


裏には文字。


『魔王を憎む者は山へ来い』


男はゆっくり木片を見せた。


魔族達の顔色が変わる。


数秒の沈黙。


やがて年上の魔族が頷いた。


「……なるほど」


武器から手を離す。


そして静かに言った。


「なら付いて来い」


男は目を細める。


「お前たちは誰だ」


魔族は振り返らない。


ただ歩きながら答えた。


「付いてこれば分かる」


山から吹き下ろす風が強くなる。


男は相棒の首を軽く叩いた。


そして魔族達の後を追う。


真名石への道。


そして。


魔王討伐への新たな道が、


静かに開かれようとしていた。

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