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怪物勇者   作者: Toooji
21/57

第二十章 亡国の大地


夜明けとともに、西の大陸が見えた。


灰色だった。


男は船倉の隙間から陸地を見つめる。


かつて遠くから眺めた故郷とは違う。


緑が少ない。


森がない。


畑もない。


山肌は剥き出しで、大地は乾ききっていた。


まるで死んだ土地だった。


「見えてきたぞー!」


船員たちの歓声が聞こえる。


兵士たちも甲板で盛り上がっているのだろう。


救出遠征。


王国の英雄譚。


誰もがそう信じている。


男だけが知っていた。


この大陸に救うべき民など残っていない。


魔王は人に自由を許さなかった。


チャームの力で完全無力化したので。


そして怪物は食い尽くした。


魔族は消費するだけだった。


数十年前。


西の王国は滅んだのだ。


完全に。


----


船が港へ入る。


男は息を潜めた。


港には多くの人影があった。


いや。


人ではない。


魔族だ。


角を持つ者。


灰色の肌をした者。


大柄な者。


様々だった。


しかし兵士たちは気づかない。


彼らには歓迎する住民に見えている。


広域チャーム。


魔王の得意とする幻惑。


賢者の話は本当だった。


男は仮面の下で歯を食いしばる。


これほどの規模。


周辺すべでを包み込むほどの術。


改めて魔王という存在の異常さを思い知らされる。


兵士たちは次々と上陸した。


笑顔だった。


希望に満ちていた。 


誰も疑わない。


誰も気付かない。


その先に待つ運命を。


男は最後の物資が運び出されるのを待った。


夜になる。


港は静かだった。


見張りも少ない。


必要ないのだろう。


侵入者などいない。


誰もここへ来たがらない。


男はゆっくりと船を降りた。


乾いた風が吹く。


懐かしい匂いだった。


故郷の匂い。


だが同時に。


死臭でもあった。


男は港を離れた。


街道へ出る。


そして立ち止まる。


遠く。


月明かりの下。


かつて王都だった場所が見えていた。


西の王城。


今は幻魔王城。


男の故郷。


男が守れなかった王国。


男はしばらく動けなかった。


国王。


仲間達。


民たち。


家族を失い泣いていた子供たち。


焼かれた村。 


怪物に喰われる人々。


全てが脳裏によみがえる。


拳が震える。


今すぐ行けば。


王城へ行けば。


魔王を殺せるかもしれない。


そんな衝動が湧き上がる。


だが。


男は首を振った。


まだだ。


賢者は言っていた。


チャームを破る術が無ければ勝てない。


何度でも同じ結末になる。


必要なのは怒りではない。


準備だ。


男は視線を移した。


王城とは反対。


北西。


巨大な山脈が連なっている。


天を突くほど高い峰々。


雲を貫く白い頂。


かつて国境だった場所。


今は幻魔王国と古魔王国を隔てる天然の壁。


真名石が眠る場所。


男の次なる目的地だった。


街道を外れ荒野へ入る。


夜のうちに距離を稼ぐつもりだった。


その時。


カラン。


小石が転がる音がした。


男は反射的に剣へ手を伸ばす。 


気配は無かった。


しかし確かに音がした。


岩陰を見る。


誰もいない。


風だけが吹いている。


男は慎重に歩み寄った。


すると岩の上に何かが置かれていた。


小さな木片。


矢印の形に削られている。


向いている先は山脈だった。


男の目が細くなる。


偶然ではない。


誰かが置いた。


そして。


見られている。


男は周囲を見渡す。


何も見えない。


しかし背筋が告げていた。


誰かがいる。


近くに。


男は木片を拾った。


裏返す。


そこには古い文字が刻まれていた。


『死にたくなければ王城へ近づくな』


男は立ち尽くした。


魔族の文字だった。


だが。


その下にもう一文あった。


小さな文字。


『魔王を憎む者は山へ来い』


男の瞳が静かに揺れる。


賢者の言葉が蘇る。


――魔族も一枚岩ではない。


――多分な。


男は空を見上げた。


月は高い。


そして遠く。


山脈の闇がこちらを見返しているようだった。


真名石。


魔王討伐。


全ての道が。


あの山へ繋がっていた。

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